第23話 子供量産計画?
その後。俺は町のレストランに集合をかけた。集まったのはククル。そして、手伝ってくれると立候補してくれたミトリ。罪を帳消しにする代わりに、無償労働を仰せつかったファンサと生徒43名。
人数が多いから店を貸し切りにした。学生たちがぐるりと見守る中、俺たちはテーブルを囲む。そして、引き続きブチ切れていた。
「ふっざけんなぁあぁぁぁッ! やってやるよ! こうなったら、城壁だろうが城だろうが、なんぼでもつくってやろうじゃねえか! ――城壁には大砲を設置する。銃が撃てる窓も用意するぞ! 内側に向けてなぁあ! それらすべてをシルバリオル家の屋敷に向ける! 完成のあかつきにはテスラ滞在時を狙って、祝砲を撃ち込んでやる」
「は! 設計士に伝えます!」
同じくブチ切れているククルが、速やかに承諾してくれる。
「城壁の対物理も強化だ! 魔石を使ってガッチガチのガッチガチに固める。暴力領主が殴ったら、拳の方が爆散するぐらい堅くする」
「手配いたします!」
「建設中は屋敷に向かって連日連夜呪いをかけろ。金はラーズイッド家が用意する。親父に手紙を送れ! 息子の一大事だってな! 領地を売ってでも金をつくらせろ! なあに、城壁が完成したあかつきには、この町がラーズイッド家のものになっている。先行投資って奴だ! はーっはっはっは!」
「やりましょう! リーク様を侮辱した、あの女に目に物見せてやりましょう!」
「あ、あの、リークくん、ククルちゃん……あまりそんなことを大きな声で言わない方が……」
さすがに見ていられなくなったのか、ファンサ先生が苦言を呈する。彼女は俺たちが、どれほどの侮辱を受けたのかわからないのだろう。無理難題を押しつけたあげく、できないなら遊んでろと。それまでの男だと? そもそも世界最大規模のプロジェクトを、領主でもない、ただの跡継ぎに押しつけるとかなんなの。
「謀反だと思われる……ってか? 関係あるかぁッ! これはテスラが、ラーズイッド家に喧嘩を売ったんだ。俺に喧嘩を売ったんだ! 戦争なんだよ!」
ふと、ミトリが言葉を落とす。
「……お姉ちゃんに
「……ごめんなさい。嘘です。それだけは勘弁してください」
なんだろう。俺の方が絶対に強いのに、あの人の怖さは異常なんだよなぁ。
「俺も興奮しすぎた。どこかでテスラに一泡吹かせたい気持ちはあるが、とりあえず意地もある……。城郭都市化計画は必ず成功させる」
いつの間にか敬称が消えたわ。呼び捨てにしちゃってますわ。
「けど、ミトリ。本当に手伝ってもらってもいいのか?」
「はい! 未来の旦那様のために一生懸命がんばります!」
「結婚の件に関しては保留となっております。ラーズイッド家はそういう方針ですので、一切受け付けません」
バチバチと火花を散らすククルとミトリ。ククルも守ってくれるのはありがたいけど、ちょっと過保護なんだよなぁ。
「生徒たちもいいのか?」
「はい! やります! やらせてください!」「課外活動のようなものです!」「嬉しいことこの上ないです!」「これ、歴史的建築物になりますよ! その礎を担えるなんて光栄です!」「授業より楽しいです!」「勉強になりますよ!」「シルバリオル卿の寛大な処置に感謝! 卿の悪口を言う奴にろくな奴はいないです! そんな奴がいたら殺しましょう!」
無償労働なのに、生徒たちもやる気満々だ。ボランティアというか、むしろ楽しみでしょうがないのだろう。
「うふふ、先生もがんばっちゃいますよ! テスラ様にお願いを叶えてもらったのですからね!」
俺を含めて、やる気のある人員が47名。これを無料で扱える。凄まじい経費削減に繋がるだろう。しかも、全員が優秀だ。
「……じゃあ、会議を始める。――まず、建築の知識がある者はいるか?」
「ダニーくんとミッチェルちゃんが建築に詳しかったですよね?」
ファンサの生徒の中から二名紹介してもらう。彼らは、家が建築関係の仕事をしているので、若いながらに詳しいそうだ。設計の見直しと、見積もりをお願いしよう。
「ありがとうございます!」「こんな形で設計の仕事ができるなんて嬉しいです!」
ふたりとも、将来は建築関係の仕事に就きたいらしい。だから心底嬉しいんだろうな。そう考えると、この仕事も悪くないかも。
「道具に関してはどうだ? 安く用意できるか?」
言うと、ククルが書類を見せてくれる。
「道具屋のリストをつくってあります。ご命令くだされば、すぐにでも見積もりを提出させましょう」
「さすがはククル。――肝心の石材に関してはどうだ?」
これが最大のネックになるだろう。城壁の質量を考えると、相当量の石が必要となる。しかも、品質を要求されているのだ。ここだけは安くできない。
「民間の採石場もリストアップしております。使用する予定のダルコニア石の価格も調査しておきました」
書類を確認する。やはり高価だ。こんなものを仕入れていたら、資金は一瞬で溶けてしまうだろう。さらにいえば、今後数年間、ダルコニア石の価格は急上昇していくのは間違いない。公的機関が必要としているものは、確実に値が上がる。高騰を見越して商人が価格や流通量を操作するのだ。
「あの……それなら、私たちで採石場を運営するというのはどうでしょうか?」
ミトリが、小さく手を挙げて意見を述べる。
「採石場を運営……なるほど、それならいちいち買わなくてもいいな」
初期投資はかかるが、最終的には安く上がりそうだ。しかも、予定よりも早く普請が始まったおかげで、商人や土地屋が押さえる前に動ける。
「はい! それでなんですが、私の方で、ダルコニア石が採れる山を調べてみたんです」
ミトリが地図を広げて、指し示してくれる。凄いな、俺の周囲にいる人間、みんな行動力がある。
「結構、数はあるな」
俺がつぶやくと、ミトリが答える。
「領内では12カ所ほど……探せば、もっとあるとは思いますが、とりあえず、7カ所ほどあれば、当面は回るかと。ひとつにつき7000万ルクで用意できるでしょう」
7カ所7000万なら4億9000万ルク。完全に資金が吹っ飛ぶ。
「そうなると……労働力の確保ができなくね? 俺たちだけじゃどうしようもなくね?」
労働力のメインとなる43名の生徒だけでは無理くない? しかも、魔法産業は禁止されているのだ。しっかりと、肉体労働をしなければならない。さらにいえば、採掘場を運営するための人員も必要だ。
「人が足りないな。短期的にも長期的にも……」
「それなら、子供をつくりましょう! 労働力になりますよ? ね、リークさん?」
そう言って、腕に抱きついてくるミトリ。胸を押しつけるな胸を! そもそも子供を労働力として生誕させるな。
――いや、待てよ。
「そのアイデア……案外上手くいくかも……」
「子供を産ませるというアイデアですか?」
ククルがきょとんとした顔で尋ね返す。
「そうだ。1人が3人の労働力を産めば、43×3で129人の労働力になる」
「リーク様。お言葉ですが、それまでに何年もかかってしまいます」
「かからねえよ。数日あればつくれる」
俺は、ニィと口の端を吊り上げる。産むって言うのは比喩だ。実際は『増やす』ことができればそれでいいわけだ。
「これでも領主の息子なんだぜ。経営に関しちゃ、それなりの知識があるんだ。43人の生徒を使って、129人の労働者を用意してやるよ。――まあ、見てな」
たぶん、この方法は上手くいく。自信があるので、5億のほとんどは採石場と道具の用意へと使ってしまうことにした。
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