第4話 帰省
side-葵
今まで何人かの女の子と付き合った経験ももちろんある。中には一通りの展開まで進んだ子もいた。
葵は童貞ではない。思春期ともなれば興味も湧き、欲も人並みにあった。
ただ、どの子とも長続きはしなかった。しばらく経つと自分の気持ちが冷めてしまい、どうでもよくなり別れる-その繰り返しだった。
それに対して深く悩む事は全くなかった。それどころか、高校3年の秋頃から、彼女を作る事さえしなくなった。
告白してくれる女の子はたくさんいたが、全部断っていた。大学生活は充実していて、何より楓がいれば毎日楽しかった。
葵にとって楓はやはり特別だった。それを再確認した出来事があった。
それは2年前、楓の母親の入院が決まり、楓が1週間だけ実家へ帰った時だった。
葵には、次の帰省の機会に顔を見せてくれればいいと、東京に残るよう楓の父親が促した。もちろんそれは葵を思っての事だった。
上京してからの生活リズムは整っており、力を入れていたレポートの提出もちょうど控えていた。
その事を楓は父親に話していたのだろう。楓は1人で帰省し、葵だけが残る生活が始まった。
やるべき事はたくさんあった。楓がいない以外は何も変わらず過ごせてる筈だった。
大学に行きながら、本屋のアルバイトを5日間こなし、レポートも無事に提出できた。
達成感はあったが、7日目は無理が祟ったせいで、ベッドから一度も出られなくなってしまった。熱は上がらなかったが、激しい頭痛と倦怠感、吐き気もあった。
少し頑張り過ぎたか-そう思っても遅いのだが、頭痛のせいで目頭がジンジンと熱く、今にも泣いてしまいそうだった。
「 葵 」
あぁ…何だか懐かしい声だ、これは夢か?
お母さんは大丈夫だった?
「 うん、大丈夫だよ。後数日もすれば退院出来るって 」
そっか、良かった
「 葵、ありがとう 」
次の瞬間、ハッとして目を開き、勢いよくベッドから身体を起こして声の元を探す。
「 どうしたの?具合悪いの?葵こそ大丈夫?」
「 あれ…楓、帰ってたのか 」
「 うん、今帰って来た。一応、インターホン鳴らしたんだけど、反応無かったから寝てるのかなと思って 」
楓はベッドにそっと座った。目の前に楓がいる-見慣れた筈の顔なのに、何年も会ってないような気分だった。
葵はボロボロ泣いていた。涙で視界がグチャグチャだった。何故泣いているのか、自分でも分からなかった。
楓は一瞬驚き、黙っていた。そしてそのまま葵を優しく抱き寄せ、背中をさすった。
「 ただいま 」
楓のその声は、葵の胸をぎゅうっと熱くし、目から溢れる涙の速度を更に早めていた。葵はそのまま、眠りについた。
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