第8話 初体験
side-楓
あれから、楓と涼は学校以外でもよく会うようになった。始めは強引な涼に、流されている感じが否めなかったが、暫くするとそれなりに楽しんでいる自分に楓も気付いていた。
涼は頭も良く、楓の勉強にも付き合ってくれた。試験勉強の合間を縫って、映画を観たり、食事をしながらたくさん話をした。
セックスもした。楓にとっては女性も含め、初めての経験だった。
それが良いのか悪いのかまでは分からなかったが、嫌ではなかった。肌と肌が触れ合うのは素直に心地良かった。
セックスしている時の涼は手馴れていて、いつも以上に優しかった。
圧倒され呆然としていると、何度も何度も可愛いと言って抱き締めてくれた。楓も心は満たされているように思えた。
試験勉強が佳境を迎えると殆ど会えなくなったが、邪魔にならない程度に電話やメールで毎日連絡をくれた。そのせいか寂しくはなかった。
楓と葵の入試日は2月の中旬だった。塾にも通いながら、睡眠以外の時間を机で過ごす日々が続いた。両親の献身的なサポートもあり、準備は万端だった。
試験の前日、2人は東京へと向かった。
*
3月の上旬、楓は無事に合格することができていた。パソコンの前で、楓の母親は泣いて喜び、父親も称えてくれた。久しぶりに少しだけ親孝行ができた気分だった。
( 葵と両親もきっと喜んでるだろうな…もしかしたら、葵の母親も泣いてるかもしれない )
楓は隣の家の様子を思い浮かべた。その後葵の合格も分かり、夕食は一緒にお祝いをする事になった。
ダイニングで一家団欒の一時を過ごしていると、楓のスマホに着信が入る-涼からだった。
合格が分かったあと、楓は涼にもメールをしていた。その電話で夕方に家の近くで会う約束をした。
入試が終わってから地元に帰ったあと、1度だけ学校以外でも涼とは会っていた。変わらず優しかったが、少しだけ元気が無いように楓には見えていた。
約束の時間は17時だった。先に着いた楓が薄暗い公園のベンチに座っていると、涼が小走りでやって来た。
「 ごめん、待たせて 」
雪は降らなくなったが、気温はまだ低く、涼の口からは白い息が出ている。楓は立ち上がり、首を振って答えた。
ここは楓が小さい頃によく遊んでいた家の近くの公園だった。
「 合格、おめでとう。頑張ってたから俺も凄く嬉しいよ 」
「 ありがとう 」楓は微笑んで言った。
この5ヶ月間、楓が試験勉強に取り組む姿は傍にいた涼が1番よく知っている。合格を直接祝いたいと言って、わざわざ会いに来てくれた。
話をする涼の顔は笑っていたが、やはり今日も元気が無いように見えた。
少しの沈黙の後、涼は楓に近付き、力強く抱き締めた。いつも優しい涼には珍しく、苦しい程の力で、何も言わず、暫くそのままだった。
抱き潰されそうになりながら、楓はそっと背中に手を回し、何かあったのかと聞こうとした時、涼がようやく口を開いた。
「 5ヶ月間、俺と過ごしてくれてありがとう。めちゃめちゃ楽しかったよ 」
楓はあの日の事を思い出し、ハッとした。
--俺と付き合ってみない?
卒業までの限定でいいからさ--
「 涼… 」
楓は、返す言葉が見付からなかった。
「 もう会えなくなるけど元気でね。身体に気を付けて 」
「 りょ… 」「 さよなら 」
楓の言葉を塞ぎ、顔も見ずに足早に離れて行った。
いつの間にか辺りは暗くなっていて、涼の姿は直ぐに見えなくなった。
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