第4話 呪術とその活用法

 翌日。開店資金を稼ぐため依頼を受けようと冒険者ギルドに向かうと、ギルド職員と街の衛兵が神妙な面持ちで何か話し込んでいた。

 邪魔しないように注意しながら依頼掲示板の前に移動しようとしたのだけど。


「セブルスさん、丁度いいところに!」


 どうやら彼らが話していることは俺にも関係があるものらしい。わざわざ角が立つようなことをする理由もないし、ここは素直に受付嬢の呼びかけに応じる。


「自分に何か用ですか?」


「昨日"一角狼”が出没したことを通報してくれましたよね。その時の状況を詳しく教えて欲しいとのことで」


 衛兵の態度や受付嬢の問いかけから察するに、あの魔獣が何かやらかしたっぽいな。


「詳しくと言っても、薬草採取してたら偶々出くわしたってぐらいですよ?」


「襲われはしなかったのか?」


 ずっと黙っていた衛兵が質問してくる。もしかして怪しまれてたりするのか?


「狼種と出くわした時はなるべく上から威圧するように睨みつつ距離を取ればいいと教えられたので。それでその場は凌ぎました」


「……情報提供、感謝します」


 衛兵は受付嬢にメモらしきものを手渡すと足早にギルドを去っていった。タイミング的にも聞くなら今が丁度いいだろう。そう考えた俺は早速受付嬢に一連のやり取りの意味を聞いた。


「何があったんですか?」


「昨日”仙人草”の植生調査のために派遣された冒険者の一団が一角狼に襲われてそうです。それで今討伐隊を募集しているところなんですが……」


 そう言って受付嬢は俺に討伐隊募集と書かれた依頼用紙を渡してくる。

 内容はもうとっくに分かってはいたけど「冒険者の一団を襲った一角狼の討伐」で、討伐隊参加者には特別手当としてギルドから200ギルが支給されるという。

 しかし俺にとって、いや新人冒険者にとって問題なのはそこではなく。


「”当該魔獣の討伐が確認されるまで一部の平野部と山岳部を対象にした依頼の受注制限”……?」


 それは職場への立ち入りが禁止されることを告げる内容のものだった。


―――――


「ああ~、これは効くねぇ~」


 

 冒険者としての資金調達が出来ないなら、将来の開業に向けてリピーターを増やしておこう。そう思った俺は町の小さな教会で行われているボランティアに参加していた。

 この教会は聖教の非主流派だから総本山からの監視者がつくことはない。だから気兼ねなく腕を振るうことができる。


「肩の痛みは取ったけど暫くは安静にして置いた方がいい。無理は禁物、これだけは絶対に守ってくれ」


「ああ、そうするよ。いい加減若い頃とは違うってことを分からなくちゃいけないのにな」


 今俺がやっているのは呪術を用いた簡易治療だ。痛みを訴える箇所を調べ、そこに呪札を貼り痛みの原因となるものを除去する。無論取り除いてはいけないものは取り除かないし、緊急性のあるものは治療せず大きな医療協会に向かうよう伝えることは忘れずに。

 とはいえここにいるのは自分の脚で歩いて来た人ばかりで、その痛みというのも過労や歳の影響で生じたものばかりだけど。


「ふぅ。これで粗方痛みは取り除けたかな」


「セブルスさん。改めて、本日はお忙しい中ボランティアに参加していただき本当にありがとうございます。普段は私共だけではどうしても治療を施せない方が多くて……」


 手持ち無沙汰になりだした俺に教会の神父様が話しかけてくる。彼とは以前街のレストランで偶然仲良くなり、その時にある程度治療ができるという話をしたことで今回のボランティアに参加することになったのだ。


「いえいえ。どうせ例の狼のせいでやることがありませんでしたから」


「それでもお礼を言わせてください。出来ればこのまま教会で共に勤行に励んでほしいと思ってしまうくらい鮮やかな手際でした」


 こうもべた褒めされるとどうも照れ臭く感じてしまう。というかラウラ以外には殆ど褒められることはなかったから新鮮に感じる。

 恥ずかしさを隠すために呪札の備蓄を確認しながら今後の予定を考えていく。


 呪札はそこらで安く売られている紙にただ魔力をつぎ込めばいいという訳ではない。用途に応じてそれぞれ専用の儀式を行いながら作っていくから、一度に大量に用意するというのはどうしても難しくなる。


「神父様。自分の方はあと2、3人治療したら在庫切れになります」


「わかりました。ああ、そうだ。午後のボランティアが終わったら夕食を共にしていただけませんか。きっと子供たちも喜びますよ」


「ありがとうございます。でしたら」


 そう言いかけた所で教会の中から悲鳴が聞こえてきた。次いで若いシスターが飛び出してきて、泣きそうな顔で神父に話しかける。


「……どうしましょう。孤児院のシーナとアリスが山に行ってしまいました」

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