17話

アミューズ・メメント・オンラインの開始告知はGM降臨型で行われたが―――それは開始告知・・・・と言うよりも開園式・・・と言った方がより本質を表せる類の代物だった。背景にはちょっとチープなジェットコースター・・・・・・・・・、四方八方から鳴り響くファンファーレとゴミ共の歓声の元、チープな壇の上でGMのゴミが演説を行う。


「えー、これより……当遊園地・・・、『アミューズメントの森』は開園いたします!!!!どうぞ、様々な遊具の織り成す夢の世界をご堪能下さい!!!!」


ゴミ共がワーワーヒューヒューと歓声を上げるが―――心なしか音量が小さい。みんな「これじゃ普通の遊園地シムじゃね?」と思っているのだろう、実際の所俺も思っている……質問タイムとかないの?俺の思いが通じたのか或いは偶然か、GMのゴミはチープなマイクに口を近づけて言った。


「ご質問等ございましたら、なんなりと」


場にいる内半数ほどのゴミ+αが手を挙げる。最前列の真ん中にいるゴミが指される―――おい今良い感じの場所にいたから選んだだろ!!!!差別だろオイ!!!!最前列の真ん中を初手で選ぶのは差別!!!!俺はいちゃもんを付けたが、誰も反応しなかったので咳払いして無かったことにした……トホホ、孤独はツラいぜ……指されたゴミが言う。


「なんでお前敬語なの?」


えっそこ突っ込んでいい所だったの……???俺はちょっとびっくりした。ザッと見回したところ俺の他にも数人のゴミがびっくりしている。やった、今度は孤独じゃない……!!!俺には仲間がついているんだ!!!俺はゴミ達を見て喜びを覚えたが、なんか知らないゴミがこっちを見て喜びを覚えてるのを見てキモッ!となり無かったことにした。GMのゴミが答える。


「いやこうお前さァ~~~それ聞いちゃう???ロールプレイって単語をご存じない????イチモク・アンド・リョウゼンって感じの分かりやすさだったと思うんだけどそれ聞いちゃうのォ~~~????」


「でも事実としてお前敬語やめたじゃん、普通に聞いていいのでは?」


「いやそれはさァ、結果論なんだよな結果論……こう、結果的な理論、みたいな?」


よくわからない……俺達はよくわからなかった。GMのゴミからうまい事言おうとして失敗したオーラがむんむんと漂ってくる。哀れなヤツだぜ……指されたゴミも何となく空気を察したのか、挙げっぱなしだった腕を下げて会話を打ち切った。現代の悲劇だぜ……!!!!GMのゴミが気を取り直し、他のゴミを指す……何最前列の真ん中から一個右指してんだよボケ!!!!恣意的!!!!非常に恣意的!!!!乱数生成機持ってこいやクソゴミ!!!!俺は(略)孤独だった。

指されたゴミ(2)が聞く。


「デスゲーム総合スレで『デスゲームじゃないなら貼るな』ってレスに対して『ゲーム内で説明する』って返してた気がすンだけどアレ結局どういう事なのよ」


あーそれ聞きたかった奴だわ……俺は腕組みをして謎の頷きをした。GMのゴミが答える。


「ごめん忘れてたわ」


忘れてたのか……困惑する俺とゴミ共に対し、GMのゴミは慌てて付け加える。


「あー大丈夫だ、今から説明する……とりあえず最初に言っておくとだな」


最初に言っておくと?


「このゲーム、ログアウトはできるけど死んだら死ぬ・・・・・・


は?


「待て待て待て待て」


指されたゴミ(2)が慌てて聞く。彼は今まさに、このチープな広場に密集している全ゴミ+αの気持ちを代弁していると言ってよかった。俺たちの期待を背に受けて、彼は言葉を紡ぐ。


「お前掲示板でこのゲームはデスゲームじゃない・・・・・・・・・みたいな話してなかった??????死んだら死ぬのは普通デスゲームでは????」


ウーン的確な質問、指されたゴミ(2)への好感度が5上がった。ただの最前列の真ん中から一個右にいる有象無象かと思っていたが……こいつはできる・・・ようだぞ。俺が一方的に謎の評定を下す中、GMのゴミは質問に答えた。


「いや―――掲示板ではあくまでもログアウト禁止は無し・・・・・・・・・・って話をしたまでさ」


い、言われてみれば……!!!!確かにGMのゴミは「デスゲームじゃない」と直接口に出して言ってはいない……!!!!俺達外野が勝手に解釈しただけ……!!!!し、してやられたゼ……

―――いやでも、それ・・はその……


「あー……OK分かった、それは分かったんだが―――それはその、成り立つ・・・・のか?」


俺の指されたゴミ(2)への好感度は鰻登りだ。そう―――俺の丁度抱いていた疑問は、ログアウト可能デスゲームはそもそも成り立つのか・・・・・・???という話である。別に「ログアウト可能デスゲーム」に関する思考実験は以前から様々なゴミによって行われてきた。デスゲームとはあくまでもデス死のゲーム遊戯でしかないのだから、ログアウト禁止要素を入れるのはおかしい―――それが彼らの主張だった。しかし今ここにいるゴミ共のほとんどが抱いている疑問からもわかるように、彼らの思考実験は失敗した。デスゲームってのは要するにもう一つの世界・・・・・・・生きる・・・ゲームだから、やすやすともう一つの世界から逃げることができてしまえば生きる・・・要素が薄くなってしまう……このジレンマの解決法はいまだ見つかっていなかったはずだが―――まさか、このGMのゴミは解法を発見したというのか……???自分に向けられた畏怖と疑問と期待が入り混じった複雑な視線をものともせず、GMのゴミは話し出した。


「そう―――成り立つ・・・・のか、それが重要だ。俺は『ログアウト可能デスゲーム』の思考実験に興味があってね―――ずっと考えてきた。その考えの中で出した一つの結論・・を実装したものが、このゲームなんだ」


フム……俺はフムった。やはりこいつは考察をある程度やった上でゲームを作ったようだ。


「まず、だな―――デスゲームについて突き詰めて考えたんだ。結果として分かったのは……デスゲームは本質的に自発的なロシアンルーレット・・・・・・・・・だ、という事だ……と言っても、シリンダーの形状がいささか特殊な奴だがな。デスゲームへの参加はすなわちロシアンルーレットで引金トリガーを引く行為と同じだ、上手くいけば何回引こうと死にはしないが―――しかし上手くいく・・・・・には限度がある。それをわかっているというのにお前らゴミ……そして俺は、デスゲームへの参加という引金に躊躇なく触れる」


フム……俺はフムった。ゴミ共もフムった。まぁ手の込んだ自殺とか割と言われてるしな……そこは認めねばなるまい。


「なぜ人間は引き金を引きたがるか―――それはすなわち、スリル・・・だ。例え死の確率が数万だの数億だのに一回だとしても―――人間はやはりスリル・・・を覚える。そして引金を引くんだ……危険を冒してまで、快感を得るために」


フムフム……俺はフムフムった。ゴミ共もフムフムった。数万分の一で死ぬなら数万回引金を引けば理屈の上では確実に死ぬのに、つい引いちゃうよな~~~


「ところで―――ログアウト可能デスゲームについて先ゴミが出した大量の案の中に、『いい線行ってるのでは?』と俺が思えるものが一つあった―――『デスゲーム内デスゲーム』だ。『ログアウト可能デスゲームの中でログアウト不能デスゲームを開催すればいいじゃん!!!』という物であり、安易に入れ子に走るべきではないという意見によって没にされていた―――しかし、要するに内部で直接『ログアウト不能デスゲーム』をやるから安易・・だとされるんだ―――つまるところ、内部でそれに相当する別の物をやればいい。その一例がロシアンルーレット―――ってわけだ」


フムフムフム……俺はフムフムフムった。ゴミ共もフムフムフムった。なるほどね……しかしそれ・・は―――


「おーっとゴミ共―――お前らの言いたいことは分かる。『ロシアンルーレットVR』とか普通につまんなそうでやだ、とかそういうのだろ?」


ウオー当てやがった……


「分かるぜ、実際ゲーム性は無いし運ゲーだしMMOである意味も無いしで俺もつまんなそうだと思う、だから考えたのさ―――ロシアンルーレットに相当する、つまるところ死ぬかも・・・スリル・・・自発的・・・の3点セットを満たしたうえで楽しい娯楽―――それこそが。」


フムフムフムフム。俺はフムフムフムフムった。ゴミ共もフムフムフムフムった。……こいつの言いたいことが、何となくわかったぞ。


「それこそが、遊園地・・・なんだよ!!!!ジェットコースターの急降下!!!観覧車のゴンドラを揺らす風!!!!あの名前が分からない円盤の延々と続く回転!!!これらにはある程度の危険・・があるはずなのに、消費者は自発的にスリルを味わいに来て、満面の笑みで帰っていく!!!!遊園地こそが・・・・・・実質的にデスゲーム・・・・・・・・・なんだ!!!これこそがこのゲームの理念ッ!!!!「アミューズメントの森」にして、「アミューズ楽しみの中のメメント・モリ死を忘れるな」っつーワケだ!!!」


フムフムフムフムフムフ(略)った。なるほどなァ~~~~。確かに遊園地が実質デスゲームというのは言われてみればそうな気がする。だが……


「でも遊園地ってのは安全対策バッチリだぜ?そう簡単に人は死なないと思うンだけど」


指されたゴミ(2)がまたしても俺の思考をそのまま切り取ったかの如く的確な質問をする―――もう彼への好感度はカンスト状態だ。


「大丈夫だ、安心しろ―――そこはゲーム的な調整・・が入っている。そうだな、例えば―――あれら・・・にしよう」


GMのゴミはそう言うと、何やらパーク内の一点―――NPCが歩いている・・・・・・・・・地点を指し、何やらコンソールを操作する。30秒ほどして作業が終わったのか顔を上げ、続けた。


「いいか―――このゲームを徘徊しているNPCは、自動的に何かの乗り物に乗る。今アイツらが乗ったジェットコースターにはちょっとした細工をした―――と言っても、お前らが死ぬ時と起こることは同じだ」


ほほう……???俺とゴミ共が固唾を飲んで見守る中、チープなジェットコースターは呑気に発進。ゆったりと最初の坂を上がり、一つ目の山の頂点に達したタイミングで―――



―――ドカン。



―――唐突に爆発・・・・・。チープな爆炎は、搭乗していたNPCや、線路の一部や、何よりジェットコースターそのものを飲み込んで―――どこかへ、消えていった。


「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!」


ゴミ共が謎の歓声を上げた。俺も謎の歓声を上げた。自分がどうしてこうしているのかわからなかった。ただ事実として歓声があった。実体として、爆炎を見つめて歓声を上げる謎の集団と共にそこにあったのだ。そんな俺withゴミ共を見てGMのゴミはニコリと微笑み、こう言った。


「―――さあ、シーズンパスは一枚1200円(税抜)だ」


いや金取るの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る