20話

VRシステムには、大別して二つのゲームジャンル……というかゲーム体系・・がある。


一つが【完全没入Full-Dive】……ゲームの世界に意識を突っ込む奴であり、

もう一つが【白い空間W-in-D-ow】……ウィンドウを二次元ディスプレイに見立てて操作する奴だ。


VRでソシャゲを実装するとなると、ほとんどの場合において採用体系は【白い空間】型である―――スマホのタッチパネルの代わりにウィンドウのリアクトインプッタをぺふぺふやって操作し、【完全没入】のようなサウンドエフェクトの神経直接入力・・・・・・の代わりに、ウィンドウから発されたSEを聞き取・・・ったうえで神経に突っ込む間接入力・・・・を採用―――まさにVRでスマホ・・・・・・という方針を貫いているモデルと言えるだろう。


こいつのスマホと比較した長所には、「思考加速」だとか「環境設定」だとか「操作性」だとか色々あるが―――そのうち一つ、あくまでも一度ダイブしたうえでゲームをプレイするが由の「デスゲームができる・・・・・・・・・」は、今日に至るまで見逃されてきた・・・・・・・長所と言えるだろう。


逆に言えば、今日この長所は発見・・された、という事になる。



いつもの・・・・エンジンはデスゲームの代名詞的存在だ。どのメーカーも固有名詞を出さないため正式名称が不明だからいつもの・・・・と呼ばれている。VRツクール製などの少数の例外を除けば、全てのデスゲームにはこのエンジンが採用されている―――と言っても、いつもの・・・・は何もデスゲーム専用エンジンというわけではない。これが専用エンジンなら、人柱の作業も「ログインしていつもの・・・・感じがするかどうか確かめる」だけで済むのだが……実際の所そうではなく、一般ゲーでいつもの・・・・感じがするという事も多々ある。ただ不思議なのは、その一般ゲーもエンジンについて固有名詞を出さない・・・・・・・・・という点でデスゲームと共通している、という事だ―――まぁそこはどうでもいい。大事なのは……


この白い部屋から、いつもの・・・・感じがしない・・・……という事実である。


そう……俺はゲーム本体と同時展開したWebブラウザウィンドウから視線を外し、辺りをぐるりと見回した。他の【白い部屋】モデルと大差ない……いっそ同一とすら言っていい殺風景な景色。そこからいつもの・・・・感じは全く嗅ぎ取れない―――もし嗅ぎ取ることができていたら、サービスが開始するより先に俺は勘づけただろう。

そもそも製作者がいつもの・・・・勢とは別派閥なのか、それともいつもの・・・・エンジンが【白い部屋】ゲーをサポートしていないのか、etc...はっきり言って【白い部屋】モデルでデスゲーム、ってのは初めて見るパターンなので、エンジンの違いについては思い当たる原因が多すぎて絞り込めない。ひとまずは目の前のコレ・・を片付けてから考えようじゃないか…………俺は自分の左右に一つずつ展開しているウィンドウの内、左にある方に目を落として考えた。

そこには、こう表示されていた。


【正式サービス開始記念!!!3日連続20連ガチャキャンペーン!!!】



「リセマラしたい……」


呟きは白い部屋を縦横無尽に跳ね返り、若干響き・・つつ俺の耳に戻ってきた。

チュートリアル分10連、サービス開始記念キャンペーンで20連、パネルミッションコンプリート報酬10連、更に初回ログイン時限定SSR確定チケットで1連、パネルミッション『チュートリアル』クリア報酬のチケットで1連……合計42連分は、SSR2体、SR11体、R29体という惨憺たる結果に終わった。SSR確定チケットのことを除外して、「41連でSSRが一体当たった」と考えればSSR当選確率が3%くらいなら割と多い方なのではないか?……そんな疑問が頭をよぎったが、3%で41連引いた時の期待値は1.23だからそもそも余裕でリセマラ圏内だし―――それをいったん無視しても実際の所、ガチャメニューでアホみたくスクロールした先の最下層にこっそり設置された「提供割合表示」ボタンを押して得た情報によれば、ガチャの当選確率は、


【==恒常ガチャ提供割合==】

【◇SSR:3.00%×1.50(事前登録者10万人達成キャンペーン)→4.50%】

【◇SR:12.00%】

【◇R:85.00%】


とされており、見ての通りSSR当選確率は4.5%になっているから41連したときの期待値は1.845になるはず―――そして1.8以上という事は実質2以上なのでやはりリセマラ案件である。クソがッ!!!!!!俺はキレた。というかよく見るとこの表当選確率の合計値が100%超え・・・・・・・・・・てんだけどなんか法律に引っ掛からないの……????いやVRだから通報できないのか―――俺は自分の考えが杞憂に終わったことに謎の溜息を吐いた……いやいやいやいやいや。

……待てよ……???通報できない・・・・・・―――という事はVRソシャゲなら絶対に捕まらないから、いくら景品表示法やら特定商取引法やら資金決済法やらを無視しても全く問題ない、という事か……?????えっヤバくないこれ?もう思考加速とかメリットとして成立しないレベルでヤバイ事実が舞い込んできた気がするんだが……な、無かったことにしよう……俺は無かったことにした。


……このガチャ結果については、VRゲー掲示板に「【ゴブラン】これで初めていい?」ってスレを立てて画像を貼った俺に対するゴミ共の「生きてて恥ずかしくないの?」「人生リセマラどうぞ」「詰んだな」などの心温まるお言葉の数々によって「爆死」という判定が下されている……うう。俺は硬い床に項垂れた。orz......い、いやまだわからん。ひょっとしたらこの二体のSSR……もっと言えばSRあたりにぶっ壊れキャラがいる可能性もある。いる可能性もあるんだ……!!!!俺はバーチャル涙を拭いながら「編成」画面を開いた。



俺はキレた。

なぜかって?第2部1章・・・・・の最初の敵が仮にもSSRを二体組み込んだ編成をナチュラルにゲームオーバー・・・・・・・に追い込んだからだ。

いや……厳密にはそこは理由の要ではない。確かに調整として極めて理不尽だが、デスゲームとはそもそも理不尽なものだ。

俺がキレているのは、そこではなく……


【GAME OVER...】

【300示量石を使ってコンテニューしますか?】

【あなたの所持示量石:829→529】

【(※示量石が足りない場合、〈ストア〉で購入が可能です)】

【[はい] [いいえ(死にます)]】


このデスゲームがコンテニュー可能・・・・・・・・という事実……更に言えば、金で生き返れる・・・・・・・という事実に、他ならない。何がいいえ(死にます)だよ……!!!!!俺は白い床の上で地団駄を踏み、殺風景な部屋に勢いづいて衝突音が木霊した。デスゲームのことを何もわかってない!!!!!というか……というか?俺は考えこんだ。

……というか、もうこれは本質からして違う・・・・・・・・のでは……????そう、そうだ……仮GMのアレにせよザスオンにせよ、あまり出来がいいとは言えないようなデスゲームでもある種の一貫性・・・は保っていた……!!!!対してこのゲームはどうだ?とにかくソーシャルゲーム、死の遊戯デスゲームデス要素は、その単なる高難度ソシャゲにぺらっとはっつけた程度の薄みしかない……!!!!

そうだ、このゲームは最早地雷行動ランキングとかそういう物の手が届かないレベルで、他と違う・・……!!!!ゲームエンジンがいつもの・・・・じゃないことも踏まえて考えるに―――やはり、普段デスゲームを発表してる連中とは無関係な奴が運営をしている……!!!ではその運営目的は何だ?そう、簡単・・だ。こいつらの運営目的は―――


―――金を搾り取る・・・・・・、だ……!!!!


そもそものクソ高い難易度設計、これが既に「課金してガチャを回して強くなってね」と暗に要求している……!!!コンテニューにしたって、


「従来のデスゲームでは死ぬところを生き返るようにして見ました」


じゃない、だ……!!!そもそもこのゲームの運営が従来のデスゲーム・・・・・・・・ってのを履修済みとは到底思えないし、生き返り・・・・の条件が明らかに緩い、こいつの設定背景はむしろ


「従来のソシャゲでは生きるところ・・・・・・を死ぬようにして見ました」


と考えられる……!!!!そうだとしたら納得がいく、「いいえ(死にます)」ってのはこっちを舐めてるんじゃない、脅し・・だ。金を払わないとお前を殺すぞと脅しをかけているんだ……!!!!通報されないのを、いいことに……!!!!!



俺はこのゲームはクソゲーだと思ったのでカジノに籠ることにした。


【PORKER】

【♠K ♥7 ♥3 ♣2 ♦7】

【捨て札を選んでください】


ヤもーマジでさァ、やってらんねーわ、っつー。デスゲームを課金制にするって方針自体を貶すつもりはないよ、最近だとちょうどアミューズメメントとかVRツクールの課金システムでシーズンパスを売ってたし。いやそれにしたってさぁ……いやなんというか、ゲームそのものを否定するつもりはないよ。ただ俺に合わなかったってだけだもん。ただまぁ……うーん……。俺はもにょりつつウィンドウを確認し、三つのカードを捨てトラッシュする。チープな効果音と、カードに起こるアニメーション。


【PORKER]

【XX ♥7 XX XX ♦7】

【捨て札を処理します】


さあ来い来い来い来い……!!!!俺が軽く興奮状態に入りつつウィンドウを見つめる間にも、カードはそのスピーディなアニメーションを着実に進行させていき―――


【PORKER】

【♦2 ♥7 ♣Q ♣4 ♦7】

【ONE PAIR】

【LOSE......】

【再挑戦しますか?】


クソがーーーッ!!!!!!!!俺はキレた。もう一回だもう一回!!!!!

「↻もう一度」ボタンを比類なき程の正確な精度でタップ、再び5枚のカードが配られる―――


【PORKER】

【♦J ♥2 ♣J ♠10 ♥J】

【捨て札を選んでください】


オッ?俺はちょっと驚いた。初手でJのスリーカードが出てるじゃんラッキィ~~~~。このゲームのポーカーはツーペア以上の役が出た時に「勝利」判定が出てダブルアップに挑戦できるようになる―――そしてスリーカードの強さはツーペアと等しいから、俺のダブルアップへの挑戦は既に確定したことになる。ア~~~嬉しいねェ……俺は喜びつつ、二つの札を捨てる操作を行った。


【PORKER】

【♦J XX ♣J XX ♥J】

【捨て札を処理します】


さあ来いよ……???俺の願いに応えるように、ウィンドウに表示されたゲーム画面に少々フラッシュの演出が入った―――こ、これは……!!!!!


【PORKER】

【♦J ♥6 ♣J ♠6 ♥J】

TWO・・・ PAIR・・・・

【WIN!!】

【ダブルアップに挑戦しますか?】


待てやコラァ!!!!!俺はキレた。いやそれフルハウスですよね????って言う、ワンペアとスリーカードが同時に出てるし明らかにフルハウスですよね!!!!!何が【TWO PAIR】だよボケが!!!!!お前ツーペアの初期倍率が×1なのに対してフルハウスのそれはいくつか知ってるの??????×12だぞ12ィ!!!!!!12倍!!!!掛け算でダメなら足し算で言ってやる!!!!!俺は1000Mメダルをベットしてるからツーペアなら1000Mなのに対してフルハウスでは12000Mだぞ!!!!!差し引き11000M!!!!!俺の1万1千を虚無に流し込むな!!!!!!バカ!!!!!!俺はひとしきり何かを罵倒した後我に返り、「挑戦する」「2CARDS」と順にボタンを押し、ダブルアップを始めた。


【W UP】

【場のカード:3】

【選択してください】

【High|Low】


ハイハイハイハイ"来た"わナァ~~~~もうコレ。やっぱ俺は"持ってる"からこういうのを"引き寄せる"Powerがアるっていゥカァ?????まぁアレだよね、何つーか……オレ"勝者"だからさもーマジでェ~~~。俺は調子に乗りつつ「High」をタップした。


【W UP】

【場のカード:3】

【出現カード:2】

【LOSE...】

【再挑戦しますか?】


オイオイオイオイ"やって"るわコレェ。いやアノなんつーか、"分かる"んだよねェ~~~オレにはやっぱさァ。"持ってる"からァ?"持ってる"からサァ、もう"乱数"が"操作"されちゃってンの直感で分かっちゃうんだもん。もーマジでクソ。死ね。


俺が悪態をついている、その時である。


ウィンドウ上に、一つのダイアログ・・・・・が表示されたのは。


【ゲームがクリアされました 初回クリア者:うっちー さん】


……この世界の終わりの告知だった。

そうかァ……このゲームがデスゲーム化したときの告知では「ストーリー第10部をクリアしたら解放」とか書いてあったもんなァ……あのクソみたいな鬼畜難易度から考えるに結構時間が掛かるだろうと踏んでいたが―――どうやら、俺は課金兵の底力ってモンを見くびっていたらしい。無機質な白い箱が光に包まれていく。そして天井には貼り付くように「GAME CLEAR!!」の謎の文字―――この文字はいつも、ゲーム側がクリアウィンドウを表示したとしてもそれとは別枠で強制的に・・・・表示される―――デスゲーム以外のゲームをクリアしたってこんな文字表示は出ないことから、恐らくいつもの・・・・エンジンのデフォルト機能かなんかだろうと推測していたが……いつもの・・・・エンジンを使用していないこのゲームでも表示されているのを考えるに、どうやら違ったらしい。となるとVRシステム側に何かしら仕込まれていて、そっちが干渉して表示させているのか……思えば、VRツクール製デスゲームをクリアしてもあの文字が出るのは原作再現・・・・では無かったのだろう。いつものように諸々がポリゴンに分解され、消えていく―――


ウィンドウ一杯にデカデカと表示された、寒色系の「LOSE」の文字が、何かを伝えたがっているかのようだった。

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