第12話 知らない2人

 side-葵


「 ちょっと…頭ん中整理したい 」

 そう言って楓の部屋を出た後、フラフラと自分の部屋へと戻り、ベッドに腰掛けた。

 色々な思いが頭の中をバラバラと、順序も守らず駆け巡っていた。すぐに整理など出来る筈もなかった。

 両手で頭を抱え目を閉じると、楓と涼の顔が浮かんだ。

 同性愛への偏見は全く無いが、いつも近くにいた2人が自分の知らない所で親密になっていたという事実が、ただただ信じられなかった。

 楓が自分への気持ちを伝えてくれた事も、もちろん忘れてはいなかったが、葵は2人の事ばかり考えていた。

 暫くすると、ベッドの上に放置された葵のスマホが鳴った。

 手に取ると、今1番見たくなかった名前がそこに表示されている-涼からだった。

 無視するという選択もあったが、この電話には出ないといけないような気がした。

「 ……はい 」

「 …久しぶりだね、葵。元気にしてた? 」

 久しぶりなんて、単なる挨拶に過ぎないのにも関わらず、今にも頭に血が上りそうだった。

「 何か用? 」

 怒りを抑えようとしてもぶっきらぼうに答えていた。

「 ふふっ。そんなに怒らないでよ 」

 何だか余裕そうな涼にカッとなり、わなわなと手が震えだした。

「 俺、夕方の便で地元に帰るから羽田空港にいるんだ、今。まだ時間があるし、帰る前に葵と話がしたくてさ。来てくれるよね 」

 その身勝手で傲慢な涼の話し方は、昔の姿とはとても結びつかなかった。

「 分かった、空港のどこに行けば?」

 何とか冷静さを保ち、聞き返す。

「 保安検査所前にあるカフェで待ってるよ 」

 葵は電話を切って立ち上がり、服を着替えて急いで空港へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る