22話

「あなた方にとって、デスゲームとはいったいどのような物でしょうか」


いつもの・・・・感じと曇天が包み込む『Bバース・フォーデス・オンライン』の広場、降臨したGMは開口一番そう言った。ニュービーもいるはずなのにいいのか?―――一瞬そんな思考が脳裏に瞬いたが、さっきゴミ共から聞かされた「このゲームはデスゲームなので今のうちにログアウトしてください」とGM本人が・・・・・先程布告したという事実を思い出し、振り払う―――ログアウトしてください、っつー命令を破った謂わば悪い子ゴミ(と俺)だけがこの場にいることになる訳だからな。

俺と同じことを考えたのだろう……ゴミ共からは疑問は一つとして上がらず、代わりに質問の答えが伝えられていく。


「どのようなって……"真実"だろ?」「デスゲームは"デスゲーム"そのものだァ……それで十分なのさ」「"人生"かな……ッァ」「そのッァって何?」「ちょっと待て今どうやって発音した」「理論上最強のゲーム」「終着点」「チューリングマシン!!」


ゴミ共が思い思いの考えを発表し、曇り空とは似つかわしくない騒がしさが広場に漂い始める―――いいね、そういうの好きだぜ。俺もゴミ共と同じように、「もう一つの現実!!!!」と叫ぶ。


その時である。


諸々のゴミ共の答えを興味が有るような無いような微妙な表情で聞いていたGMが、唐突にこちらを指してきた。エ、俺????一個後でも前でも左でも右でもテクスチャの裏側でもなく俺?????俺が確認を取ったところ、GMは頷き―――言った。


それ・・です」


ゴミ共が静まり返る。ウーン曇り空にマッチした雰囲気……GMが続ける。


「デスゲームはもう一つの現実・・・・・・・だ―――この考え方は非常に面白い、そう私は考えています。根拠と言えば。現実と変わらない操作体系全没入型、"他者"の存在―――そして何より、死んだら死ぬ・・・・・・という事実などでしょう……全くもって、実に面白い。」


こいつ……かなり知っている・・・・・ようだぞ。俺はごくりと唾を飲むつもりになったが、このゲームではアバターの口内に唾を生成するシステムが無いらしく、無意味に妙な質感の喉を軽く動かすのみに終わった。他のGM共は妙にデスゲームに無知なところがあるが、このGMは結構デスゲーム文化に精通しているらしい。なんかこう、デスゲーム作成組織における幹部・・的な立ち位置なのかな……???見た感じ『七傑』……いやもうちょい上だ、『五強』~『三人衆』くらい?いや『三人衆』はちょっと盛りすぎだ、となると『五強』~『四天王』辺り……よし。俺はGMを脳内で『四天王』にカテゴライズした。


四天王GMが続ける。


「しかし。確かにこの考え方は面白い―――面白いが、現実において非常に重要な一つの要素・・がデスゲーム群から抜け落ちていることを考慮されていない。そもそも人間はなぜ死ぬ・・のか?それはつまるところ、生きる・・・という行動の後払いとしてが待っているに過ぎない―――逆に言えば、人間は死ぬために生きているのです」


お、オウ?俺はちょっとたじろいだ。し、四天王GMさん……思想がっ!!!思想が強いでヤンス!!!!このタダでさえ自分からデスゲームに飛び込むような激ヤバ集団が大半を占める空間で……!!!!思想を!!!!思想を強めないで!!!!しかし俺の願いもむなしく、四天王GMは若干ヒートアップしつつ続ける。


「しかし―――死ぬために生きるということは、つまりデスにはライブが必要であるという事と同じです。そしてライブには前段階・・・として誕生バースが必要だ!!!だというのにどのデスゲームも……死の前段階ビフォー・デスである誕生バースを描こうとしない!!!誕生無くして、死は存在し得ないのに、ですよ!!!そんなのは本当のデスゲームではないと、私はそう思った!!!だから死のための誕生バース・フォー・デス―――それこそが、このゲームの理念です!!!」


四天王GMの熱弁にゴミ共がザワつく。俺もザワつく。イヤもークッソ強い思想に気圧されてるって言うのもあるけども、何よりその……誕生バースが存在するって言うのは、つまるところ……????ゴミ共も同じことを感じているようで、広場全体に「これ大丈夫なのか……????」みたいな空気が漂いつつあった。しかしその空気の一切を無視し、四天王GMはさらに続ける―――


「つまるところ、こうです―――


このゲームのプレイヤーは、増やせる・・・・


いいんですか!?!?!??

俺は困惑した。イヤこう、もう何もかもが"ダメ"だよなァ~~~~って言う。プレイヤーを増やすってのがもうまず……"ダメ"じゃん、具体的に何がダメなのかってもう……ツッコミどころが多すぎるんだよなほんと……!!!!!

そんなふうに俺と共に困惑の絶頂に立つゴミ共の中から、一人のゴミが歩み出て―――挙手をした。どうも何か質問をしたいらしい。四天王GMが無表情にそのゴミを指すと、ゴミは質問を開始した。


「その増える・・・プレイヤーは―――チューリングテストを突破済みか?」


論点そこなの?


「まだですね」


「じゃあいいや」


いいの?

俺は困惑したが、なんかもう周りが「いいよね~~~~」みたいな雰囲気になってたので空気を読んだ。曇天はいつの間にか晴れていた。ま、まぁチューリングテストを突破したってなら少なくとも倫理的・・・な問題は解消できそうだし……俺が微妙に引っ掛かりを覚えつつ立ち竦んでいると、検証班らしきゴミが歩いてきて言った。


「そこのゴミ―――暇なら検証、やろうぜ」


そういうことになった。



俺はシステムメニューを1.2秒ほどスクロールしたところに割とデカデカと表示されている「繁殖」ボタンをタップした。

目の前の女アバターの検証班ゴミ――中身は不明――も同じ動作をする。


ポンッ、という間抜けなSEが俺と検証班のゴミ共がたむろす洞窟・・に響き―――虚空から・・・・赤ん坊が出現した。ドサ……みたいな感じで落下し、泣き出しもせずただ無表情に存在している・・・・・・


ちょっとこれをプレイヤーと呼ぶのは無理があるのでは……???呆れる俺の前を検証班ゴミが慌ただしく行ったり来たりする。そして3分としないうちに彼らは測定を終え、検証班のリーダー的なゴミに報告を行う。


「えー、繁殖実験サンプルNo.7の体重はNo.1~6と全く同等の模様、親を務めるゴミは毎回交代させてるが身体的特徴に変化が無いので多分同じデータを使いまわしてると考えられる……ステータスについては未確認」


「フム……ちなみに体重はどうやって計ってる?」


報告ゴミは無言で洞窟の一角を指差す―――そこには、なるべく真っ直ぐに近い棒を組み合わせて急遽作られた天秤・・が。入洞口から指す薄い光を受け、でこぼこの影を形作っていた。

リーダー的なゴミは頭を抱えて言う。


「……とりあえず、まともな計測装置を入手する必要があるんじゃないだろうか」


このデスゲームのジャンルはシミュレーション型・・・・・・・・・だった。

シミュレーション型というのは、プレイヤー一人一人を駒と見做すことによって、世界・・そのものを再現しようとするデスゲームジャンルのことだ。ログアウト可能な普通のゲームでやると、たいていの場合において世界・・がまともに作られる前にプレイヤーが飽きて離れていってしまうが……デスゲームのような強引な拘束手段・・・・・・・が存在するプラットフォームにおいてはその心配もない。よく「協力寄りのサバイバル型」等と例えられるジャンルである。


「もっともな話だな……そして計測装置のためには、とにかく文明を発展・・させる必要がある」


そして今回のシミュレーション対象は……文明史・・・、だった。つまるところ俺たちはこの洞窟生活状態からどうにか世界を切り拓き、まともな文明社会に変える必要がある―――ぶっちゃけこれツイブレより長期に渡るデスゲームになるのでは……???俺は若干恐れた。まぁ思考加速50倍って言うしこっちで50年経っても現実では1年か……いや、そもそも50年程度でこのゲームは終わるのだろうか?まぁ何にせよ、中々面倒なゲームに当たっちまったようだな……

俺が考えていると、さっきから取り押さえられ・・・・・・・てモゴモゴやってるプレイヤー・・・・・が何か言いたげである―――俺はリーダー的なゴミに視線で促し、彼を指させた。何故取り押さえられているか?それは彼が―――


「思うんだけど、増やした・・・・プレイヤーを食べればいいと思う」


―――激ヤバ倫理集団こと荒らし・・・の一員だからに他ならない。初手でカマしてくれるぜ……俺は若干たじろぐ。

……そう、この荒らし・・・は、すなわちアミューズメメントで遊具の破壊を破壊してた彼だ。どうも唐突にゴミが全員ログアウトしたのに困惑して、調べたらこのゲームに飛び込んだと知り―――『基本プレイ無料』というストアページに踊る文句に釣られてログインしてきちゃったらしい。

リーダー的なゴミがちょっと引きながら答える。


「ヤこう……倫理!!!!!倫理がもうダメだから、ダメ!!!!!!ナチュラルにカニバリズムしないでくれ!!!!!お前らの文化マジで怖すぎるんだよほんと……!!!!!!」


いやこれちょっとどころかかなり・・・引いてるな……荒らしが肩を竦めて答える。


「ヤだなぁ、基本的にこういう荒廃した世界で安定した食料供給は急務だぜ?―――例えば遥か昔の人類は、農耕によって生活の安定を得た。その農耕・・の立ち位置に収まりうるのが―――このゲームにおける、赤ん坊なんだよ。こいつらはチューリングテストを突破できない程度のAIでしかないから……倫理的問題も発生しないだろう。何より手間がかからない。なんてったってただシステムメニュー開いて「繁殖」ボタンをタップするだけでポンと出てくる、なぜか280日待つ必要もないしどうも繁殖によってHPが減る様子も無い、クールタイムも設定されていない―――はっきり言って調整ミス・・・・だ」


フム……????俺はちょっと妙に思った。荒らし共は、基本的にゲームの調整ミスに付け入って悪事を働くのを嫌う……筋金入りの原理主義者なのだ。なのに赤ん坊を食料にする・・・・・・・・・なんて穏健な提案を突っ込んでくるものだろうか……???リーダー的なゴミも同じ疑問を抱いたようで、


「いやアノ、お前ら荒らし・・・的にそれは……イイの?」


と聞いた。荒らしは答える。


「まぁダメと言いたいところなんだが……どうもこのゲームのGMは『死ぬために生きる』っつー哲学を信奉してるようだからな。第二世代以降のプレイヤーが死ぬのも当然想定済みだろう―――つまり同族に食らわれる・・・・・・・・っつー死のシチュエーションだって既に考えてある筈だ。そうなるとアリ・・の線が濃厚になってくる―――大量に赤ん坊を生成できるのが調整ミスなのはそうだが、しかしそのミスを本来の形・・・・に修正する方法が特に存在しない―――どんなに頑張ろうが、0に設定されている待ち時間を280日に修正することはできないんだよ、そこはもうやっちゃった事・・・・・・・として次に繋げる以外無い―――そう思う訳だ」


な、なるほどなぁ……俺は納得しかけたが、イヤそれで本当にいいのかと自我に急制動を掛ける……このゲームにおける赤ん坊は、要するに無を有にする・・・・・・存在である……シミュレーションゲームにおいて、基本的にそれはイコールで『チート級』と結ばれる。アクションゲーとかだったら無限なんてありふれた話だが、資源管理が重要になってくるシミュではマジでバランスを破壊するからな……例えば赤ん坊を使って発電をしたり、ビルを建てたり、推進力を作ったりもできるだろう……いやそれはそれでどうなんだ。悩みは堂々巡りに入る。


俺は一旦考えを整理するため、システムメニューを軽くいじくることにした。軽くアニメーションを付けてウィンドウが展開し、膨大な長さのページが最新技術をもって一瞬のうちに読み込まれる。エート【インベントリ】【ステータス】【熟練度】【ヘルプ】【オプション】【繁殖】【メモ】【アイテム取引】……このアイテム取引っての気になるな。ウィンドウのリアクトインプッタをポチり、アイテム取引メニューが表示される。

ナ~~~ル程他プレイヤーとアイテムのトレーディングとか金銭の受け渡しとかができるわけねハイハイハイハイ……【アイテム】【申請する】【届いた申請(0)】【各種設定】【ヘルプ】……ボタンが諸々存在する。ってアレ?【ヘルプ】まででボタンは途切れてるのに、なぜかページが結構下まで続いている……何だろう、スクロールして見るか。



そうやって俺が、軽い気持ちで指を忙しく動かし辿り着いた最下層には……こんなボタンが、設置されていた。




【人権取出】

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