第6話 昼休み

 side-楓


 楓から見た葵は完璧な男だった。勉強もスポーツも万能で、甘えん坊な楓にはいつも優しかった。その上、男らしく整ったその顔は、楓も見惚れる程だった。

 そんな葵は当然、高校でも女の子からの絶大な人気があった。楓もそれは良く知っている。

「 お前、この前1年に告白されてただろ、俺、見ちゃった♡ 」

 楓は葵と、友人の賢二と涼の4人で昼食を摂っていた。教室は人の出入りも多く、賑わっている。開けっ放しの出入口からは冷たい風が吹き込み、寒かった。

「 何で知ってんの 」

 少し面倒臭そうに葵が答えた。

「 たまたま通りがかったのよ、ホント、たまたま。まぁ…大事なお友達の事だから?気になっちゃって?最後まで見学させて貰ったけど 」

「 はぁ?マジ、キモいよ、お前、キモい。帰っていいよ 」

「 そこまで言わなくて良くない?葵くん、ヒドイ 」

 2人はそう言いながら笑っていた。

 賢二と涼は高校で出来た友人で、2人は中学の同級生だった。

 楓と葵のその容姿は、入学当初から目立っており、好奇心から近付いたと賢二が言っていた。それがきっかけとなり意気投合した4人は、高校生活の3年間を殆どを一緒に過ごしていた。

「 で、どうしたの、その子 」

 涼が続けて聞いた。

「 それがさ~、断ってたんだよね、この人。結構可愛い子だったのに、今は誰とも付き合う気がないとか言ってさ 」

 ふうっと溜息を着くような仕草を見せながら賢二は言った。

「 モテる男の考えてる事はよぉ分からんわ 」

「 何でお前が答えんのよ。ってか、お前彼女いるじゃん 」

 葵は笑いながらも呆れていた。俺の事はどうでもいいとでも言うように、賢二は首を横に2回振った。

「 前の彼女もさ、めちゃめちゃ良い子だったじゃん。次こそ続くと思ってたのに。葵って長続きしないタイプだよね、絶対 」

「 へぇ… 」

 涼は賢二ほど事情に詳しくないのか、初めて知るような反応を見せた。

「 好きになれずに冷めちゃうんだって。ホント、最低な男だよネ 」

 賢二は内緒話をするような仕草で、葵に聞こえるよう囁く。

「 お前こそ、ホント、余計。黙らないとそのパン全部口に突っ込むぞ? 」

「 すんましぇ~ん、もう黙るぅ~ 」

 口調は怒っていても、戯れているようにしか見えず、葵も楽しそうだった。

「 楓、どうかした? 」

 少し間が空いて涼が聞いてきた。楓は何だかボーっとしてしまっていた。実を言うと、葵の恋愛話は昔から苦手だった。

「 何でもないよ 」

 楓は薄っぺらい愛想笑いをした。この話は楓も勿論、知っていた。

 その日の放課後、2人で学校を出ようとしていた時、葵が1年の女の子に呼び止められ、話が終わるまで楓は校門で待っていた。

 戻って来た葵に対して、楓は何も聞かなかった。聞かなくても大凡の事は分かった。

 過去に葵が何人かの女の子と付き合っていた事も知ってはいたが、葵の色恋沙汰に関して、楓は自分から触れようとはしなかった。

 突然、隣に座っていた涼が楓にスッと手を差し出した。涼の掌の上には、小さなチョコレートが乗っている。

「 これ、食べな 」

 頬杖を着きながら涼は優しく笑っていた。

「 ありがとう 」

 楓はそう言って微笑み返し、チョコレートを受け取った。

 包み紙を剥がし、口へと放り込む。甘い物は好きだったが、やけに甘く感じた。

 窓から晴れた空を眺めていると、昼休み終了のチャイムが鳴った。見える青い空とは違って、楓の心は靄がかかっているような気分だった。

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