おまけ章 夢見るテスラは、少女のコトコロ思い出す

 その昔。7歳の少女が奇妙な事件に巻き込まれた。場所はバルティア郊外。森の中での出来事だ。森の奥には、開けた場所があって、そこに少女が倒れていたのだ。


 少女は『クレーター』の中央にいた。派手に怪我をしていて、骨が折れている箇所もあった。


 非常に不可解な状況。周囲に人はいない。魔物もいない。もし、巨大な魔物が彼女を踏みつけたのであったのなら、ほかにも巨大な足跡が残るはずなのだが、存在しない。そもそも周囲には少女と、第一発見者であるギルドのハンターの足跡しかなかったのである。


 ならばと、そのハンターが犯行に及んだと思われるも、彼は魔法が一切使えない。クレーターがつくれるほどの腕力もなかった。まったくといっていいほど、何が起こったのかわからなかった。


 発見された時、少女には意識があった。何があったのかを尋ねても『知らない』『覚えていない』『わからない』としか言わなかった。


 少女の父や調査団は、彼女が嘘をついているように思えた。というのも、事情聴取をしても、少女は一切怯えていなかったのである。これだけの怪我をしたというのに。


 父親が叱って問いただすも、結局は真相を聞き出すことはできず迷宮入り。だが、幸いなことに、少女は後遺症もトラウマもなく、なにもなかったかのように日常へと戻っていった――。


          ☆


 うつらうつらとしていたテスラが、ふと目を覚ます。どうやら、執務をしていたら、眠ってしまっていたようだ。


「夢か……。いかんな、仕事中に……」


 テスラは、眠気を覚ますためにメイドを呼びつける。


「――誰かいるか」


「はい」という返事と共に、ククルが入ってくる。お盆の上にはアイス珈琲。まさにテスラが注文しようと思っていたモノだ。なんで、コイツははなにも言っていないのにリクエストに応えられるのだろう。のぞき見してたの? それとも先読みしてるの? 未来が見えてるの?


「……ちょうどよかった。珈琲が飲みたかったところだ」


 しかも冷えたやつが。昔のことを思い出して、少し汗が滲んでいたから。


「なぜ、私がアイス珈琲を持ってきたのか不思議そうですね?」


 と、ククルが言った。まるで見透かされているようだ。読心術も使えるのだろうか。


「う、む。まあな」


「テスラ様は、本日は非常にお忙しく、執務作業をしながら夕食。湯浴みの時間もいつもより二分短かったです。さきほど、扉の前をとおった時、起きている気配が感じ取れませんでしたので、デスクで仮眠をされているのだと思いました。テスラ様が仮眠される時は、15分から20分。本日は気温も高く、またお昼の会議で、気分の悪い思いをされていたようなので、おそらく悪い夢を見ると思いました。寝汗をかくようでしたら、やはり珈琲は冷たい方がよろしいかと」


「あ、ああ。なるほど、そうだったか。気が利くな」


 凄い。けど怖い。なんですか、その推理力と気遣いは。


 これぐらい聡明なククルがいたら、あの事件の真相も見抜かれていたかもしれないな――。



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