第4話:フレンドリストにメンバーが追加されました
座る席は基本的に自由と言うことなので、適当にあいている後方の席にりーちゃんと隣り合わせで座る。
入学式はつつがなく終わった。
いや、実際のところは、明らかに目立つりーちゃんの髪型と格好に、教師の視線が集まっていた。
男子教師が、眼鏡をギラリを光らせながら、
「……そこの君、あとから職員室に来るように」
なんてことを言ってきた。
恐らく、時間的に入学式がもう始まってしまうので、説教は後で……ということだろう。
まぁこの場で騒ぎになるのを嫌ったとも考えられるが。
入学生の代表挨拶は、先ほどあったばかりの南条カオリだった。
学校を褒めたたえる、ありふれた文章を読み上げていた。
「──この歴史と伝統ある、青川学園高等部に入学できることを誇りに思い──」
なんて文句が聞こえてきたので、俺は一人、
「『金もある』も付け加えとけ」
なんて独り言っぽく皮肉を言った。それを聞いた隣のりーちゃんは、いかにも上機嫌で「そうだねー」なんて相づちを打っている。
この女、まだ調子に乗ってやがるな……。
そんな感じで入学式を終えると、クラス分けが発表された。
この学園の一学年のクラス数は30近い。
りーちゃんと同じクラスになる可能性は低いだろうなと思っていたが──
「おっ、タクミと同じクラスだ。いやぁ、偶然偶然!」
クラス分け発表の掲示板を遠くから見ながら、りーちゃんが言った。
「本当かよ!? ってかこんな距離から良く見えるな」
「ま、まあね。ほら、わたし目が良いから……」
「……」
とりあえず、人が減って自分の目でクラスを確認できるまで待つと、確かに同じクラス──1年3組になっていた。
「う~ん」
確かにりーちゃんはゲーマーのくせに、目が良い。
だが、なんか態度が怪しいぞ。
横目にりーちゃんを見ると、
「ぴ~ひゃらひゃー」
両手を頭の後ろで組んで、口笛を吹いている。
「はぁ……どうせ何か根回ししたんだろ」
りーちゃんの家は日本有数の資産を持っている。
クラス分け程度の事なら学校に圧力をかけるのは容易だろう。
ただ、鬼塚家の両親から俺は相当に嫌われているから、りーちゃん自身の仕業だと思われる。
「あのな~、そういう金の力でなんとかする……みたいのやめろよな」
「ち、違うもん。学校に聞いたら、『特別な事情がある生徒のクラス分けには配慮している』って教えてくれたから──」
「特別な事情?」
「ほら、例えば前の学年でいじめられてた生徒だとしたら、進級時には同じクラスに中の良い友達を配置したりとか……」
「なるほど……。そういう所はしっかりしているんだな。まぁ腐っても名門校だしな」
さすがに教育機関として守るべき指針という物はもっているようだ。
普通の高校でもそういった配慮はあるのだろう。
「──それで、『特別な事情』ってのはどう説明したんだ?」
「それは……タクミと私は幼なじみで……」
「いや、それだけじゃ認めて貰えないだろ」
さすがに他にもそんな奴らはたくさんいるだろう。
「それで……タクミと私は婚約者で……」
「いや、婚約はしてねぇよ。てかむしろ、そんな二人を一緒にしたらまずいと思われるんじゃ」
学業に専念できないとか、なんとか言われそうなもんだが。
「二人を離ればなれにしたら死ぬって──」
「いやいや! それ脅してるし! ってか病んでると思われるだろ、大丈夫かお前?」
「いや、タクミが病んでるって話だよ」
「俺かよ!」
◇ ◆ ◇
りーちゃんに説教しながら、俺たちの教室へ向かう。
まったく、学校の中でいきなり俺の評価がだだ下がりになってるんじゃないか?
……ま、その辺は後からどうにでもなるか、と多少楽観的ではあるが。
「お、ここか」
走ったら転びそうなくらいキレイに磨かれた廊下を歩いて、教室に辿りつく。
教室に入ると、先に入っていた同じクラスの奴らが、一斉に視線をこちらに向けた。
ヤンキーモードに戻っていたりーちゃんが、ギロリとそいつらを睨み付ける。
いつも知らない人に見られる度に、こんな感じだ。
「あの人、凄い髪型だね」
「鬼塚家の一人娘だとか……」
「マジで? 信じられん」
「なんか入学式の前に南条カオリと揉めてたらしいぞ」
なんてヒソヒソ話が聞こえてきたが、特に相手をする必要もないので、黒板に貼りだしてあった自分の席の場所を確認する。
ラッキーな事に教室後方の窓側の席だった。
りーちゃんの席は最後列の真ん中だ。
ドカッっと椅子に腰掛けて、足を組むと、人を寄せ付けないオーラを発していた。
いかにも「番長」みたいな風格があって、俺は心の中で苦笑する。
とはいえ、俺の方にも近づいてくる奴はいない。
ま、あんなことがあった後だし近寄りがたいんだろうな、と思っていたら、軽薄そうな感じの男子が一人、つかつかと俺の方に歩いてきた。
その後ろから活発そうな女子がついてきている。
そして俺の前の空いている席に腰掛けると、
「おい、お前、鬼塚リサと付き合ってるってホントか?」
見た目通り軽いノリで話しかけてきた。
「いきなりなんだよ」
さすがにぶしつけな質問だなと思って、そう返すと、軽薄男はヘラヘラっと笑って、
「おおっ、すまんすまん……俺は里中っていうんだ、今日からよろしくな!」
なんて言って軽く俺の肩を叩いた。それに合わせて連れの女も自己紹介する。
「あ、わたしは、佐藤マミ。よくある名字だからマミって呼んで」
二人とも無邪気な雰囲気で話す奴らだった。
悪い奴らじゃなさそうだな、と思って俺も軽く挨拶する。
「俺は竹中タクミだ。よろしくな」
「へ~、それじゃ俺と|同中《おなちゅう》だな」
「ん?」
記憶をたぐり寄せてみるが、こんな奴、俺の中学にいたっけな?
「竹中と里中、同じ『中』って漢字が入ってるから、同中……なんてね!」
「や~、サムいよ、それ~」
マミが里中にツッコんだ。
そんなツッコミをヘラヘラと受け流して、里中が
「んで、鬼塚と付き合ってるってホントなのか?」
と最初の話題に引き戻した。
「ああ」
ここで否定する意味はないので、素直に頷いた。
「っか~、やるねぇ、大将!」
どこのおっさんだよってノリで話を続ける里中。
「でもまぁ、あれだけの資産家の美人ご令嬢と付き合ってるなんて羨ましいぜ」
「そういいもんでもないけどな」
「ははっ……確かに大変そうだ」
里中は横目でチラっとりーちゃんの方を見ながら言った。
分かってくれるか……こいつは良い奴だ。間違いない。
「なんか南条カオリと、揉めたんだって?」
マミが口を開いた。
「ん、ま、大した事じゃ──」
「大勢ギャラリーがいる前で、鬼塚リサに愛の告白したって噂になってるよ」
「いや、告白はしてねぇ!」
「え~、そうなの~?」
「……ま、付き合ってるってのを認めたぐらいだよ」
「ふふっ、それって大差ないけどね。でもまぁ、なかなか男らしいじゃん。そういうのポイントアップだよ!」
グっと親指を建ててウインクしてくるマミ。
「それにほら、君って私たちと同じ、いかにも『平民』って顔してるし」
「失敬な」
「違う違う、褒めてるんだよ! そんな平民男子が、あの鬼塚家の娘と付き合ってるなんてさ。そんじょそこらの甲斐性じゃ、できる事じゃないでしょ」
マミは、悪意はないよとパタパタと手を左右に振りながら言った。
「そういうのって、女子からすると見る目変わっちゃったりするわけ。ほら、結婚してる男に魅力を感じちゃう女子って結構いるし」
「うわ~、不倫願望みたいなの聞きたくねぇ~」
里中はふざけてしかめっ面を作っていた。
……苦労するかと思ったが、話せるクラスメイトがいて良かったな、と俺はほっと胸をなで下ろしていた。
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