第13話
ずっと僕が寝たらアレンさんが起きて、アレンさんが寝たら僕が起きて、と繰り返していたらほとんど話せないことに気が付き、今のうちに寝た方がいいような気がしてくる。
でも、ベッドは一つしかないし、代わりになるようなものもない。 アレンさんが使っているし……うん、家のものは好きに使っていいって言っていました。
いやでも……男の人と同じベッドで寝るというのは……。
結局、そんな勇気はなかったのでちょっとの埃もないように家をピカピカにする作業に移る。
それも終わって暇をしていると、昼間なのにアレンさんが目を覚まして、布から出てくる。
「……夜は、少し知り合いに会いにいく」
「え、あ、はい」
「……顔ぐらいは合わせておいた方がいいかもしれない。 今のうちに寝ていた方がいい」
それで起きたのか、アレンさんはベッドから降りて布に包まり始める。
「吸血鬼の方ですか?」
「いや、人間だ。血を融通してもらっている」
「お金はあるんですよね? その方が売ってくれるなら……」
「量に制限がある。 幾ら積んでも、そいつが危険な橋を渡ることはないから意味がない」
……それって、霧の国の吸血鬼さんが会っていたら買えないってことなのではないだろうか。 ……少し不安に思う。
「ベッド、アレンさんが使ってくださいよ」
「人ほど柔くはない」
「……恩人を下に寝られませんよ」
「恩人だと思ってるなら使ってくれ。 ……ただでさえ昼には寝にくいだろ」
その言い方はズルい。 諦めてベッドに入り、掛け布団を被る。 長いこと寝ていたので、まだ眠気はない。 頑張って寝ないと。 必死に目を閉じるけれど、寝たり起きたり繰り返す羽目になってしまった。
アレンさんが起きて、僕も起こされて二人で食事をする。 アレンさんは瓶の血を飲むぐらいだけど、一緒にしたことが重要なのだ。 僕にとっては。
夜の街。 窓の外を覗くことはあったけれど、危ないということもあるので、実際に歩いたのは初めてだ。
一応気にしてくれているのか、アレンさんは歩幅は小さく歩調はゆっくりとしていて、僕を庇うように一歩前を歩いている。
暗い道で段差があると軽く手を持ってくれ、お姫様扱いか、それとも子供扱いかは判別出来ないけれど、それでも嬉しい。
「……今更だ。 今更ではあるが、何故俺に会おうとしたんだ」
街の中でも目的の場所は遠いのか、彼は僕を休ませるためにベンチで立ち止まって、尋ねる。
答えは単純だけれど、それを言ってもいいのか……分からない。
種族が違うから、気持ち悪がられるかもしれない。 けれど、他に良い言い訳が思いつかなかった。
「……貴方が、好きだから……です」
暗い中、彼の顔は見えない。 気まずさばかりが募って、言わなければ良かったという後悔が溢れてくる。
苦いようなアレンさんの声が、夜に解けるように聞こえた。
「俺は人ではない」
「……はい」
「……文字を教えてもらった。 隣にいてくれた。 魔物と知っても、ただ隣にいてくれた。
それだけで十分だ。 俺の人生は、それで報われた」
分からない。 良いという返事なのか、断りの言葉なのか。
多分、断られたのだろう。 嫌がられたのか、気を使われたのか……。
泣きたい。 けれど、やっぱりという気持ちが強く……気持ち悪がられなかっただけ、幾分かマシだ。
「……ごめんなさい。 変なことを言って」
「……いや、悪い」
「アレンさんが謝ることでは……」
「俺が人であれば良かった」
人だったら、添い遂げてくれたのだろうか。 そんな言い草だけれど……人であれば良かったなどと僕が思うのは、残酷だ。
「……僕が吸血鬼なら、良かったのですか?」
「たらればの話など意味がないだろ」
「……ごめんなさい」
「何にせよ……。 もう遅い、巻き込むつもりもない」
それはどういう意味で……と思っていると、アレンさんの手が伸びて、僕の首を掴む。 何をしているのだろうか、抵抗すら出来ないほどの力の差、すぐに意識が刈り取られた。
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