25話

俺はブラウザをそっ閉じした。


如何に科学技術が発展しようと、既に完成されている・・・・・・・が故不変・・を保っている物というのは存在する―――例えば相対性理論に沿えば物質は光速を超えられない、だから光によるものより高速な通信技術も、この先登場しないことになる……イヤまあ、量子テレポーテーションなんかは実用圏内に入ってるらしいけども……アレだ、例えだよ例え。俺は何者かに向けて自分の例えが微妙だったことの言い訳をした。

……まあそういうわけで、不変・・ってのはそこら中にある―――俺がブラウザを閉じるときに聞いたピロリンというSEも、もう随分長い間使われ続けている……ア~~~~SEによって荒んだ心が癒されるぜ……俺は1分間ほど現実逃避するがてら無機質なホーム画面を見つめた後、先程掲示板上で起こったことの一切をセルフ忘却し、しかし忘却しきれなかったため脳裏から湧き上がる記憶に地団駄を踏み、新しい・・・情報で締め出すことで古い・・情報を消し去るという案を思いつき、メッセージボックスを開いた。



エー一件目、「お久しぶりです!!」開かずにゴミ箱に移動したうえで「削除されたメール(30日後に消去)」欄からも抹消し次へ、「DeathGameTest/第九階層実装のお知らせ」オッ来たか、アミューズメメントがひと段落したら行こうかな……いやTestは新階層実装の度にセーブデータがリセットされるシステムだしもうちょっと溜め・・た方がいいか?とりあえずフラグを立てて次、「※贵樣 に 【9億円】 が 贈与されゑことになりまレた※」、削除しつつストア側の機能で通報……次、「クリア特典」ア~~~~分かる分かるなんか謎めき・・・を伴うデスゲームって事前告知なしでクリア特典を用意してるケースあるんだよな……開く、あーミラトラの運営からか確かにやりそう・・・・だわ……イヤやりそう・・・・ではあるけどクリア特典がデフォアバを着飾る用の装飾品・・・って言うのはどうなの?????????しかも非売品ですらねーしこれ!!!ストアで1200ポイントくらい払えば買えるし!!!!もーちょっとこう、"余韻"というか……ナイの?ヤ別にィ、あの、諸々が"ナニ"なら……現ナマ、とかでもイイんだけど……無い?そう……次、「ギフトが届きました!!」お?開く、ほほう仮GMからの物……日頃お世話になっているのでうんぬんかんぬん、ヘ~~~あいついい奴だなァ……とりあえず「受け取る」ボタンをクリックしてギフトをゲット、ウオッ平均評価10/10とは凄いな……俺は基本的にデスゲーム以外やらないけど、これに関しては暇があったら起動してみようかなァ……ひとまず次、「アミューズメメント・オンライン/サービス一時停止のお知らせ」イヤ待てやマジで!?!??慌てて日付を確認……BfDがリリースされた時刻より遅い、という事は例の「BfDやるからいったん休みます」とはまた別の要因という事になる……こいつは何かある・・・・な。恐る恐るクリック、ウィンドウ一杯にぎっちりと詰まった文面が表示される。エー何々?



「アミューズメメント・オンライン/サービス一時停止のお知らせ」


おいゴミ共、このメッセージを読んでるか?エ?ゴミ共ォ。お前らのことだからメールボックスをのほほんと消化していたところ目に留まったこれに対し「イヤ待てやマジで!?!??」と焦り慌てて日付を確認し、そしてそれがアレがリリースされた時より後のものと知りこいつは何かあるなと若干ためらいつつこのメールを開いたことだろう―――アタリだよ。まさか実稼働時間わずか4、5日程度で一度このゲームに幕を引く必要が生じるとは思わなかったが……まあ、いつかは「こうなる」だろうと予想していた。「こうなる」っつーのは要するにさっき書いた『何か』だな、なぜサービス一時停止レベルでデカい問題を引き起こしうる『何か』を知りつつ放置してたのかっつーと、まあ正直に言えばお前らを舐めていた。流石に1週間くらいは持つだろうと思って修正を後回しにしてたらコレだもんな、コレ……ああ、まだ『何か』について書いてないからコレと言ってもわかんねーか……すまんね、この文章は書き起こし型思考入力ソフトで書いてるから、前後に文章を挿入するのがダルいんだわ。

まあアレだ、『何か』っつーのは要するに……「奈落ダイブ」だ。イヤ正直言ってお前らの穴掘りテクを舐めてたよ、いくらゴミ共でも手でDigDigする以上そう簡単に奈落には辿り着くまいって思ってたらもうあっという間に宇宙素粒子でも観測するの?みたいな穴ができてたもんな、ヤほんと気になるんだけどお前らのその「体幹伸縮式多次元掘削」とかいう謎の穴掘り技どういう原理で動いてるの?明らかにたとえそれがバーチャルな物でも人間の、っつーか生物のするべき動きではないでしょアレ……でまァとにかく、お前らがノリでDigDigしてた穴が深すぎてVRツクール側の上限値に達しちまった訳だ、いくら技術が進歩しようがリソースには限界があるからな……奈落ってのは必ず存在しなきゃならないんだよ。でも、どうせそれを分かってるくせに「まだイケる、まだイケる」ってギャンブル中毒みたいなうわ言をキメつつNPCの死体で作った梯子から降りてきて、あの……形容しようのない動きで地面をゴリゴリやるもんなお前ら。このゲームの設計思想は開園式でも言ったようにロシアンルーレット……要するに「生死が掛かってるギャンブル」だから、ギャンブル中毒みたいなうわ言もある意味正解ではあるんだけどさぁ……呟くところを間違えてるじゃん、って言う。このゲームは穴を掘りながら「まだイケる」って呟くゲームじゃなくて、ジェットコースターに乗りながら「まだイケる」って呟くゲームだってことを理解してほしいわマジで。まあ別に当事者のゴミが証明してるように、奈落ダイブしても「永遠に落ち続ける」だけで死にはしないんだけどさぁ……正直あのまま永遠にアバターを落下させてやろうかとも思ったけど、やっぱ1200円(税抜)は貰ってるし一応助けることにしてわざわざコンソールで面倒な作業をやったんだからな……イヤ終わるころには中の人ログアウトしてたけども。

まぁとにかくそういうわけで、アミューズメメントは奈落ダイブ問題が浮上したんでしばらく運営を停止させてもらう、ちなみに奈落ダイブの余波で地割れが発生して諸々が崩壊しちゃったから、復旧にはかなりの時間が掛かるぜ……正直バックアップ取ってなかったのを後悔してるよ。


ちなみに、シーズンパスの有効期限が一時停止中に減るなんてことはないから安心してくれよな……じゃあね。



えぇ……

俺は困った。

とりあえず本文を読んでいるうちに溜まった苛つきをこれでもかと論理マウスに乗せ、若干乱暴な挙動でメールウィンドウを閉じる。アイコンがグルグルやってネットワークをなんやらしている事を知らせる間も、俺は考える―――や、えぇ……最近こういうパターン多くない?こう、デスゲームを攻略してていい感じのトコまで行くんだけど最終的にそのものが倒れ・・ちゃって台無し、みたいな奴。もう今だけでえーっとツイブレとBfDとメメントで―――3本!3本ものデスゲームがメンテ中だもんなァ……あ、ジェネオンは除外ね。あれはもうレジェンドだから……ウ~~~ンしかしどうしよう、今はデスゲームもやってないはずだしスレはアレ・・だし―――考える俺のアバターに、複雑な処理を経て作られた光を、諸々の操作の結果行き着いたホーム画面が投げかける。何か、何か無いか……俺が意味も無く画面をジイと見つめ、延々と考えていた……その時だった。


【ダウンロードが完了しました:1/1】


それまで何の変化アニメーションも起こさず、ただ一枚の写真のように静止していたホーム画面に―――表示されたダイアログと共に、再びピロリンと言うSEが響く。その不変・・を保ち続けてきたSEのリラックス効果が影響したのかは分からないが―――結果として俺はその時、何か・・を発見することに成功した……すなわち、こういった思い付きだ。


―――そうだ、さっき仮GMから送られてきた高評価ゲーを遊べばいい!!!!!


そう、基本的に俺はデスゲーム一辺倒だが……別にそれ以外・・・・が嫌いなわけでは無いし、やっておきたい事・・・・・・・・だって存在する―――素晴らしい案だ、こいつで行こうじゃないか。俺は早速論理カーソルを動かして、ホーム画面に輝く大きめのアイコンへ導き―――


一瞬後には、俺の意識は仮想ホームから仮想ゲームへと移り始めた。



俺は死んだ。


初手自殺を行うプレイヤーは大して珍しくないのか、特徴の無いのが特徴、みたいな見た目をしているチュートリアルNPCは、頭から真紅を垂れ流す俺の死体を視界にこそ入れるが―――無反応。イヤ、厳密にはちょっと反応している……これはアレだな、尊敬・・の眼差しだ。まあ俺はァ???自殺テクに関してはァ、定評ゥ?あの定評ゥ?がァ、あるからねェ……尊敬されるのも無理はないよ、無い……どうよ、他のプレイヤーと比べてもかなりスピーディーな自殺だろ?俺は何者かに向けてドヤ顔しつつ、首をグリンとやってもう一自殺した。表示された二次元的なゲームオーバー画面を理論値7フレームでスキップ、リスポーンして更に自殺を加速させる……!!!!!体をポキッとやって自殺、舌を噛み切って自殺、チュートリアルNPCにタックルを仕掛けてお仕置き・・・・で自殺……!!!!!最早俺の自殺速度に、この世界ゲームの誰一人として適うまい!!!!!俺はテンションを上げつつ、初期装備の剣で切腹した。



死慣れ・・・

それは、デスゲームマニアゴミ共が定期的に行う必要がある―――


実践的儀式、である。

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