4.復活祭

 さまざまなひとがここに集まりつつあった。その全員が簡素なデザインの清潔な服を着ていて、目の部分を布で覆われていた。裸足で石の床を歩くぺたぺたとした少し寒い音が、音を攪拌させるために反射性を持つ周壁にぶつかっている。だがだれも声を発さない。

 この空間を見たものはすぐにここが祈りのための場であることを理解する。祈りに必要な空間に充満する空気をコズミックシティの人間は羊水と呼ぶ。この場は羊水で満たされていた。月のない夜で、それもまた必要なことだとひとびとは信じている。

 胎児たちが集まってくる。

 ごく自然にひとびとは円になり、痩身で禿頭の男がひとり、その円のなかにいた。

「死者はもう死なないという一点を除けば生者となにも変わらない」

 男がそう言うと、まわりのひとびとはぎこちなく両腕を肩の高さまであげる。左右のひとと指先が触れあい、全員が音もなく一歩まえに進み手を握り合う。そうして祈りがはじまる。ひとびとは思い出せないことを思い出そうとしていた。

 痩身の男が言う。

「失われ続けた街。もうそこにはない街。茫洋とした記憶のなかにわずかに残骸のみが浮かぶ街」

 コズミックシティは一度滅んでいるとだれもが知っている。だれもが知っているとだれもが言う。だがそれは信じているだけなのだと、これもまた、だれもがわかっている。言わないだけだ。二度以上滅んでいると考える人間はコズミックシティでも一部であり、かれらは異端とされている。この祈りの場はそのひとたちのためのものだ。かれらは祈ることで、何度も滅び続けているコズミックシティの起点――原初のコズミックシティの復活を試みている。

「街とは巨大な虚構だ。人間ひとりの手に余る」

 痩身の男が言い、周囲のひとびとの、お互いを握る手の力が増す。

「コズミックシティは滅び続けている。いまもまだ、それは続いている。滅ぶ街は、そこに住むひとのことを考慮しない。街にとって住人は、どうでもいいものとして映っている」

 手を握り合うひとびとの力はさらに強まり、爪が皮膚に喰いこんでいく。自身の爪が左右のひとの手の薄皮を切り裂いて血をにじませる。そして自身の手もまた、左右のひとの爪によって切り裂かれ血を流す。お互いを傷つけ合い、自分の痛みが全体の痛みに感じられる。

 こうして、静かに祈りは極点に達し、水に溶けていく角砂糖のような緩慢さでひとびとはそれぞれの家に帰っていく。

「自分が生きているのか、死んでいるのかわからなくなったとき、試す方法はひとつしかない。死のうとすること。それだけだ。死者は死なない。生者は死ぬ。それでわかる」

 だれもいなくなった祈りの場でひとりになった痩身の男はそう言って、懐からナイフを取り出して自分の喉笛に突き立てる。


 翌日、誰かが血だまりのなかに倒れる男を発見する。

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