19話

俺はソシャゲをやることにした。


いやこう、アミューズメメントをサボる訳じゃないんだぜ?ただ何というか、遊園地ってのはやっぱ通い詰める・・・・・モノじゃないっつーかこう……なんか「シーズンパスを買った次の日に遊園地に行く」って行為に謎の違和感があると言うか……何?


……まぁ何はともあれ俺はソシャゲをやりたい気分なんだ、ストアで検索を掛けたらおあつらえ向きに本日サービス開始ってのがあったんで落としてタイトル画面で待機中―――いかに電撃のごとく市場に登場したVRが超技術でも、プレイにおける手軽さ・・・はどうしてもスマホに負けてしまうため、ソシャゲ市場のトップシェアは奪えていない……しかし、俺の仮想体アバターの前に2次元ウィンドウとして表示されているこれ・・―――『ゴーブラインド・ファンタジー』のタイトルを持つこのゲームからもわかるように、あくまでトップシェアスマホと言うだけで、VRにも結構な数ソシャゲは存在する。


「わざわざフルダイブしてまで自分とウィンドウ以外存在しない白い部屋・・・・で2Dゲーやりたいの?」みたいに言う連中もいるが、それははっきり言って的外れな指摘・・・・・・である。「わざわざフルダイブしてまで」とか、そういう話ではないのだ―――これは謂わば、長所・・の比較だ。つまるところ、スマホが「手軽さ」というVRにはない長所・・を持つように、VRもスマホにない長所・・を持つのである―――


では、その長所とは何か?


―――そう、批判派は勘違いをしている。あいつらがあげつらわざわざフルダイブ・・・・・・・・・ってのはVRの短所・・ではない……だ。フルダイブの有無は、人間の脳味噌にとってはプレイする場所が『現実』か『仮想』かの違いでしかないが……内部的には、フルダイブの長所・・に必要不可欠な前提・・として機能しているのである―――


つまるところ。


VRシステムを使用してソシャゲをやるメリット―――それはすなわち、思考加速・・・・である。



VRシステムの開発販売その他諸々を執り行っている名前を言ってはいけないあの企業は、ダークである―――あくまでもブラックではないダークだ。


そのダークさたるや、場末の匿名掲示板で行われたダーク企業ランキング(投票制)で2位にクインティプルスコアを付けて1位を勝ち取った上で後からそのスレを発見し書き込んだ人間をアクセス履歴から追跡して……これ以上は考えないでおこう、想起リコール・クロール巡察・パトロールが怖い……いやあいつらに見つかってもデータベースに押し込まれたプロファイルがちょっと嵩増すだけなんだけど、その嵩増しが後からどんな影響を与えてくるか分かったもんじゃねーからな……


……まあとにかく、名前を言ってはいけないあの企業には"ダーク"のイメージが分子レベルで結合している―――その数千個ある理由の一つが、思考加速・・・・だ。



サービス開始まであと5分、そろそろタイトル画面を無意味に連打し始める頃合いだなァ……というわけで開始ッ!!!クリック、キュイーン(効果音)、「もうしばらくお待ちください」のウィンドウ、キャンセルボタン、ポンッ(効果音)、クリック、キュイーン、ウィンドウ、キャンセル、ポンッ、キュイーン、ポンッ、キュイーン、ポンッ、キュ、ポンッ、キュポンッキュポンッキュポンキュポンキュポキュポキュポキュポ延々と仮想の指に同じ動きを繰り返させているうち、俺は徐々にトランス状態に入り始めた。ああ、ジェネオンが!!!ジェネオンがあそこに見える!!!!!



思考加速とは、字面通りVRハードを被っている人間の思考・・を上限50倍ほどまで加速・・する技術だ……量子通信回路をシナプスに外付けしてニューロンを増幅するとかそんな感じだっけ?まぁ俺は一介の消費者でしかないから、ゲームハードの内部的情報をわざわざ理解している必要はない……それを必要とするのはせいぜいがゲハ厨だろうし、フルダイブ型VRハードは一社独占状態なのでライバル・・・・の概念が存在せず、ゲハの火の手も弱めである。つまるところVRは非常に優しい世界・・・・・と言えなくもない―――デスゲーム及びそれに付随する諸々を考えなければ、だが。


それでだ、開発者たちはこの思考加速をどんなゲームに使うかのアイデアを片っぱしから出した―――


例えば、マルチプレイゲームでバレットタイム・・・・・・・を―――何ならば、時を止める・・・・・事すらも実現可能だろう。

例えば、限界まで思考加速して事務作業を行えばかなりの効率性が得られるだろう、いやいや意思同期の観点から言って事務作業にはあまり向いていないだろう。

例えば、加速した思考で二つ以上のキャラクターを同時操作することで、友達は非売品です・・・・・・・・問題を解決できるだろう、虚しくならないの?


彼らがそうやって脳味噌を絞る中、数人の集団は自分たちの答え・・に興奮し、異様にテンションを上げていた―――彼らは、こう言ったのだ。



「―――思考加速すれば、スタミナ消費15の〈炎獄のダンジョン〉を3秒足らずで1周できるじゃん!!!!!!」



ソーシャルゲーム―――そう、機械的に作業を行い、そしてその行った作業の総成果・・・を競い合うゲームに……一つの革命が起きた、瞬間である。



キュポキュポやってたらついにサービスが開始したようで諸々のデータのダウンロードが始まった。俺は「あと 2 時間 32 分」とキャプションの付いたローディングバーが5秒後には「あと 10 秒」になってオオッもうすぐかっと思ったらそこからさらに5秒後には「あと 32 分」になりキレた。やってらんねェ~~~~~!!!!!!俺は機嫌を悪くして無機的な白い部屋に寝転んだが、その時何かしらの奇跡が働いてキャプションが「あと 2 分」になったので撤回して気を良くした。イイねイイね……しかし今度は「2分」の状態で固定されていつまで経っても「1分59秒」にならないためさらに撤回してもっかいキレた。ダメじゃねーかカス!!!!!!!



所謂"ガチ"でプレイするソーシャルゲームはつまるところ「受けた苦しみの数を競うゲーム」とも言えるわけだが、スマホでプレイするソーシャルゲームには弱点がある。


時間的制限・・・・・である。


人間がいくら「沢山苦行をしたい」と考えても、人体には諸々の限度がある―――睡眠なり、食事なり、寿命なりの。ソーシャルゲームは時として時間浪費対決・・・・・・に見えることがあるが、それはあくまでも苦行回数対決・・・・・・の副作用として時間を浪費する・・・・・・・があるからそう見えるに過ぎない―――本来、苦しみの数を競うだけならば必ずしも時間浪費・・・・は必要無いのである。ではなぜ時間浪費が無くならないのかと言えば、すなわち現実の持つ時間的制限・・・・・に尽きる―――そういうわけだ。現実では時を止められないし、加速もさせられないし、光速も超えられない……だから、スマホでのソーシャルゲームはいつも人生をブレイクしてきた。


しかし、VRならばどうか?


VRでは時を止められずとも、限りなく遅くすることはできる。加速だってできるし、光速もエンジンによっては超えられるだろう―――時間的制限は思考加速でほぼない物とできるのである!!!!!これによって、人生を終わらせ・・・・・・・ずに苦行をする・・・・・・・ことが可能になった!!!!!!バーチャルリアル・ソーシャルゲーム時代の、幕開けである!!!!



左から徐々に伸びていたローディングバーはついに右端に到達し、キャプションも「あと 0 秒」に変化―――また別のローディングアイコンが出てきて十数秒ほどグルグルやった後に消失し―――遂に、ウィンドウを埋め尽くすデカい文字で「GAME START」の文字表示……!!!!!よ、ようやくスタートだァ……!!!!!!俺は若干興奮した。なんだかよくわからない幾何学模様的なアレがあっち行ったりこっち行ったりした後、OPムービーが……!!!!

と思ったら、始まろうとしていたムービーにテキストダイアログが割り込んできた。なんだァ通知かなんか?後にしてくれよ……俺がバーチャル溜息を吐きつつダイアログを読み込むと、そこには―――



『デスゲーム開催のお知らせ』



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