27話

ニュービー達がザワっている。


いや、分かるぜ気持ちは分かる。やっぱミドル的にはウワデスゲームかよダリィ~~~~~程度かも知れねーけど、ニュービーからしてみればもうは???????としか言いようがないもんな、は??????って言う。何なら俺も言ってるもん……は???????????????俺はザワつきながら思った。記憶消去型デスゲーム、やはり実在していたのか……こいつは今年のデスゲームGM地雷行動ランキングが楽しみになってきたぞ。


いや何、記憶消去型デスゲームについては、スレで定期的に「あるんじゃね?」って予想は建てられていたんだ。いつもの・・・・エンジンを使用しているゲームはそこそこの確率でデスゲーム化するが、普通に健全なオンゲーだったり、それどころか一人用ゲームであることだってある―――しかし、その内健全なオンゲー・・・・・・・には一時ゴミ共によって疑惑の目が向けられていたことがあった。そもそもデスゲームかどうかは関係なく、結構な数いる開発者の内誰一人としていつもの・・・・エンジンに関する固有名詞を出さないのがキナ臭すぎンだよね……

こんだけサンプルが集まれば、もう個人の信条とかではない組織的な情報統制を疑うゴミ共も出てくる……そいつらが主張したのが記憶消去型デスゲーム、って訳よ。理屈としては要するに「例のロック情報統制の要領で行けばプレイヤーの記憶消せるんじゃね?」であり、「プレイヤーの記憶消したうえで思考加速も付ければ一切の不自然・・・自然・・に変えられるんじゃね?」だ。普通に考えて極めて荒唐無稽であり、チラシの裏に書くことすら紙資源の無駄に繋がるレベルの陰謀論なんだが……でも皆思ったよね、「やるわ」って。誰一人唱えなかったよね、異議を。っつーかもう異議を唱える唱えない以前に全員が提唱している・・・・・・・・・みたいな状態だったよね。

この仮説が提唱されたのは……確か、スレでの活動がレールに乗ってきた頃だ。あの頃は未知の存在が少なかった・・・・・から、目に映るものすべてに調査隊を送ることができた―――だからその一環として手当たり次第にいつもの・・・・エンジンで且つ有名な奴に突撃したんだけども……当然のことながら無駄に終わった。一応調査開始時と終了時に点呼を取って人数が合うか確かめる、みたいなのもやったんだが……ゴミ共の生存能力が無駄に高いせいで、一名として欠員が出ることは無かった……イヤまあ、本当にただのゲーム・・・・・だった、って可能性もあるんだが。


もっとも、その可能性も―――


俺は目の前の光景・・を前に、考えた。


―――こいつを前にすれば、薄いと言わざるを得ないがね。



ギスギスがヤバい。


「なんでこんなゲームに」「うるさい」「これ蘇生薬とかの裁定どうなってんだろ」「殺すぞ!!」「は?」「やめろって」「死ね」「とりあえず自殺してみてくれる?ぶっかけるから」「いやいやいや」


は???????は一定の閾値を超えて負の感情に変わった(元々負の感情だったのでは?)ようで、そこら中でニュービー達がいがみ合いをしている―――こう書くとつぶらな瞳をしているまだ何も知らないような新米が争っているような印象を抱くが、実際の所このゲームの放牧期間・・・・を乗り越えてなおプレイしているそこそこやり込んでいる連中なわけで……まあ、空間が強い・・・・・みたいな状況が展開中である。だってもうそこら辺にキラキラ~~~~みたいなGolden Effectが散布されているし、その散布元の武器もキャラキャラ~~~~みたいなHolographic Effectに塗られてるもん。あのキラキラ一つ得るのに、いったい何時間のプレイが必要なんだろうか……????俺が立ち尽くしながらぼーっとEffectを眺める間も、ゴールデンいがみ合いはさらに進行し―――


「ヤッてやんよクソがァ!!!!!」


物理的バトルに発展!!!!

こ、これは止めるべきか……!??!??俺は考える。基本的に俺やゴミ共はPKをあまり好いていない……みんなで仲良くデスゲームこそが真理だと考えている。それならば、特に止めない道理は無いのだが……でもなぁ。辺りを見渡す。ニュービー達は……いや、プレイヤー・・・・・達は、傍らで勃発した争いになど気にも留めず、自分たちのいがみ合い……言い争い、地団駄を踏む、掴み合い、死にかけるとなんか出るVRシステム側の警告アラートを確認する……など、自分のやりたいことばかりやっている。つまり彼らには止める意思が無い・・・・・・・・という事になる―――そんな中、ついさっきチュートリアルを終わらせてきたばかりの俺一人で、2人のベテランニュービーを止めることが可能だろうか?いやでもなァ……あっごめんなさいちょっとあの、視界を塞がないで貰えますかね……?あのー!

俺が悩んでいた、矢先。


「バッカじゃねえの!?!?!?」


叫び声が、聞こえた。


ま、まさか俺以外のゴミがいたのか!?!?そうだ考えてみれば当たり前だ、仮GMからゲームが送られてきたその日にデスゲーム・デーが始まるってことは明らかにであり、そしての見据える獲物ってのは大抵は複数・・だ―――それも、大物とはとても言えないゴミスレ民ならばなおさらである……いや俺はゴミじゃないけども。まあとにかく、デスゲーム愛好家という点での同胞がいるのは嬉しいぜ。イヤァ~~~~仲間っていいなァ!!!!!俺は満面の笑みを顔に貼り付けつつ、叫び声の主たるゴミを見て、彼が二句を継ぐのを待つ。

そして、2秒足らずでそれは訪れた―――どうやら初期装備らしきゴミは、太陽を背景に演説を開始したのだ。


「バッカじゃねの!?!?!??いや二回言ったけども、二回言う程度にはバカだよお前らは!!!!何!?!??いがみ合いって何!?!?!?ンなつまんねー理由でPKしてんじゃねェ~~~~~ぞアホォ!!!!PKってのはさぁ、あれだよ?そんな低次元・・・なもんじゃねーんだよイイか?例えば"飢餓ゲージ"みたいなのがあって後7%くらい減ったら死ぬ、みたいな段になったならもうその辺のプレイヤーを殺してアイテムを奪って食っていい。何ならそのもの・・・・規制レーティングが許すなら食っていい。8%や9%でも同じだ。10%は意見が分かれるトコだが……まあ、個人的にはセーフラインだな。でもその点お前らは何?って言う。このゲームには飢餓ゲージもねーし先着で配られる賞金もねーしキルカウンターもねーし沈みかけの船もねーんだよ、それをお前さァ……!!!!!お前!!!!!敢えてそこで殺す???みたいな!!!!!もうちょっと考えてから殺しても何の問題も無くね?っつー話じゃん!!!!!もっとこうアレだよ?無意味な殺し合いにしてもこう……デスゲーム中に結婚かなんかして諸々の人間関係の拗れの結果始まった修羅場の末の殺し合い、みたいなそういう方向性の無意味さであるべきなんだよ!!!!!わかる!??!?!」


俺は泣いた。



おは無~~~。(挨拶)

謎の演説の後漂い始めた微妙な雰囲気は架空の太陽の放つ少々幻想的すぎる・・・光線によって熱せられ、暑苦しさを伴って広場全体を地獄へと変貌させ……地獄が消失したのは、ゲーム内時間で三時間後のことだった。

いやほんと、正直もう「おは」ではないんだよね、「こん」の段階に足を踏み入れつつある……しかも「こん」と言っても、どちらかと言えば「にち」よりは「ばん」だ―――二階級特進してんじゃねーぞクソがよ……こん無~~~。(挨拶)

それで、だ……


「イヤ俺は悪くないって……だってそうじゃんよ、お前らスレ民のクソみたいな選民思想と俺の原理主義トークでいったい何が違うってんだ?そうだよ、中身だけだ。そしてそれは世の演説全般に言えるワケね。世界の構造が悪いよ、構造が」


「おは」氏を卒然として我々の前から去られさせた他ならぬ原因が、初期装備の鎧に付けられた用途がよく分からない鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら俺に話し掛けているこいつ・・・である。


「アーわかったわかったお前は悪くないと仮定することも不可能ではない可能性があるかもしれない……そこについては話さないようにしよう。それよりアレだよアレ……荒らし・・・、どうしてお前はここにいる?」


じゃらじゃらと聞く。ちょっとこのゲームリアル過ぎない?正直鎧で蒸れる・・・のはカンベン願いたいって言うか……無理?そう……じゃらじゃらと項垂れる俺に、荒らしがじゃらじゃらと答える。


「まあ大体、お前の想像している通りだ―――いやね、前に参加した賞金山分け型デスゲームでさぁ、スタートしてとりあえずその辺のプレイヤーを2、3人殺ろうと思ったワケよ」


俺はじゃらじゃらとビビった。怖すぎるんだよな……通報していい?


「駄目だし無理だ。でまァそのゲームはアナウンス型でスタートしたんだけども、初期装備のナイフを振り翳した途端さぁ……なんかブゥンみたいな感じの聞き覚えのあるSEと共にGMが出てきたんだよね、めっちゃ焦ってる風の表情で。そんで言ったんだよ―――『このゲームではPKは禁止です!!やめてください!!』ってね」


じゃらじゃらと聞き入る俺に対し、荒らしはじゃらじゃらと続ける。


「でまァは?っつー話なんだよな、賞金山分けってそれつまり蹴落とし合いを想定してますよね?????受け取る奴が減ればその分俺の賞金が増えるってやらせる気満々ですよね?????なのにどうしてPK禁止なんて意味不明な裁定を行う必要があるんですか?????と。俺はそう言いたい。というか言った。そしたらなんかGMが『デスゲームのことを何もわかってなかった』『リリースは延期します』『教えてくれてありがとう、フレンドになってください』っつってきてさぁ……ンでその後紆余曲折を経て今に至る、っつーワケ」


そうかぁ……俺はじゃらじゃらと伸びをしながらじゃらじゃらと考えた。何というか、その……


「……クズでは?」


「なんで?」荒らしはじゃらじゃらと聞き返した。


「イヤこう……エ、要するに『人殺し禁止』ゲーをあえて『人殺しOK』ゲーに改変させたわけでしょ?クズじゃん」俺はじゃらじゃらと呆れつつじゃらじゃらと言った。


「……じゃあ逆に聞くけども、お前は何でここにいるんだよ」荒らしはじゃらじゃらと聞き返した。


「…………どうしても許せない仕様があったから、ゴミ共と一緒に袋叩きにしたらなんかGMがフレ申送ってきた」俺は仕方なくじゃらじゃらと答える。


「……クズでは?」


俺はじゃらじゃらと黙った。

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