第6話:放課後説教タイム
入学式初日ということもあり、授業は午前中だけで、教科書の配布や授業のオリエンテーションで終わった。
昼にさしかかろうかというところで、担任の目黒先生から「もう言われてると思うけど、あとで職員室ね〜」と念を押された。
入学式の際にも言われた、りーちゃんの容姿に関することだ。
職員室に入ると、生活指導担当の榊原という教師のもとへ案内された。
ジャージに竹刀をもったゴツい典型的なタイプ──ではなくて、スーツ姿に眼鏡をかけたスマートかつ鋭敏な印象を与える男だ。
名門校だけに、昔の体育会タイプのような教員は必要ないのかもしれない。
そんな、榊原の前にりーちゃんと二人で立った。
「君は問題ないようだが?」
と俺の方を見て榊原は言う。
「付き添いです」
「ふぅん……まぁいいが……」
興味なさそうに俺を一瞥したあとに、りーちゃんの方へ目を向ける。
りーちゃんは、いかにも「早く終わらないかな」といった風に、視線を別の方向へ漂わせていた。
「なんだ、その態度? 話、聞く気あるのかね?」
「……ないので、帰っていい?」
ヤンキー口調ではないが、タメ口だった。
「ふむ……実は鬼塚くんがそういうタイプという事は知っていた。親御さんも心配していたからな」
それを聞いて、りーちゃんの体がぴくりと揺れた。
「とりあえず……なんでそんな格好をしているんだ?」
「別に……カッコいいから」
「カッコいいねぇ……そのセンスは分からんが……」
「(おっさんには分かんないんだよ)」
りーちゃんが小さく言った言葉に、今度は榊原の眉がぴくりとした。
「なんにせよ、非常識だと言うことは理解しているな?」
「理解してない。何が悪いのか分からない」
「お前なぁ……」
これまで冷静だった榊原の語気が荒くなる。
「天下の鬼塚財閥の一人娘ということで多めに、見てもらえると思っただろうが……」
そういうとスーツの袖から何かを取り出して腕を振り──
「甘く見てるんじゃないぞ!」
その何かでガンと床を叩いた。
見ると携帯型の警棒だった。
(……おいおい、こいつ結構ヤベぇな……)
ジャージに竹刀のがまだ平和だった。
というか、一般人がそんなもの持ち歩いていいんだろうか。
「……ま、親御さんからも厳しく指導していいと言われてるしな」
俺もりーちゃんの親のことは知っている。
そこから想像するに、「厳しい指導」を学校に要望する……というのはありえる話に聞こえた。
逆にりーちゃんとしては学校で親の話が出るのは嫌だろう。
「……親は関係ない」
ぼそりと声をだして反応していた。
「まぁいい……明日から髪も黒くしてピアスもやめろよ。あと制服もちゃんと着ろ」
「嫌」
「お前なぁ……」
はぁ……この二人にやりとりさせてると埒が明かないな。
俺は口を挟むことにした。
「榊原先生、そもそも校則上は髪型やピアスに関する規定はないはずですが」
「あん?」
一応、入学する前に青川学園の校則は調べてある。
「校則には『節度を持った身だしなみを心がけること』と書いてあるだけで、茶髪がいけないとかピアスがいけない等とは書いてありません」
「馬鹿野郎。常識でものを考えろ。普通は入学式早々からそんな格好してくる奴はいねえんだよ。それが節度を持つって事だろう」
まぁ良くある大人の論理だ。
「常識ですか……。そういえば『常識とは、十八歳までに身につけた偏見の集まりである』と、ある偉い物理学者が言ったとか」
「子どもが屁理屈を」
「それに、入学後に髪を染めている生徒だっていないわけではないでしょう?」
「……あのな。確かにそういう生徒もいるが、そういう奴らは、勉強でついて行けなくなった落ちこぼれだ。……それに、一応指導はしている」
「落ちこぼれという言い方は、先生の偏見を反映したものでは?」
「……」
榊原は苦虫をかみつぶしたような表情だ。
「そもそも校則上に細かい規定がないのは、この学園が設立された当初に目指された自由な校風を反映していると認識しています」
「……もう一度言うが、だからって入学式早々からこんな格好してくる奴がいるか」
「もう一度言いますけど、入学後はOKなのに、入学式ではダメなんですか? それって何か変じゃないですか?」
「ぐぬ──」
俺としては、俺たちが一番有意に立てる議論のポイントに持ってくることができた
とはいえ、もうここからは感情論だろう。
榊原自身にも、教師と大人してのプライドがあるので、自分から引き下がることはないはずだ。
怒鳴りあいにでも発展してしまう。
ここは、彼にも何らかの「成果物」を与えた方がいいだろうと考えた。
「とはいえ……リサの態度や言葉には問題があったのは確かです」
「ん?」
「その点については謝りますし、改めさせます……ほら」
「え?」
俺はりーちゃんに耳打ちすると背中を押して頭を下げさせた。
「す、すまん……じゃなかった。すいません……でした。今後、気をつける……っす」
「あ、ああ!」
榊原が面を食らって反射的に返事をした。
今のうちにさっさとこの場を立ち去ろう。
「それじゃ、榊原先生。失礼します」
「あ、ああ…………って……おい」
俺はりーちゃんの手を引いて職員室から出た。りーちゃんはぶつぶつと文句を言っていたが、とりあえずスルーだ。
教室に荷物を取りに戻ると、里中とマミが待っていてくれた。
「大丈夫だった?」
「ああ、問題ない」
二人に、榊原のやりとりを話すと「竹中って鬼塚さんの保護者みたいだね」と笑われた。
りーちゃんは、最初
「馬鹿にするな」
とぷんすか怒っていたが、ふと考える仕草をした後、
「……ま、それもいいか」
とつぶやいた。
え、それでいいの? と俺は心の中でツッコんだ。
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