28話

夜である。


イヤこう……ネ?みたいな。ネ?ではないが。時間がさ……浪費、されたよね。イヤだから微妙な雰囲気を抜けるじゃん?ざわざわ~~~みたいな感じでおしゃべりが再開するじゃん?最終的にギスるじゃん?で色々あってまた微妙な雰囲気に入るじゃん?という。ループしてるよね、世界が。時間だけが……あと太陽も、無慈悲に過ぎていくよね。そいつらが完璧に俺の眼前から姿を消した時、代わりにあったのが―――カーテンを軽く引き、じゃらっと窓を覗く……この、夜っつーワケよ。マジで俺たち何もしてないもんな、断定GMが「この特設ダンジョンを第10層まで踏破すればクリアです」とか言ってその辺の床からシュイーンって感じでいかにも踏んだらワープしそうな床を生やしてるのを無視していがみ合うか微妙な雰囲気るかしてたもんな。


「なあ、閃いたんだけど」


で気付いたらもう辺りを闇が包んでてェ?すっげーリアルな造形してるカラスがすっげーリアルなモーションでバサーつってそこに溶け込み始めてェ?後にはカァカァって鳴き声だけがこびり付くように残されてェ?


「おい聞いてんの?」


「聞いてるから言わなくていいぞ」


「流石に無理があるでしょ」


というかこのゲームさぁ……初期所持金が宿屋一部屋分・・・・・・にも満たない・・・・・・ってのは流石にどうなの?いや自殺しすぎてちょっとデスペナついでに細かいのを落としちゃった俺にも責任はあるけども、でもそれを勘定してもサァ……ほんと、相部屋・・・に対応して無かったら面倒だったぜ。


「聞けよオイ!!!!!バカ!!!!!!!」


……さっきからどうにも隣がうるさいので、仕方なく返事をする。


「ア~~~~~どうした荒らし・・・……俺はこの部屋に出した金が一番多いってことを忘れんなよ?」


「同率一位を一番って呼ぶの悪質すぎンだよなァ~~~~~」


「イヤでも実際の所さァ~~~こう、バトルロワイヤル型で二人が一人を同時キルしたときにどっちにスコア加算するか、みたいな?あるじゃん、大抵両方に付与するか両方に付与しないかだろ?」


「でも俺の経験したデスゲームではそういう状況で両者を死ぬまで・・・・・・・戦わせて・・・・勝った方がキルスコア総取りってルールの奴あったぞ」


「待て、その剣を仕舞え」


「話していいなら」


「分かったから仕舞ってくれ」


荒らしはじゃらじゃらと剣を仕舞うと、その辺を舞っている妙にハイポリな埃をじゃらじゃらと散らしてじゃらじゃらと言う。


「外に伝える・・・方法を思いついた」


「ほう?」


間髪入れずじゃらじゃらと聞き返す。そいつは全く持ってグッドだ……記憶消去型を外に伝えるのは急務だからな。


「どういうやり方だ」


「ああ、まずもう1年ほどゲーム内時間でプレイする……先延ばしね」


うん。


「いくら60倍速と言っても、365日もプレイすれば6日以上だ―――いくら記憶処理が凄くても、必ず綻び・・が出てくる筈さ。そこを突くワケよ」


なるほど―――足引っ張り作戦か。俺はニヤリとじゃらじゃらと笑った。イイねぇ……現実時間で6日程度で記憶消去型デスゲームの存在を暴ける。あれ・・が成功するか分からないことを考えれば極めてグッドな案と言えよう。ただ……


「―――なるほどな、だが腕力が無ければ足は引っ張れないぜ?どうやってギスギスオンライン絶頂のニュービーを説得しようってんだ」


「暗殺」


却下ァ!!!!!!お前無意味なPKが嫌いなんじゃなかったのかよ!??!?暗殺しなくてもクリアできる課題は、暗殺せずにクリアする!!!!その点は、ゴミ共も荒らし共も変わらないはずだろ!!!!俺はじゃらじゃらと慌てて諭した。


「事はそう単純じゃねーんだが……まあいいや、じゃあどうするよ、流石に俺でも1年間をゲーム内で過ごすことに拒絶心を覚える奴がいるっつーことくらいは承知してるぞ」


なァ~~~~~に、簡単な話さ。



「こんにちは」


俺は挨拶した。

挨拶は大事だ……"挨拶する"という行動をとるだけで"挨拶しない"より確実に上に行けるからな。絶対的な上ってのはこの世界にはほとんど存在しないが、挨拶は違う。


俺に相対するアバターの持ち主―――断定GM・・・・もそこは弁えているようで、こちらに向き直って「こんにちは」と返す……勝ったな。俺は勝った。メニューから「GMコール」を押したらなんか転送されたこの空間における唯一の勝者は俺だった。

俺は断定GMのゴミを見るような目をサーッと躱して続ける。残念ながら俺はゴミじゃない―――勝者だ。


「あの、思考加速をさぁ……1/2くらいに、緩和してくれない?」


俺のハイパー・ウィナー・クエスチョンが断定GMに炸裂する―――勝ったな。俺は再勝利した。


「駄目です、あと死んでください」


YOU LOSE!!!!!!!!!!

今までの人生で見てきた様々なYOU LOSEが脳裏にちらつく、それはまるで走馬灯のようで―――いや、事実として走馬灯だった。加速した世界でさらに加速した体感時間の中、GMは素早くなんかヤバそうなデバイスを掲げていたし、俺はそれに対して反抗する術を持たなかったのだから……脳裏のムービーが体を縛り付ける。スキップボタンはどこだ?早送りでもいい、シークバーなんか実装されてると最高だが……なんでもいい、何でもいいからこのまるで強制敗北イベントみて―な状況を打開させろ……願う間も、走馬灯は倍速処理を施されることすらなく、じりじりと等速で流れ続ける……そう、能力バトル系デスゲームで"敗北"の能力を得た時に出たアナウンス、多重人格型デスゲームで残機が一つ減った時に出たウィンドウ、そして―――社会的ソーシャル・デスゲームのカジノで負けた時に表示された、あの射幸心を煽る安っぽい文字。……安っぽい文字ィーーーーーッ!!!!!!!!俺は唐突にキレた。もはや走馬灯とかどうでもよかった。自分の生命もだ。それよりも3がある状態でHighを押したら2が出たことの方がずっと問題だったし、フルハウスによって得られるはずだった11000Mの方がずっと大事だった……クソがッ!!!!!!!!!!!!!脳が殺意でパンクしそうなので適当に空気中に放出する、ついでに回避もしておく。まだ足りない?VRの世界において殺意はすなわちエネルギーだ。このゲームほどリアルな設計だと案外スタミナとかゲージではない空腹みたいな概念も実装してるかもしれないが、それにしても結局操るのは仮想のアバターなわけだから……やはり殺意はエネルギーだ。中の人が疲れることは無い。空腹も外で栄養共有システムが働いている限り無い。トイレに行きたくなることはデスゲーム中でなければある。でも今はデスゲーム中だから関係ない。仮想世界で人間はエネルギーを溜めて、放出することができる。……放出?俺は何かを閃いた気がしたが、閃きは一瞬にして思考という濁流に流され、殺意と共にエネルギーと化してどこかへ行ってしまった。まだENが残ってる、ついでに質問もしておこう……体勢を崩すGMに対し、俺は言い放った。


「ダブルアッ……ごめん間違えた、お前は一体何を企んでる、断定GMゥ!!!!!」


口から言葉が飛び出るのと、殺意も走馬灯も使い切った俺の脳が通常状態に切り替わるのは……同時の、出来事だった。



「その態度……やはりあなた、気付いて・・・・いますね?」


断定GMがヤバそうなデバイスを維持しながら聞く……なぜコンソールを使わない?この世界のルール自体を改変できる管理者GMが、わざわざちょっとヤバそうなだけのデバイスで戦うってのも変な話だ。ナンセンスの極みだよねナンセンス……俺は脳内で断定GMを煽ったが、ビビって口に出すのはやめておいた。ちょっと態度に出かけていたので、誤魔化すために意味ありげな態度を取る……フッ。


「あくまでも黙秘するつもりですか?」


「あ、いえ別に」


「そう……」


微妙な雰囲気氏が時間を刈り取りに再来した。俺は泣いた。イヤだ、流石にここでまた3時間待つのは精神が耐えられない……!!!!いや3時間待つだけならいい、問題はその3時間が過ぎた後にどう考えてももう一度・・・・3時間待つ必要が生じることである。起き攻めしてんじゃねーよマナー違反だぞコラーッ!!!!!俺はキレながらどうにか微妙な雰囲気氏を霧散させるために話題を紡ぐ。


「アー、エー、最近……どうですか」


自分でも悪手であることは自覚している―――だが、世の中には時として幸運クリティカルというものが存在する。単なる成功じゃ覆らない結果も、100回振ればそこに持ち込める―――つまり俺の勝ちだ。イヤ~~~~俺ってやっぱクリティカル出せちゃうからサァ~~~自尊心をキメつつGM結果の方を見る。さぁ、どう出る……???


「そうですね―――まあ、はい」


ファンブルッッッッッ!!!!!!


これは……俺は身構えた……5時間コースだな。もういっそのこと「そうですね―――最悪、と言っていいでしょう」みたいなこと言ってくれた方がまだマシだったわ、それならまだ話は広がるもんな……何?まあ、はいって。こう……ついさっき俺を殺そうとしたのに……エェ?俺は困惑した。なんかこう、微妙な雰囲気氏が俺を縛り付けている……!!!!俺から発言するとなんか余計に微妙化する気がする……!!!!頼むから話を振ってくれ断定GM……!!!!!俺は必死に断定GMを見つめるが、申し訳なさそうな顔をして視線を逸らすばかり……クソがよ。微妙な雰囲気氏の魔の手は刻一刻とそのシルエットを巨大なそれへと変貌させていくというのに……!!!俺は必死で頭を巡らせる。何か無いか、この場を切り抜ける方法は……!!!!安易に俺から話し掛けると死ぬし、かといって向こうは話しかけてこねーし…………


あっ。


「あの……場所、移しましょうか」


場を切り抜けられないなら、場を変えれば・・・・いいじゃん。


「あ、じゃあ……お言葉に、甘えて」


俺達は飲みに行った。

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