第8話:ねこ大好き 中編
◇ ◆ ◇
電車に乗って、お互いの家がある最寄りの駅までついた。
この駅から北に向かうと高級住宅街、南に向かうと昔の下町地域(今はさびれてしまった)になる。
当然、りーちゃんの家は北で、俺の家は南なのだが、リサは
「タクミんち寄ってくー」
と言って聞かなかった。
そもそもりーちゃんはあまり自分の家にいたがらない。
りーちゃんがやりたがるゲームソフトは俺の家に置いてあることも多い。
(自分の家用と俺の家用に二本以上もってるソフトも多いらしいが)
俺の両親も歓迎──というか慣れてしまったので、りーちゃんが家にいても全く普通のことのように対応するのだ。もしかしたら、軽い食事ぐらい用意してそうだ。
結局、押し切られて一緒になって道を歩いていると、狭い路地からにゃーにゃーと猫の鳴き声がした。二人でその路地をよく見てみると、二匹の猫がいた。
どうも親子の猫のようだ。
「わー、かわいー」
と言うりーちゃんと共に、その様子を眺めていたがどうも様子がおかしい。
「なんか変だね」
鳴きながらよろよろと歩き回る子猫を、親猫は鬱陶しそうに扱っていた。
パンチのような仕草も見せている。
「うーん……。どうも親の猫がおっぱいを上げるのを拒否してるみたいだな」
おっぱい……という言葉に反応して、りーちゃんが自分の胸に目をやるがシカトしておく。
「子猫がある程度大きいながら、親猫が嫌がるのも分かるんだがなー」
母乳が必要なくなるタイミングで、親は子どもの乳離れを促す。
だが、どうみてもこの子猫の大きさではまだ母乳が必要だ。
「育児放棄……なのかな?」
「かもなぁ……」
子猫の発育状態はあまり良くなさそうだ。
親猫としては自然界の摂理に従っているだけかもしれない。
「助けた方がいいのかな?」
人間が手を出すべきなのか、簡単には判断できない状況だった。
「……試してみるか」
と、俺は猫を脅かさないように路地裏にゆっくりと入って、よろよろとしている子猫をかるく持ち上げてみた。
親猫は我関せずという感じだ。
「……うーん……」
こういう場合の母猫の一般的な反応としては、子どもを取られて怒るという感じなのだが、単に人間に慣れているだけという事も考えられた。
「あ、行っちゃうよ」
どうするかな……と迷っていると、親猫はあくびをしてからどこかへ行ってしまった。
「……どうする、タクミ?」
「まぁ……育児放棄と考えていいだろうなぁ……。俺の家は父さんがアレルギーなんだよなぁ……」
「私の家もちょっとなぁ……親に世話頼んだりするのも嫌だし」
「……しゃあないなぁ……とりあえず俺の家に行って、食事と段ボールかなんかを用意しよう。その後、人がいる駅前まで戻って世話してくれる人を探してみるか」
見つからなかったら、また考えれば良い。
「おう!」
りーちゃんが気合いを入れて拳を握りしめた。
◇ ◆ ◇
とりあえず家でミルクを上げると、うまうま言いながら勢いよく飲んでくれたので、健康状態としては大きな問題はなさそうだと判断して、子猫を毛布を段ボールに入れた状態で駅前まで戻ってきた。
「すいませーん」
駅前で段ボールを抱えた状態で声を張る。
『猫の飼い主募集中』
という張り紙を段ボールに貼ってある。
まだ昼間で人通りがあるし、高校生二人──しかも一人はヤンキー美人──という感じなので、人目を引いた……が、なかなか声をかけてくれる人はいなかった。
「うーん、私の格好が悪いのかなぁ〜?」
とか言いながら、子猫をなでるりーちゃんを見ていると、俺の目からは猫が猫をなでているようなカワイらしさがあって笑ってしまう。
「なぁ〜。ひどいよなぁ〜。こんなにかわいいのになぁ」
と、猫とりーちゃんのどっちにも取れるような言い方をして、俺も猫をなでた。
「ん〜? どっちの事??」
と聞いてくるりーちゃんを
「そりゃ、お前のことだよ〜」
と猫をなでながら言って軽くいなすと、りーちゃんが頬をぷくっと膨らませながらむくれていた。
◇ ◆ ◇
「あの〜」
そうこうしていると、俺たちに声をかけてくる人物が現れた。
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