第7話:ねこ大好き 前編

入学式から数日後、俺とりーちゃんは帰り道の途中のコンビニで買い食いをしていた。


正確には、りーちゃんが


「お腹、減ったー」


というので俺は付き合っているだけだが。


駅近くの雑多なロータリーにあるその店の前で、りーちゃんが買い物をし終わるのを待っていると──


「おー、青学の新入生じゃーん。こんにちわー、名門校のおぼっちゃまー」


とチャラチャラとした高校生三人組に絡まれた。


「……」


特に相手をする意味も見いだせないので、無言を貫く。


「お〜い、聞こえてますか〜。名門だからってお高くとまってんじゃないぞ〜」


と下から覗き上げるように距離を詰めてくる。

正直、ウザい。

そもそも俺はおぼっちゃまでも、なんでもないし、名門校を鼻にかける気なんて毛頭ないのに。


彼らにかける言葉を、俺なりに頑張ってひねり出してみた──


「悪いけど、ジャマなんで、どっか言ってくれない?」


「あん!? なんだと。年上に向かって失礼だろうが」


「いや、あんたが年上かどうか俺は知らないし、いきなりそんな絡みをする方が失礼だし、そもそも用がないのに喋りたくないから」


「なんだとてめぇ……こんな、お行儀の良い格好してるくせに、生意気な口を聞きやがって!」


と言って俺の髪を掴もうとする。


──ガッ──


とその手を掴んだのは俺だった。

ぎりぎりと、その腕に力を込める。


「……ぐっ……」

「お、おい!」


うめき声を上げる男を見て、連れの男たちも色めきだつ。

俺としても大事にはしたくないんだけど──


そこに、


「タクミ〜、待ったぁ〜?」


とカワイコぶった口調でりーちゃんが現れた。

その手には、コンビニで買ったであろうソフトクリームが握られている。

まだ肌寒いってのに……。


「……へ、へぇ〜……、なかなか……かわいいじゃん……」


俺の手から解放された腕を押さえている男が、ゲスい目をリサに向けていた。

腕はまだ痛むだろうに、元気なこった。


「どうもありがとう〜。でもおにいさん見たいなダサい奴らには興味ないの♡」


キャピッっとしながら喋るりーちゃんは──


「てめぇらコラァ! あたいの男になにしとるんじゃゴラァ……! ボコすぞ、クソガキィ!」


一秒後にはヤンキー……というか、ドS番長になっていた。


チャラ不良たちは、りーちゃんにギリィと睨み付けられると、


「ひ、ひぇっ!?」


とたじろぎ──


「さっさとウチ帰って、マスでもかいてろ、童貞ヤロォども!」


「は、はい!」


さらに追い打ちを受けて退散していった。

度胸ないなぁ……。

良く見れば、右手にソフトクリームもった女子高生だぞ。


「…………リサ」


「なに?」


「おまえ、意味分かって言ってるの?」


「…………ぽっ」


若干恥ずかしがるりーちゃん。

……この話はあまり深く聞かない方が良さそうだ。


 ◇ ◆ ◇


ロータリーの近くのベンチに座って、りーちゃんはペロペロとソフトクリームをなめている。

つり目で目鼻立ちの整っている彼女がそうしているのを、「猫みたいだな」と思って眺めていた。

まぁストレートに言ってしまえば、かわいい。


「ん? タクミも欲しいの?」


「い、いやそういうわけじゃないけど」


突然喋りかけられたのもあって、若干どもってしまった俺に、


「はは〜ん、さては恥ずかしがってるな?」


と、若干調子に乗った目線を投げてきた。


「ふ、何を恥ずかしがるんだか」


「ほら、間接キスになっちゃう、とか気にしてるんだろ? このウブめ」


そう言って、にへらと笑う。

俺は少し悔しくなって、りーちゃんの手ごとソフトクリームを握って、ペロリと一口、二口と食べてしまう。


「あぁ! ずるい!」


「うへぇ……甘い」


「あたり前でしょ、ソフトクリームなんだから」


「あ、あと──」


ソフトクリームを舐めながら気がついたような素振りをわざとする。


「─なんかリサの味がするわ、おいしい」


「──っ──」


りーちゃんの顔がぱっと赤くなった。


「……な、なに、きもいこと言ってるのよ!」


と言って、残りのソフトクリームを全部一人で食べてしまうりーちゃん。

耳まで赤くなっていて、可愛らしいのと同時に、なんだか微笑ましかった。

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