第3話:定番

 私は何をされても大丈夫なように、ゆっくりと机の間を歩きました。

 庶民の教室のように、安っぽい小さな机ではありません。

 貴族に相応しい高価な机が並んでいますが、中には学校の机ではなく、飛び抜けて高価な自分の机を持ち込ませた高位貴族もいます。

 その自前の机が結構厄介で、攻撃魔法を仕込むことは禁止されていますが、防御魔法を仕込むことは許されています。

 ここで学ぶ貴族子弟の中には、常に命を狙われる高位貴族の子弟もいますから。


「ああああ、暇だな」


 王太子の取り巻きの中では上位貴族の男が、不意に大声をあげました。

 私を攻撃しろという合図なのか、それとも単に私を恐怖させようとしたのか?

 ビクビクとした様子を見せて、こいつらを喜ばせる気などありません。

 だからといって、油断している訳ではありません。

 十分な準備をして、何時でも反撃できる自信があるのです。

 どうやら合図のようですね、教室に更なる緊張が走るのが分かりました。


「暇なら寝ていればいいではありませんか、私が代わりに勉強しますよ」


 王太子の取り巻きの中では下位貴族の男が返事しました。

 高位貴族の我儘はよくある事なのでしょう、担任は何も咎めません。

 どうやらこいつが私の攻撃を仕掛けるようですね。

 物理的に仕掛けてくるのか、それとも魔術や呪術を使ってくるのか?

 定番の脚を引っかけるなんて方法を使ってきたら、へし折ってやるんですがね。

 残念ながら、定番の行動はしてくれないようです。

 もっとも席が遠いので、足を伸ばすには遠すぎましたね。


「先生、ノートを二冊分とるんで、消すのはゆっくりお願いします」


 席についてしばらくは何事もありませんでしたが、急に犬が口を利きだしました。

 王太子の取り巻き下位貴族など犬扱いで十分です。

 いえ、嘘です、間違いです、犬も猫もとても賢く優しく忠誠心があります。

 犬ではなく豚です、今喚いたのは豚と名付けます。

 果たして今の豚発言は、何かの合図なのでしょうか?

 

「ウギャアアアアアア、痛い、痛い、痛い、眼が、眼が」


 豚が悲鳴を上げて泣き喚いていますが、十倍反射攻撃を受けたようですね。

 御姉様の時のような無視ではなく、初日から直接嫌がらせできましたか。

 魔術気違いの私には、無視しても無駄だと思ったのか、全てを知って復讐に来た私が、国王や王妃にぶちまけると面倒と思ったか、理由は分かりませんが好都合です。

 相手が無視してきたら、時間をかけての報復になってしまいますが、攻撃を仕掛けてくるなら今日にでもぶちのめせます。


 さっきまでは時間をかけて苦しめる心算でしたが、どうにも湧き上がる怒りが抑えられませんから、一人くらいは今日中に地獄を見せてやりましょう。

 まあ、もう豚は片目が潰れていますから、地獄を少し覗いたようですね。

 でもこれくらいでは許しませんよ。

 その程度の傷では、御姉様の苦しみには全然見合いませんからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る