29話

「ぶっちゃけ、私たちってAIなんですよね」


断定GMが衝撃のカミングアウトをした。いやいやいや……俺は内心ビビったがどうにか平静を保って慌てず騒がず砂肝の唐揚げを注文した。レモンは結構……えっ、3Pピースと5Pと7Pでどれかって?……まあとりあえず3は無い、砂肝の唐揚げを3ピース頼んだとしてその先に何がある?って話だもん。軽ゥ~~~~く食べたい場合1~2ピースでいいし、逆に暴食を尽くしたい場合は4ピース以上は欲しい所だ。その点3はさァ……これが砂肝じゃない単なる唐揚げなら3で大丈夫だったろうけども。まあとにかくそういうわけで3はナシ、問題は……メニューを一瞥する。5か7かだな。ウーンどっちだ?実際7ピースくらい食いたい気分でもあるが……しかし仮に空腹度・・・が足りなかったらどうするか。名前を言ってはいけないあの企業は既に俺たちの五感、それどころか五十感くらいは余裕で掌握アンド操作しているため、VRと言う媒体では空腹・・を変動させることが可能である。ヤバい。既にあいつらはAIがメチャメチャ人類を管理してメチャメチャ殺したりメチャメチャ生かしたりする社会を作りうるだけの力を持っている……まあとにかくそういうわけで、ゲームにもよるが基本的に食料アイテムには空腹度が設定されている。別になんかガイドラインがあったり法規制があったりするわけでは無く、単に「あったら面白くね?」みたいなノリで俺たちの胃袋には上限が設定されるのだ……ここで重要なのが上限・・という点で、現実世界における無理をしてでも詰め込む・・・・という選択肢が成立しなくなる……なぜかと言えば、ゲームにおける食料のパラメータが数値・・でしか無いからだ。実際の所、食事のためだけにわざわざ胃の中身・・・・をシミュレートするゲームなんて無い。いや無いは言い過ぎた、2、3……7本くらいだ。古今東西……オシロスコープからVRゴーグルまで、ゲームは即ち単純化・・・だった。だが流石に鋸歯状波と意思添付式変動周波量子波では自由度ってモンが違うし、電子銃と分散集合集中量子銃では表現力ってモンが違う。そのうえで同じフォーマットを使ってるってんだから……まあ、齟齬・・なんてものは山ほど出てくる。その山から回収された粗大ゴミのうち一つが『無理できない問題』ってワケね。そういうわけで7Pは若干リスキーだ、じゃあ5Pかって話になるんだが……これはこれでなかなか問題を抱えている。まず俺の胃袋満腹度の状態はこうだ―――9Pはまず入らない・8Pは非常に厳しい・7Pはギャンブル・6Pはまず入る―――このうち『7はギャンブル』を見て俺は7を保留にしたわけだが問題はその次……6P3P×2だ。こいつはギャンブルせずとも確実に入るラインな上にそこそこの満足感があるというなかなかの優良物件なんだが5Pはこいつと比べると一つ少ない。しかも悪い事に、『様子を見て追加で3P辺りを頼む』みたいなオプションも使うことができない……5Pからさらに3Pを頼んだら出てくるのは8P、非常に厳しいラインだからだ。7Pという『8Pに比べればいけるかも』と思わせてくるラインを蹴って5Pっつーどうも安っぽさが拭えない牌を取ってるくせに、まともな挽回も期待できないってことなんだからな……じゃあ素直に3P2つで6P分頼めよって話なんだが、そうなると今度は8Pに挑戦できなくなる。つい先程8Pは非常に厳しいと言ったが、しかし何事にも例外というものはある……案外イケる可能性も否定できないわけだ。だが6Pを一度頼んでしまうと、もうそこに追加しても最小で9P……まず入らないラインに到達してしまう。つまりこの選択は、ピースを1増やす代わりに挑戦権・・・を失うっつーことなのである。そいつは……中々に困る。何せ俺は砂肝が好きだしバーチャル砂肝も好きだ、いやむしろバーチャル砂肝が好きだ。ぶっちゃけバーチャル以外で砂肝を食ったことが無い。そうなるとやはり、例え極めてリスキーな勝負でも挑戦権・・・は欠かさず獲得しておきたい……そういう思考を持たずにはいられないわけだ。敢えて7Pに行くか?悪魔の囁きが心臓を貫く……7Pは挑戦権もクソも無い一発勝負だが、ある意味で6Pに次いでバランスがいいと言える選択だ……若干心を揺るがせつつもどうにか止める、一体どうすればいい?そうだ……組み合わせを列挙してみよう……まず3Pまあナシ5P挑戦権の代わりに少ない3×2=6Pバランサー7Pギャンブル。列挙してどうする?冷静に考えて何の意味も無いじゃないか……俺は一体何をやっているんだろう?俺は虚しさを覚えた。前にクリアしたデスゲームでの記憶がふと残滓として脳を掠め、思考がまるで一つの生命のように踊り狂う。そうだ、あの時も俺は常に迷ってばかりだった。最初に食うのが耳たぶか耳の後ろの筋肉かで迷って最終的に耳を全部食ったあの時もそうだった、結局決められず、3つ目なり4つ目なりの解決を待つばかりだった。自責の念と共に思考が極端なほど先鋭化し、既に何人か殺してそうなレベルで研ぎ澄まされる……謎の眩暈に襲われる、泥酔だとか混乱だとかの状態異常イリーガルが発生させる演出とは根本的に異なった何かを感じた俺は、気付けば謎の場所にいた。いや何この真っ暗な空間は?5年幽閉デスゲーム・・・・・・・・・と同じレベルで真っ暗だわ……あのゲームは机と椅子と床と天井しか実物体オブジェクトが用意されてない上に机と椅子は図形のテストに出てきそうな摩訶不思議な構造体と言うなかなか衝撃的なアレだったが、流石に10/10ゲーはそこまで酷くないはず……プレイヤーに備わった若干の暗視補正を使って確認したところ机には引き出しがあったし椅子には車輪があった、すげえ!!!!!!!!でこの空間は何なの?俺は思考入力の要領で虚空に向けて問いかけたが応答が無かったので諦めて目を瞑り砂肝について考えることにした。そうだ、何かを見落としている気がする……「運動してもうちょっと空腹度を上げる」とか「多く頼んで余ったらインベントリに突っ込む」とかそういう実行的な話では無く……組み合わせ?それとも……そうか・・・。俺は天啓を得た―――3Pを頼めばいい・・・・・・・・んだ!!!!!とりあえず3Pを頼んで食って、その後に3を頼むか5を頼むか選ぶ・・―――何なら最初の3だけで終わらせるという選択肢も取れるだろう。これによって「最も安定した6P」と「最高にギャンブルしてる8P」の二つの選択肢が同時に机の上に並ぶ……これで完璧だ、エウレカァッ!!!!!!!俺は叫ぼうとしたら謎の音が聞こえてビビった。いや今の何?キィーーーーンって感じだったよねキィーーーーンって。何というか人格分離型デスゲームにおける【統一ユナイト】イベントの時に流れるSEに近い、というかまんまでは?こんなところにもフリー素材が隠れていやがったのか……考えつつ目を開くとそこは居酒屋で、目の前で店員NPCが不思議そうな顔をしている。3Pください!俺は胸を張って注文し、隣の断定GMの方を向いて……


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