21話

一日ぶりの『アミューズ・メメント・オンライン』の広場に、ぽつぽつとログインエフェクト幾何学模様が出始めていた。


恐らく俺と同じように、あのソシャゲをやっていたゴミ共が帰ってきたのだろう……俺は考えつつ、軽く周囲を見回した―――いや待てよ?何かがおかしい・・・・・・・……ジェットコースターでレール代わりにされていたNPCの死体がどこかに撤去されている。メリーゴウランドの屋根の上に積んであったNPCも消えている。他2つ、観覧車とコーヒーカップには目立った変化はない―――いや、よく見るとコーヒーカップの取っ手が戻っている・・・・・。どういうことだ……???こう、定期的にワールドリセットが入って諸々のエンティティが整理されるとかそんな感じなのだろうか。それで、1日ログインしない間にオブジェクトがリセットされてしまった……と。それなら遊具についての・・・・・・・説明はつくが―――しかし、遊具とは別の所で辻褄が合わない。


その別の所というのが―――俺は視線を落とし、地面を見た・・・・・―――この大穴・・だ。ゴミ共がアホな動きをして延々と掘り続け、かなりの深度まで来ている大穴。オブジェクトなりエンティティなりが定期的にリセットされるというならば、この大穴も塞がれていなければおかしい。そうなると、遊具群に起きている異変は―――恐らく、人為的・・・なもの。


俺は四方八方から聞こえる爆発音の渦中、さっきから気になっていた一点・・に目を向ける―――そう、チープながらもかなり巨大な、60のゴンドラを備える観覧車。回転し、時折ゴンドラを爆ぜさせる様はさながらパンジャンドラムである―――こいつをさっき見た時、唯一変化・・が無い遊具だと思っていたが……あの・・ゴンドラ。さっきから前後のゴンドラの爆発の巻き込み・・・・を受けているにも関わらず一切が無傷・・……ついでに言えば、一つだけ風も吹かないのに揺れている……間違いないな、中にプレイヤーがいる・・・・・・・・


もちろんそのプレイヤー・・・・・が知らないゴミでしかない可能性も存在しないわけではないが、しかしかなり考えにくい・・・・・だろう。ついさっきまで、ゴミ共と俺は皆揃って遊園地を中断してソシャゲをやっていた。そしてソシャゲからの帰還・・については、俺が一番早かったと断言できる―――控えめに言ってアレは理論値だよ。


そしてその最速で帰還した、つまるところそれ以降にログインしてくる全てのゴミ共を・・・・・・・見ていた・・・・と言える俺は、あの観覧車に搭乗したゴミが一人もいない・・・・・・ことを知っている―――どいつもこいつもあっち向いたりこっち向いたりしてオロオロしてるからな。そうなると、あのゴンドラに乗ってるのはゴミ以外の何物か・・・・・・・・、という事になる。


一体、誰だ?



速足で向かった観覧車の搭乗口にて答え合わせのお時間だ、数人のついさっきまで泣き喚いてたと思ったら今度は青空を見上げて「きれいだなー」みたいなコトを呟き始める数人のNPC達の中に紛れ込み、明らかにNPCとは違う男アバターが一人、不敵な笑みを浮かべて歩いている……VRツクールのNPCはグラにせよモーションにせよクオリティが低いため、一発でプレイヤーと見分けを付けられるのである。

俺は男へとじりじりと近付く……こいつは遊具破壊の犯人じゃないにせよ確実に何かを知っている・・・・・筈だ。こう、こ~~~っそり近付いてそれとなく話を聞く感じで……


……しかし、その試みは失敗に終わった。


「ようスレ民・・・


いつの間にか・・・・・・後ろに回り込んでいた・・・・・・・・・・男―――どうやら荒らし・・・らしきそいつが、なんかこう囁く感じで俺に話し掛けてきたことが、その証左である……おいやめろよお前マジでサァ~~~~~このVRツクールっつーチープな世界で囁くとかしたら触覚エンジンがバグってなぜか痛み・・を感じちゃうってことを知らないのかよオイ!!!!???アッ痛いやめて……


「イッタイ俺に何の用があるってんだ、ァア???」


痛ェ!!!荒らしが妙にガラの悪い囁きをキメて来た。いやガラの悪い囁きってナニ?????"ガラ"っつー概念と"囁き"っつー概念が反発し合ってるじゃん……


「イヤこっちの台詞なんだよなァ~~~お前こそ何をしてるんだ?オイ荒らしよォ、これは限定公開ゲーだ、ウチのスレに貼られたIDを直接入力・・・・しないとダウンロードすらできないはず……そんなゲームに、なぜお前が乗り込んで来てる」俺は荒らしと距離を取りつつ言った。


「何故かって?―――教えてやるよ、ツイブレがメ・・・・・・ンテに入ったから・・・・・・・・……だ。さらに言うならば、リリース直前にメンテに入るたあデスゲームスレの連中も困っているだろうなと軽く冷やかしに行ったら―――お前らが、こんな面白そうなゲームで盛り上がってたからだよ」荒らしがバカにしたような口調で答える。


な、なるほどなァ……俺は臨戦態勢を継続しつつ考えた。どうやらGMのゴミは、面白いゲームを作ると同時にとんでもない迷惑集団を呼び寄せてしまったらしい……


「じゃあなんだ、これら・・・はお前らがやったって言うのか!!??ジェットコースターも、メリーゴウランドも、コーヒーカップも元に戻っている!!!!!俺とゴミ共がいろいろ工夫を凝らして、NPCの死体を礎にどうにか安定化してた遊具たちが、だ!!!!!!」俺は言い返した。


「ああ……お前らがあのソシャゲを『こんなのソーシャル社会網デスゲーム死の遊戯じゃなくてソーシャルデス社会的死ゲーム遊戯じゃねーかwwwwww』とか笑いながら遊んでる間になァ」荒らしは答えた。


「何のつもりだ!!!!」俺は聞いた。


「なァに、本来の状態に戻した・・・までさ―――全部で1200円も払ってシーズンパスを買ったんだ、これくらいは許されるだろ」荒らしは肩を竦め応える。


「イヤイヤ違う違う、1200円じゃない―――1200円(税抜)だ」俺はリテイクを要求した。


「あーオーケー、全部で1200円(税抜)も払ってシーズンパスを買ったんだ、これくらいは許されるだろ」荒らしは発言をやり直した―――やるじゃねーか。俺はサムズアップした。荒らしもどこか誇らしげに、俺にサムズアップを返してくる。


「いやシーズンパスを買ってるかどうかはこの際どうでもいいんだよね、何でこういうことするの?って言う……俺たちのさァ、努力の結晶をさァ、破壊ィ?破壊したよね、って言う」俺は仕切り直した。


「そりゃお前アレだよ……お前らがあの、デスゲームのデフォルト・・・・・を破壊してるからなンだよね、ヤこれは俺らの基本的な理念だけども」荒らしは答えた……ま~~たこいつらお得意の理念・・とか言うヤツか。


「じゃ何お前、NPCの死体でイロイロせずに遊具を素の状態で使う、常に死の危険がある・・・・・・・状態の方がいいって言うのかよ!?!?!?」俺は聞いた。


「そうだよ」荒らしは答えた。


「そうかぁ……」俺は溜息を吐いた。そうなら仕方ねーかもな……もともと存在していた『こいつとは分かり合えなさそう』みたいな感が増大していくのを感じるぜ……


「というかさァ……」荒らしは何か言いたげである。


「あ、どうぞ」俺は発言権を与えた。


「お前らはこう……デスゲームのことを"理解わか"ってないよね?みたいな」俺たちはデスゲームのことを"理解わか"ってないよね?みたいだった。


「イヤイヤイヤイヤ」俺は否定した。


「何よ」荒らしは聞いた。


「だってお前、それはあの、あまりに極論じゃん……???という、いやお前らの気持ちもわからなくはないよ、要するにデスゲームっつーあくまでも死んだら死ぬ・・・・・・だけの『普通のゲーム』を、『普通のゲーム』と明らかに区別して遊ぶのはフェアじゃない、みたいな……イヤそこまでの『ウワ~~~デスゲーム原理主義者拗らせ始めだな~~~』みたいな段階からなんで『PKのないデスゲームはデスゲームじゃねえ!!!!!』なんて過激派思想にシフトしたかは知らないけども。でもそれにしてもさァ、お前らのその『デスゲームのことを"理解わか"ってない』とかいう概念の定義は明らかにおかしくない?みたいな、だってお前ら自身がPKのないデスゲームは以下略なんていうトンチキ思想に染まってるヤバい集団だってことをまず自覚しろよ、というね?」俺は言った。


「ヤそうは言っても俺はこっちでもちょっと派閥が違ってな……積極的にPKするような奴らよりもうちょっとデスゲーム原理思想に近い感じなのよ、PKマン共は『PKは実装されてるデスゲームにおいて常に必然・・だ!!!!』とか言ってるけども、正直に言えば俺はそこまでかなぁと疑問に思ってる、だから別に『PKをしない』こと自体が本来のゲーム性・・・・・・・を壊してる、とまでは言わないわけよ……でもそれはそれとして本来のゲーム性・・・・・・・ってのは重要じゃん?このゲームで言えばハラハラドキドキアミューズメント地雷原、だ―――この本来のゲーム性・・・・・・・だけは崩しちゃいけないと思ってる、でもお前らスレ民はナチュラルに遊具を改造しまくってもう崩しまくってるじゃん、それはもう、ダメ・・だろ?みたいな」荒らしは言った。


ぐぬぬぬぬ……俺は荒らしと睨み合った。ゴミ共の中にも様々なプレイヤーがいるように、荒らしにも派閥・・が存在するらしい……ややこしいったらありゃしない。俺がどう言い返すべきか迷っていた、その時である。


―――ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピッ


さっきから全方位から聞こえてくる爆発音―――それらすら一時的にとは言え掻き消すレベルで一斉に鳴った、電子音・・・―――辺りを見回せば、ゴミ共がびっくりしてウィンドウを確認している……スレの勢いが一定以上になった―――つまるところ、新しいデスゲームが発見されたことを知らせる通知音・・・だ。俺も目の前でキョトンとしている荒らしに一声掛けてからWebブラウザを開き、スレに直行―――どうも当たりビンゴのようだぞ。


あくまでも一瞬の物だった電子音が過ぎ去ってもなお、広場のマジョリティは爆発音ではなかった―――ゴミ共の騒めき、Webブラウザを開く際の効果音、ログアウトする際の効果音、そして何より―――GMのゴミからの・・・・・・・・アナウンス・・・・・


『えー、新しいデスゲームが発見されたらしいんでそれをプレイするためにこのゲームはしばらく休止です、休止!!!!ソシャゲはなんか違う・・感じがしたからスルーしたけど、VRMMOなら普通にやりたいからね』


ウイ~~~。世界がポリゴンに分解され始める。俺はどうせまた拝める景色だろうと思ったので普段のようになるべく目に焼き付ける・・・・・・・ような行動もとらず、普通にシステムメニューからログアウト。幾何学模様が一瞬映って、あとついでに……




チープな「GAME CLEAR!!」の文字表示の下に―――荒らしが一人、ぽつんと突っ立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る