第1章最終話 幕間 真に追放された者の終わりの始まり

「はあ!? そんなバカな話があってたまるか!!」


 ゴートは激昂し噛みつくように王都からの使者だという男の襟首をつかむ。


「突然オレたちへの支援を取りやめるってどういうことだよ! オレたちは世界を救う崇高な使命を託された勇者パーティーなんだぞ!?」


 まくし立てるようにギースに対し、一方の男はというと全く臆することなくギースの手を払う。


「事前にお伝えしましたよね? 勇者様抜きでも勇者パーティーとして活動できるという保証をいただかなければ王都商工会からの支援はない、と」

「だ、だが俺たちは現にB級ダンジョンを踏破して――」

「パーティーは半壊、貴重な回復アイテムを枯渇させて戦果らしい戦果は何もなかったと聞いておりますが?」

「くっ……」


 押し黙ったギースを見て、王都からの使者はため息をつくと席を立つ。

 これ以上話をする必要性はないと切り捨てるように。


「クソっ!」


 ギースは苛立ち、テーブルを勢いよく叩きつける。


 セブルスを追放し、勇者ラウラがこのパーティーを離れて早数か月。ゴートたちは困窮し、活動できるかどうかの瀬戸際に立たされていた。

 セブルスとライラが抜けた穴を埋めるため、彼らは高い金を払って優秀な冒険者を何人も雇ったが、その誰もがギースらの横暴な態度に耐えかねてパーティーを去ってしまう。

 挙句の果てにはギースと同じく横やりで勇者パーティーの一員となった名家の子息たちでさえパーティーから逃げ出してしまい、残っているのはギースと彼が買った亜人の奴隷だけという有様だ。


「どうして、どうして俺がこんな目にッ……! 俺は大宰相バーデルム宮中伯の息子、ギース・フォン・バーデルムの息子だぞ!? その俺が……」

「ご、ご主人様……少し落ち着いて……」

「ああ? 奴隷の分際でこの俺に立てつくっていうのか、お前はァ!?」


 落ち着かせようと声をかけた獣人族の奴隷をギースは容赦なく引っぱたたいた。

 だがいくら奴隷を殴ったてもギースの怒りや憎しみは薄れたりしない。むしろより濃く、よく強い憎悪の感情が湧いてくるばかりだ。


 奴隷が何も言わなくなったことで、ギースはようやく血で濡れた手を引っ込める。


「全部、全部あいつが、セブルスが悪いんだ。だから俺は――」


 ギースはまるで無実を主張する罪人のように言葉を絞り出すと、椅子に深く座り込む。


「――そうだ。全て、全てあのセブルスが悪いんだ。だから、だから俺は悪くないんだ」


 血が滲み出るほど拳を強く握りしめながら、一方でその顔には探し求めた解を見つけたことで生じた歪な笑みを浮かべてギースは呪詛の言葉を吐く。


 酔っ払いのようにフラフラと立ち上がったギースは、その足で何処かへと歩いていく。

 

 そのギースの目からはもうまともな人間の理性と正気を感じることは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る