第12話 ゴブリン 対 ガーゴイル
「話が早くて助かるぜ。正直
槍を肩に担ぎながら、魔物憑きの男は言った。
つまり、その気になれば全員を始末できる、と言いたいらしい。
しかし対する文鬼は、そのような問答に興味を示さない。
「闘いを挑んでくるというのであれば、
それより、さっさと掛かってきたらどうだ」
「いいね。俺と同じ――ただ闘うのが好きな奴の目だ」
そうして、男は地を蹴り、上空へと舞い上がった。
「俺の名はカジモド・ユーゴラヴァーンだ!」
「
互いに名乗りを上げて、闘いが始まる。
ガーゴイル憑きの男――カジモドは、中空よりその槍を片手に持ち、連続で突いてきた。
ボクシング等でいうところの、ジャブの如き攻撃である。
拳闘であれば、それは牽制の為の打撃となるが、この相手が繰り出してくるのは拳でない。その先端に鋭利な刃を備えた、槍である。
――疾い。それに、鋭い。
クラウスは、そう見た。
騎士として扱えるべき武具の総てを修めるクラウスが見て、脅威と見るに充分な速度と正確さを、その突きは備えていた。
あれほど鋭い突きを、しかも片手で放てる槍の遣い手は、そうは居まい。
自分が槍を持ったとして、果たしてあれ程の突きを繰り出せるか――
しかし、その突きを
人は素手でこのような芸当ができるものなのか――そう思わせる技である。
尤も、今の文鬼は人でなく
「これじゃ防戦一方だよ……私の魔術でこっそり援護したらダメかな?」
クラウスの傍らで、カティが呟いた。
射程の長い槍による鋭い突きが、中空から放たれているのである。
武術に関しては素人同然のカティから見ても、遠距離射程攻撃どころか武器のひとつさえも持たぬ文鬼が圧倒的に不利である事が分かる。
「やめておけ。一対一の闘いに水を差すような真似をすれば、奴は怒るぞ」
「……だよね、やっぱり」
カティも、文鬼という生き物がどういうものかを、なんとなく理解しだしている。
「やるじゃねえか! クトウブンキ!」
言いつつ、カジモドはその攻撃の手を休めない。
中空で充分な距離を取りつつ、槍を繰り出し続けている。
文鬼も間合いを詰めようとはするのだが、その度に相手は下がり、或いは中空を翻って充分な距離を常に取られてしまう。
中空には壁や天井といった制限も無い。よって回避できない位置に追い詰める事も不可能である。
もしこれが地上に足を付けた相手であったなら、状況はまた違っただろう。
文鬼の遣う空手の"捌き"は、相手の攻撃を逸らすと共に、その体幹を崩す技でもあるからだ。相手の体幹を崩せばその隙に間合いを詰めて攻撃の間合いに入る事ができる。
しかし、この相手は"滞空しながら闘う"という、文鬼の世界にはおよそ存在し得ない手合である。その攻撃を捌いたところで、その力の流れは柳がしなるかの如きに空へ消えるのみである。
宙に舞う木の葉に打撃を撃ち込んでも木の葉は後ろへ下がるのみで千切れたりはしない。それと同じ原理だ。
――しかし。
「このくらいか」
そう短く呟くと同時に、文鬼が大きく踏み込んだ。
同時に、文鬼とカジモドの間で、大きな音が弾ける。
カジモドの高速の刺突を、文鬼の手刀が弾いたのである。
「パリング……!」
クラウスの口から声が漏れた。
攻撃の手を、受けるでも躱すでもなく、撃ち払う。
言わば"攻撃的な防御"である。
攻撃が打ち払われた事で、カジモドの体が空中で崩れる。
「むん!」
そこへ、文鬼の左拳が飛んだ。
打ち払うのと同時の大きな踏み込みにより、既に間合いの内であった。
肉を撃つ音――
カジモドの体が、大きく後方へ弾き飛ばされた。
が――
大きく後退するも空中で翻り、カジモドは再び体勢を整えた。
「あぶねえ……てめえ、最初からこれを狙ってたな?」
「身体を馴染ませるのに、丁度よかったのでな。
上方からの攻撃への捌き――いい訓練になった」
虚勢でも挑発でもなく、本気でそういうつもりだったのだろう。
「先程までの突きはもう見切らせてもらった。次はどうする?」
更に奥を出してこい、と言わんばかりに文鬼が言った。
「面白え……なら見せてやるよ。ガーゴイルの
そう言って、カジモドは高く宙へと舞い上がった――。
■ モンスター設定 03:ガーゴイル ■
翼魔。
細い体に大きな翼を持った魔物。
その起源は古く、"魔王"出現以前よりの魔物として各地の伝承に登場する。
その正体については、異層に棲む闇の高位精霊の眷属、即ち
魔物としては水の霊質との親和性が特に高く、水の魔法を操るとされる。
死ぬとその身体は石になるという。
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