第5話:おねがい☆先生
「は〜い、皆さん。席について〜」
がやがやとしている教室内に、一人の若いスーツ姿の女性が入ってきた。
おそらく担任の教師だろう。
「お、いけね」
「じゃ、また後で」
里中とマミもそれぞれ自分の席に戻っていった。
他の生徒たちも、それぞれ自分の席に着く。
それを確認して女教師が口を開いた。
「今日から皆さんの担任になる目黒ヒトミです。よろしくね〜」
口調からしてほわんとした雰囲気の先生だ。
控えめに言って美人の部類に入る顔立ちだった。
目鼻立ちが整っていながらも、どこか幼い雰囲気もある。
「じゃ、まずは軽く皆に自己紹介してもらおうかしら……。と、その前に私からした方がいいわね〜」
コホンと軽く咳をする。
「名前はもう言ったけど──目黒ね。趣味は──カラオケかなぁ。結構昔のロックが好きだったりするの〜。特技は──」
くるりとその場で回ると、シュッっと手を振り──
「チョーク投げ!」
と、チョークを投げるようなそぶりをした。
「ってのは冗談だから安心してね〜」
にこりと笑いながら言う。
「「ハハハッ!」」
生徒達もつられて笑った。
「ま、そんな感じかな。身長は160cmぐらい、年齢と体重とスリーサイズはヒミツよ。聞きたい子は、こっそり聞きに来てね。でも、後で誰が来たか発表しちゃうけどね〜」
軽いノリで話すので、入学したばかりで緊張感の漂っていた教室の雰囲気がやわらいでいるのを感じる。
「それじゃ、五十音順で自己紹介をお願いするわね。最初は……相川くんからかな」
「はいっ、名前は───」
五十音順だと、鬼塚の「お」は早い。
全体で四番目がリサの番だった。
──ガタッ
リサが立ち上がると、それまで緩い雰囲気だった教室の雰囲気が軽く緊張する。
「あたいは鬼塚リサだ!」
うわ〜、気合いが入りすぎたスケバンの雰囲気で自己紹介を始めやがった。
(軽くでいいぞ、軽くで!)
と、リサに向かってウインクで目配せをする。
(……きゃっ)
なぜかテレている。
「趣味は……う〜ん……」
最初の勢いは良かったのに、趣味を言うのにちょっと恥ずかしがっているようだ。
「か、格闘……(げぇむ)」
おい、最後の方が聞こえてねぇぞ。
周りの生徒がヒソヒソしだす。
「おい、趣味が格闘だってよ」
「うわ〜、こえ〜」
完全に勘違いされていた。
「特技は……ひ……
いや、確かにお前たまに料理作ってくれるけど、そんな得意じゃないだろ。
なにこんなところで見栄を張ってるんだ。
しかも、声が小さかったせいか、周りに中途半端に聞こえている。
「人?……(を)……料理!?」
「殺しってこと!?」
周りが怯えていた。
(……お〜い、大きな声で喋れよ)
と目線でリサに伝えると──
「と、とにかく、よろしくぅ!」
──ビクゥッ──
余計に周りが怯えてしまった。
うん、明らかに皆にはいかにも「夜露死苦」って感じで聞こえたな……。
◇ ◆ ◇
自己紹介が終わった後の自由時間──とりあえず里中とマミだけには、りーちゃんがそんなに怖くないということを分かってもらおうと思って、俺は二人にりーちゃんを紹介した。
「いや〜、こいつ人見知りするんだよね〜」
「よ、よろしく」
りーちゃんは、先ほどと打って変わって、おどおどと挨拶をしていた。
「「ははは」」
と若干ビビりながらも、里中とマミも挨拶をしてくれた。
当然、趣味と特技の誤解も解いておく。
「へ〜、鬼塚さん、竹中君に料理つくってあげてるんだ〜」
「すげーなぁ」
と二人が褒めると、「へへへ」と若干上機嫌になるが──
「まぁ、そんな上手くないけどな」
とツッコミを入れると、ギロリとにらまれた。
その様子を見ていた里中が、
「うわ〜、これは怖い。鬼塚だけに、まさに『鬼嫁』だ!」
とおどけると、
「わ〜、その、上手いこといったつもりのドヤ顔〜」
などとマミが茶化していた。
──ビクン──
「鬼……嫁?」
りーちゃんの雰囲気が変わった。
「ほ、ほら! 里中が調子に乗るから」
「す、すまん!」
慌てて謝る二人をよそに、りーちゃんは一人繰り返していた。
「鬼嫁……。鬼……ヨメ……」
「「「ん……?」」」
「ヨメ……ヨメ……」
にへらと笑っている。
どうやら、鬼という部分はどうでも良くて、嫁という部分が気に入ったらしい。
しばらく、一人でにやにやとするりーちゃんを見ながら、俺は
【りーちゃんをしおらしくする方法その五:鬼嫁と呼ぶ。おかしなことに、鬼という部分は無視され、嫁という部分だけが本人の中で強調されているらしい】
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