第14話 閑話
「男と老人はばらしていいぞ。必要なのはこいつらの中にある魔石だけだからな」
左手を武器を仕込んだ義手にした中年の男、山賊の首魁グローは部下に指示を飛ばしながら拘束されている亜人族の女性を値踏みするように見る。
「おじき、逃げ出した餓鬼どもはどうする?」
「足だけ潰して檻に放り込んでおけ。顔や腹に傷をつけるなよ? 売値が悪くなる」
「あいよ」
グローの指示を聞いた若い男は武器を手に取ると仲間を連れたって森の奥へと向かっていく。ちょうどそれと前後する形で別の男がグローのもとへ駆け寄ってきた。
「見つけましたぜ、おじき!」
「よしよし。これで契約を完遂できる」
小汚いその男が両手で抱えていた黒い箱を見て満足そうな笑みを浮かべたグローは、男性や老人の亜人を拘束している部下らにハンドサインを送る。
この山賊集団が必要としているのは奴隷用として売り出す女の亜人と彼らの雇用主が求めていたこの黒い箱だけ。それ以外で金目にならなそうなものを持ち帰りでもしたら重荷になって足がつく危険性を生む。
故に侵入を阻止するために妨害用騒音魔法を浴びせられたことへの鬱憤晴らしも兼ねて不用品はまとめて処分してしまう。
男たちは各々が手に取った武器を身動き一つ取れない亜人の体を突き刺すべく振り下ろす。
しかし男たちが振り下ろした鉄の刃は柔らかな肉の肌を突き破ることはなく、突如放たれた光波によって彼らの腕ごと宙へと舞い上がった。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!?」
「俺の、俺の腕があああああああああ!!」
「敵だ! 敵襲!」
彼らの悲鳴を受けて家屋を荒していた他の山賊も武器を持って広場へと集まってくる。しかし。
「—―遅い」
突風のように現れた小柄なその少女は一瞬のうちにその場にいた”彼女の敵”から戦うための武器を全て根こそぎ刈り取っていく。
たった一人の小娘によって一切の反撃の手を奪われた山賊らは苦悶に顔を歪ませながら地面をのたうち回る。
「てめぇ、何のつもりだ! こいつらは亜人だ、いくら殺して奪っても文句を言われる筋合いは……!」
「黙りなさい」
それはまさしく王の勅命だ。
絶対的な強者からの命令は山賊らから一切の戦意を奪うには余りあるもので、男らはいつしか悲鳴すら上げずただ其の場にうずくまることしかできなくなっていた。
少女は義手を切り落とされたグローを無理矢理立たせ、今にもかみ殺してしまいそうな気迫でその胸ぐらを掴みかかる。。
「答えなさい。あなたたちを差し向けたのは一体どこの誰?」
「知らない! いつも使い魔を通して俺たちに指示を出すだけで……ッ!」
その返答に少女は苛つきながら失神しない力加減でグローの首を締め上げ、再び勅令を告げた。
「なら、その使い魔をここに呼びなさい。今すぐに」
選択の余地などありはしない。
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