第13話 本日の天気は雷となっております

 次の日。俺たちはイシュフォルト図書館があるというクザンガ山へと向かった。


 メンバーは俺とククルとミトリ。あとは、テスラが用意してくれた兵が50名。昼前に出立して、その日の夕方に山の中腹へと移動。そこで一泊。


 夜が明けてから再び移動開始。ここからは俺とミトリだけで向かうことにする。大勢でぞろぞろと向かっても、相手を刺激するだけだ。万が一戦闘になっても、俺ひとりいれば十分だろう。


 ぶっちゃけ、兵には事後処理をしてもらうだけである。戦いになった場合の、怪我の治療とか、生徒たちの拘束とかだ。なので、馬車と兵たちの管理をククルに任せて、俺とミトリが代表してイシュフォルト図書館へ。ふたりとも腰には剣。これぐらいの装備なら普通だろう。刺激はしまい。


 足場はゴツゴツと岩のように悪く、馬車では移動できない。なるほど、本をバルティアへ運ばせるというのも頷ける。こんなところまで読書をしにくるのは難儀だ。


「――ここか」


 徒歩で二時間。

 山の頂上付近に出現した巨大な建造物を見上げる。


 ――イシュフォルト図書館。


 荘厳だ。図書館というよりも要塞。いや、小さな町ならそのまますっぽり入ってしまうのではないかというほどでかい。事実、図書館を名乗ってはいるが、大昔は大勢の人が住んでいたと言われている。居住区や商業区などもあるとか。


 うーん、謎だ。なにゆえこんな場所に、巨大な建造物をつくって、暮らそうとしたのだろう。


「ミトリ。もし、戦いになったら、俺の側を離れるなよ」


「は、はい!」


 正面には巨大な扉。たしか、連中の数は44名だったか。よくもまあ、それだけの人数で、この要塞を掌握していられるものだ。


 中へ入ろうと、俺たちが扉へ近づいたその時、目の前に雷がビシャリと落ちて地面を焦がす。


「っと」「きゃッ」


 窓から若い生徒が顔を出して、俺たちに荒げた声を浴びせる。


「何者だ! ここは神聖なるイシュフォルト図書館であるぞ!」


 見張りといったところか。俺も声を飛ばす。


「俺はリーク。シルバリオル侯爵(テスラ)の使者だ。この建物の今後について話をしたい」


「使者……? 図書館の完全な保全を認めたということか?」


 うん、違う。お互いの妥協案を探りにきたんだ。けど、彼に話をしても仕方がないだろう。


「そちらのリーダーは、ファンサ教授だと聞いている。彼女に会わせてくれ」


「交渉の余地はない! こちらの要求を飲むか否かである。――返事は?」


 こんなところで声を飛ばしあっても、話は進まないだろう。ファンサと会うところからがスタートになりそうだ。俺は気にせず、扉へと近づいた。


「あの、大丈夫なんですか、リークさん。さっきの雷魔法、結構強力ですよ……?」


「心配いらないよ。あの雷は当たらないから」


 歩を進める俺とミトリ。


「おい! 近づくな! お、おい! ――くっ、このッ!」


 生徒が、雷魔法(サンダーボルト)を撃ち放つ。だが、それは俺にぶつかる寸前で軌道を変え、大地へと落ちる。


「な……」と、狼狽する生徒。


 懲りずに、何度も何度も雷を落とすが、当たらない。俺とミトリは、雷の雨が降りしきる中、平然と歩いて行く。


「な、なぜだ! なぜ当たらん!」


「リークさん、どうなってるんですか?」


「ん? ああ、砂鉄を使ってるんだ」


 俺の属性は大地。地面に含有する大量の砂鉄を魔法で操り、俺たちの頭上から地面へと流れるように浮遊させてある。雷というのは、金属に落ちやすい(引き寄せやすい)性質があるので、砂鉄を上手く使い、地面へと誘導させているのだ。もっとも、砂粒のようにちいさい砂鉄は、ほぼほぼ目に見えないので、雷が俺たちを避けているように見えるのだろう。


「ん、この扉……鍵がかかっているな」


 俺なら壊すこともできるが、歴史的建造物なので、傷つけるのは忍びない。俺は、先程の生徒に交渉する。


「おい! 扉を開けてくれ! 開けないのなら、この価値ある扉を、跡形もなく消し飛ばすぞ?」


「な……! や、やめろ! ふざけるな!」


「ふざけてなんかいないよ。――さあ、こっちは条件を伝えたんだ。あとはそっちがどうするかだぜ?」


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