第2話 夢、叶えるとき

「ふぁ……おはよ」

「おはよう。そこにスムージーが置いてある」


 レインと別れ、朝食のベーコンエッグを焼いているとかなり眠たそうにしながらラウラが起きてくる。

 

「あー、あとレインが忘れ物を届けてくれたぞ。ほら」

「レイン? 荷物?」


 寝起きで頭が働いていないのかラウラは俺が何を言っているのか分からなかったようだったが、居間の隅に置かれたバッグを見て意味を理解できたようだ。


「いつ来たの? というか今ここにいるの?」

「それを渡してすぐ何処かに行っちゃったよ。あの感じじゃまたすぐ会えそうだからお礼はその時に言えばいいと思う」

「……うん」


 レインについて何か思うことがあるのか、ラウラは一瞬だけ物憂げな表情になるが、すぐにスムージーを一気飲みして(案の定咳き込んだが)気持ちを切り替えたようだった。そのあとは特に何かあるわけでもなく、お互い椅子に腰かけてやたらデカいテーブル(バザーで買った格安品)に広げられた朝食を食べ始める。


「そういえば、結局セブルスはどんな店を開くの?」

「ああ。そう言えば言ってなかったな」


 切れ目を入れたパンにベーコンエッグとサラダを挟んでいるとラウラが至って当然な質問を投げかけてきた。

 大口でサンドイッチを頬張り、口の中のものをコーヒーで流し込んでから彼女の疑問に答える。


「呪術を使った何でも屋をやろうと思ってる。体を治療したり、薬草を配合したり、落とし物探しをしたりと色々汎用性は聞くしさ」

「……それで儲けることってできるの?」

「まさか何も考えずに開業するってわけじゃないよ。ちゃんとそういった仕事に需要があるってことを半月かけてリサーチしたからさ」


 このアーヴァル辺境領は犯罪はほぼ発生せず、温暖な気候のおかげで飢餓とは無縁で、さらに危険な魔獣は殆ど生息していないというかなりの理想郷だ。

 当然この街に住んでいる人たちも「自分たちがいかに恵まれた場所で暮らしているのか」を十分理解している。そのためなのか彼らは「痒い所に手が届かない」という事態に見舞われれば、それを我慢してしまう傾向があった。


 ――世の中には我々のそれとは比べ物にならないくらい恵まれず、救われない人たちが数多くいる。それに比べたらこの程度の痒みは我慢しなくてはならない。

 

 これはアーヴァルの名の由来にもなった初代自治議会議長のマクバード・アーヴァル男爵が遺した言葉で、このアーヴァル辺境領に住む者で知らない者はいないとすら言われている。


 だからといって痒いものは痒いし、何とか出来るなら何とかしてほしい。それもまた彼らの嘘偽りのない本音だった。


「というわけでビジネスの匂いを嗅ぎつけて色んな人が依頼解決屋とかを立ち上げたけど、まあこの辺りの物価価格がクソ安いってことを知らなくて結果殆ど潰れてったらしい」

「……もしかしてこの家って」

「強気に勝負して呆気なく夢破れた男たちの棲み処だったそうな」


 ここに来たばかりの頃は何でこんな立派な家が誰にも引き取られていないのだろうと思ったが、最近仲良くなった近所の人から今に至る経緯を聞いてよーく納得できた。

 俺の説明を聞いてラウラが不安げな表情になる。むしろこんなことを聞かされてそれでも心配にならなかったら、それはそれで不安だった。

 だけど。


「安心してくれよ。この半月でリサーチしたって言っただろ」


 ワレに秘策ありってね。

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