第6話 「同居スタート」

- 第六話 -

「おじゃまします。」


華氷先輩は映姉さんに対して丁寧に腰をおりそう言って家に入ってきた。

ちなみに華氷先輩が手ぶらで来ているのはお手伝いさんが後で荷物を持ってきてくれるからだそうだ。


たまに忘れかけてしまう時があるけど華氷先輩は正真正銘のお嬢様なのだ。




「ふぅ⋯⋯。疲れたわ。ゆづありがとう。この紅茶私がいつも生徒会室で飲んでるやつよ。よく見てくれいるのね。」

そう。僕が何故華氷先輩の好きな紅茶がわかったのかと言うと生徒会室ていつもこれを飲んでいるからで、そもそもなぜ家にあるのかと言うと華氷先輩の真似がしたかったからだ。


「華氷先輩がいつ来てもいいようにって思って準備してました!」


まぁ、正直に言えるはずもなく華氷先輩が喜びそうな嘘をついておく。心が痛むけど仕方ない。自己防衛と言うやつだ。



「華氷ちゃん⋯⋯! いい? ゆづくんにふしだらな真似をしてみなさい? その時は⋯⋯ね?」

映姉さんの目が怖い。ハイライトが消えていて光を失っている。



「えぇ。私は大切なゆづにそんなことしませんが⋯⋯もしかして映さん⋯⋯そのようなことばかり考えてゆづに接しているのですか⋯⋯?」


こっちも怖かったぁぁ!? な、何だこの異様な雰囲気⋯⋯。少なくとも僕に対して怒っているのではないと言うことは分かるんだけど⋯⋯怖い。


二人とも互いに牽制し合うように睨み合っている。




「あ、あの⋯⋯二人とも⋯⋯? せっかくなんだから楽しくしよっ!? ね?」

僕は自分が出来る精一杯の笑顔を貼り付けて震える口を何とか抑えながらそう言った。




「「そうね! ゆづ(くん)がそういうならそうしましょ!」」

「う、うん⋯⋯。」


なんだか異常なくらいの切り替えの速さだけど分かってくれたみたいでなによりだ。









「これから騒がしくなりそうだな⋯⋯。」

ふとそんなことを呟いてしまうくらい容易にその未来を想像できた。


「だけどまぁ⋯⋯これはこれで楽しそうだしいっか。」

なんせ初恋で今も尚思いを寄せている相手との同居だ。楽しみじゃないわけが無い。


「あとは学校での事が解決すれば万事解決か。」

唯一の懸念けねんであるいじめ。これが収まらないことには意味が無い。


これからはできる限り行動は華氷先輩と共にすることになっているが華氷先輩は先輩だ。一緒にいない時間の方が長い。その間を見て嫌がらせをしてくることは容易だろう。



僕は楽しみでもあり不安要素も残る未来を思い描きまた不穏な空気が流れるリビングを後にした。

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