第15話 逆探知

「ほら、傷はもう治ったぞ」

「ありがとうございます……」


 何とか賊を退けた俺は亜人の少女に頼まれてブラッドオーガの傷を治していた。

 この少女――名はフランと言う――によると、このブラッドオーガの夫婦はフランたちの部族赤刻鬼族の盟友関係にあるようで、彼女らから食糧と寝床を提供してもらう代わりに集落の手伝いをしてもらっていたという。

 《赤刻鬼族》はレーンフェルストの森から程近い山岳地帯で暮らしていたそうなのだが、1か月ほど前に人間の山賊集団に襲われてここまで逃げてきたという。

 レーンフェルストの森には《赤刻鬼族》が冬ごもりに使う食糧の備蓄庫があり、そこを避難シェルターにして集落から賊がいなくなるのを待っていたそうだ。


 しかし2週間が経った辺りで突然ブラッドオーガが暴走し脱走、さらに数日前から賊が彼女らの避難シェルターを突き止め襲撃を仕掛けてきたという。

 こうして絶体絶命の危機に陥った《赤刻鬼族》は、一族に伝わる魔道具警鐘の鈴を発動させて賊を撃退したとのこと。一連の騒音の正体はその魔道具というわけか。


 《隷属の腕輪》は対象の魔力強度によっては隷属化に失敗することがある。それを回避するためにはより強力な魔力を流し込むしかない。時差を置いてブラッドオーガが暴れ出したというのも隷属化に手間取ったからなのだろう。

 まあ何にせよ真相はすぐに判明するだろう。



「あの……、私達の村を……」

「心配しなくてもすぐに片が付くよ」


 これまで微かに聞こえていた剣戟の音と男たちの怒声は今では野太い悲鳴へと変化していた。どうやら向こうも決着が着いたようだ。



―――――



「これはまた派手にやったなあ……」


 死屍累々とはこういうことなのだろう。あちこちに力尽きた賊の男たちに破壊され尽くした武器の山。とどめは刺されてはいないので半月動かず寝込んでいれば体は回復するだろうが、精神の方はそう簡単には治らないだろう。


 そしてこの惨状を作り出した張本人たる我らが勇者様は飄々と地面に落ちた残骸を眺めている。


「それは?」

「この賊をけしかけた黒幕の手がかり。なるべく無傷で鹵獲したかったのだけど」


 そうして彼女から手渡されたのは鳥の形をした自立型の浮遊通信魔法装置だった。

 構造の複雑さや大量に稀少鉱石が使われていること、そして緊急時用の自爆術式まで組み込まれていること。このことからこの装置が如何に高価なものかということが分かる。しかし今地面で倒れ伏しているこの山賊連中はどうやってこのような代物を手に入れたのだろうか。


「これがどこの装置と繋がっていたか解析することってできる?」

「やっては見るけど、あんまり期待するなよ」


 この手の通信魔法装置は必ず対となる装置が必要となる。ただ自爆術式が組み込まれていることなどから見て、黒幕とやらはかなり用心深い性格だろうから既に処理されている可能性もある。というわけでダメもとで逆探知を試みてみたところ。


「……これまた面倒くさいことになったな」

「わかったの!?」

「大まかな場所だけならな。アーヴァル辺境領第15区の何処かから指示を出してたようだ」


 もう少し早く逆探知を行っていたら詳細な場所を掴めたんだが。しかしここまで場所をつかめたら黒幕の正体は簡単につかめるだろう。だけど。


「……その15区って所には何があるの?」


 こちらの表情を見てそこが厄介な場所であることを察したのだろう。彼女は恐る恐る尋ねてくる。


 辺境領15区、かつてはただの一区画に過ぎなかったこの場所は今ではある宗教勢力に丸ごと占拠されてしまっている。


 聖教教会”禁欲派”の巨大カテドラル、今もっとも勇者の居所を追い求めている勢力の拠点がそこにはあった。

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