第12話
肩が痛い。 そう思って目を開けると、見開いた紅目と視線がぶつかり、驚くと紅い目が跳ねるように遠のいていく。
背中の上ではなく、ベッドに転がされていることに気がつき、喉の渇きに気持ち悪さを感じる。
「……あ、えと……」
「悪い。 起きなかったから心配で……覗き込んだ」
「あ、いえ、おはようございます」
「おはよう」
食べ物の匂い。 見回すと、窓がない以上には特徴のない部屋で、机の上に大量の料理が置かれていた。
「あれを食べればいい」
「すみません、用意させて……」
「あれなら足りるか?」
「……すみません、食べきれそうにないです」
「多かったか」
じっと見つめられて、気まずさを覚えながら、期待されているようだったので椅子に座って……フォークもスプーンもないことに気がつく。
「あの、フォークとか、スプーンとか……」
「……あ、忘れていた。 そうだな。 ちょっと待ってくれ。 確か、以前に売りつけられて……っと、あった。
他に足りないものはないか?」
「……お水があれば……助かります」
「ああ、待っていてくれ」
急いで別の部屋に取りに行き、コップと共にスプーンとフォークが置かれる。
長く見つめられながら食べるのは気まずいけれど、僕もアレンさんが血を飲むのが物珍しく見つめていたので、何かを言うことが出来ず、コップに手を伸ばして口につける。
空いたお腹に入っていく感覚が少し気持ち悪く、長く飲まず食わずでいすぎたらしい。
興味がそんなにあるのか、じっと見つめられながら、スープに手を伸ばして、出来る限り行儀よく食べる。
「汁っぽいのが好きなのか?」
「いえ、ちょっと食べていなかったので、いきなり色々入れたら、気持ち悪くなるんです」
「なるほど」
パン、お肉、お魚、と食べる。 アレンさんはじっと僕を見つめる。
「あの、どうかしましたか?」
耐えきれずに尋ねると、アレンさんは小さく謝ってから理由を話す。
「美味いか?」
「え、あ……はい。 とても」
とても……ではないけれど、好きな人に見つめられながら食べるご飯の味が分かるほど図太くはない。
多分、ちょっとしょっぱい。
珍しく笑ったアレンさんを見て、なんとなく口角が上がってしまう。
いつもは……とは言っても、吸血鬼としての彼を見たのは少しで、ほとんどは図書館でゆっくりと過ごしていただけだけど、あまり笑う人ではない。
嬉しくなって、ニコニコとしてみれば、彼は目を逸らしてご飯を勧めてくる。 変な顔をしてしまっただろうか。
行儀よく、綺麗に、と気を張りながら食べるけれど、量が多すぎて食べきれない。 どうしよう。
「食べきれないなら捨てるからいい」
「もったいないですし……」
「人は無理すると苦しんで死ぬんだろ。 生きるための行為で苦しむ必要はない」
日持ちしなさそうなものから順に出来る限りたくさん食べて、後にでも食べることにする。
「そういえば、今は……」
「日が出ている時間だ」
「朝ですか? 昼ですか?」
「さっき明けたところだから、朝だな」
じゃあ、もうアレンさんも寝るのだろうか。棺桶とかだろうかと思っていると、彼は眠たそうにしながらクローゼットから布を引っ張り出してそれに包まってベッドに転がる。
「棺桶じゃないんですね」
「家の中に入られたらすぐにバレるだろ、そんなの。 ……家の中は好きに使ってくれていい。 悪い寝る」
それはそうである。 ……それにしても、あまりに活動時間が違いすぎていて、あまり話すことも出来ない。 おそらく彼の家だろうけど、土地が分からないのは少し不安だ。 けれど、起こすのは忍びないので仕方なく黙る。
……部屋の掃除でもしておこう。 暇だし、しばらく空けていたからか埃が溜まっている。
起きないように別の部屋から音を立てないように埃を集めて捨てていく。
「褒められたりしますでしょうか」
頭を撫でられる想像をしてみるけれど、申し訳なさそうに頭を下げるだろうな、と小さく笑う。 それも彼らしいので嫌ではない。
そんなことを思っていたらそう広くもない掃除はすぐに終わってしまい、仕方なく元の部屋に戻ってアレンさんが包まっている布を見る。
一人だと暇だ。アレンさんはこの前まで文字を読めなかったので当然だけど、本もないので暇を潰せない。
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