第6話

 不思議な人である、アレンさんは。 金糸のような髪は汚れてボサボサとしているのに不潔には見えず、汚いどころか紅い目は宝石のようですらあった。


 もの憂い気な表情とか、少し強引なところとか……同じ国の同じ街にいる人のはずなのに、どこか遠いところを感じてしまう。 見たことのない種類の人、そういう印象が強かった。


 そんな彼ではあるけれど、今日は無理矢理帰してどういうつもりなのだろうか。 暇つぶしに本を開くけれど、文字は滑って内容は頭に入ってこない。

 いないアレンさんのことが気になる。 純粋な好奇心とは違う興味が出てくるけれど、今から外に出て会いに行っても、帰ってしまっているかもしれないし、会っても怒られるかもしれない。


 何故、帰れと言われたのか。 なんであんなに焦っていたのか……。 ぬかるみのような思考に囚われていると、突然訪れた銃声に肩を震わせる。


 近い。 驚くべきほど近い。

 気がつけば、夕暮れ時も終わり、外は薄暗くなっている。 断続的に続く銃声と罵声、人の声と無機物の声、恐怖を煽り、音だけしかないけれど、臆病な僕を縮こませるには十分すぎるほどだ。


 この時間は……僕が買い物を済ませて帰ってくる時間であることに気がついた。 もし今日、いつも通りに帰っていたらと思うと肝が冷えるばかりで……それを見越していたようなアレンさんの発言に違和感を覚える。


 吸血鬼のうわさ。 何故か挿絵だけで分かった吸血鬼。 読めない文字。 鉄の匂い。 金髪と紅目。 今、この状況を予想したこと……。


 嫌な状況証拠ばかりが揃って……銃声。 僕は堪らずに布団を被って、逃げるように目を閉じた。

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