15話

さて。

俺は腕組みをしたつもりになった。

あれから数日、今日がついに「今回の史上最高」であるツインブレイク・オンラインの発売日だ……今が午後4時57分ごろだから、あと3分くらいでサービスが開始されることになる。

発売までの十数日で三本のゲームをプレイしながら乗る・・かどうか見極めようと考えていたが―――明日明日と先延ばしにし、結論が出ないまま今日を迎えてしまった。


……いや、結論が出ていないというのは語弊がある。もう何となく「こうしよう」と頭では決まっているのだ―――新しくゲームを買おうというときに、もう完全にゲームを買うモードに入っているのに、わざわざレビューをチェックしたりしてうなったりすることがあるだろ?それでどのみち買う意思は揺らがないのだから、全く持って無駄なことだ……そして、俺の今の状態はその無駄・・なのだ。足踏みをしているんだよ、ここで。


そうだ……俺は足踏みをする自分を説得するフェーズに入った。残り時間が1分を切ったからだ。このゲームをプレイしない理由がどこにある?ゴミ共はみんなやるだろうし、思考加速だってついてるんだ、デメリットは何もない……デスゲームにおけるデスなんつーのは些細な問題・・・・・に過ぎない、人間は死ぬときは死ぬんだ、そこに差など無い……そして残り時間はもう0秒を切った、ちょっと乗り遅れちまう形になるが……今からでも遅くない。行かない手は無いと思わないか???


……全くだ。


こうして足踏みをする俺と説得する俺は和解し、ホーム画面に常駐させていたツインブレイク・オンラインはついに起動された。さあ行こうぜ、新しいデスゲームが俺達を待ってる!!!!!!!!!!!!しかし起動と同時に【『ツインブレイク・オンライン』メンテナンスのお知らせ】というウィンドウが視界に飛び込んできたため俺はキレた。なんで???????????????????



===


【『ツインブレイク・オンライン』メンテナンスのお知らせ】


===


俺のカメラの前に表示されたウィンドウを、妙に読みにくいフォントがぎっしりと埋め立てている。

いやこう、は?みたいな。マジで何?キレそうなんだよな、何??????自分との戦いに勝利してツイブレ起動して初手でこれ??????っていう、普段なら「あちゃー」みたいな感じだけど今回に限ってはほんと……!!!俺は自己都合で憤りを覚えた。


===


【日頃からVRMMO『ツインブレイク・オンライン』をご利用いただき、誠にありがとうございます。】


===


イヤ日頃もクソもサービス開始したの現実時間で2分前くらいですよね?????俺は首を傾げたつもりになった。流石に思考加速30倍を考えても最大1時間で日頃・・はちょっと無理があるんじゃねーかな……!!!!!ああああクソッ、続きを読む。


===


【この度、一部不具合の修正のため下記日時にてシステムメンテナンスを実施いたします。】


===


一部不具合・・・・・……デスゲームのメンテにおける典型テンプレだ。デスゲームのメンテじゃなくても一部不具合くらいちょこちょこあるでしょって話だが、それにしてもデスゲームと普通ゲーじゃ量がダンチだ。もはや次元が違うと言っていい。『下記不具合の修正のためメンテナンスを行います』って書いてあってフーンどれどれ?みたいな感じでスクロールしたら


『・一部の不具合

・一部の不具合

・一部の不具合

・一部の不具合

・一部の不具合

・一部の不具合

・一部の不具合


【続きを見る(236行)】』


ってな具合だったりする、あの時は普通に略記を使えよって思ったなぁ……俺は怒りを忘れて思い出に浸りつつ、スクロールを再開する。


===


【ご不便をおかけしますが、今後ともよろしくお願いします。】


【・実施日時:――月――日 (―曜日) 17:00 ~ 未定】


===


ちなみに参考までに言うと、このゲームのサービス開始時刻は今日の17時の予定だった。つまるところこのメッセージの先頭に記載されていた日頃・・は二分どころか虚無でしかなかったことになる……俺は頭を抱えたつもりになった。ダメそうだなぁこれ……一部の不具合の修正で終了未定となるともう空中分解とかそういうレベルになってくる、来年までに遊べるといいんだが……まあ仕方ない。俺は諦め、ブラウザを開いた。



「デスゲーム総合スレPart.126」


43:仮想世界の名無しさん

ツイブレ死んだwwwwwwwwwwwwwwwww


44:仮想世界の名無しさん

知ってましたが何か?もしかして自分しか知らないと思ったの?笑


45:仮想世界の名無しさん

ちょこちょこマウント取りに行くのやめろ


46:仮想世界の名無しさん

メンテナンス終了日時未定でワロタ

これは第二のジェネオン


47:仮想世界の名無しさん

思考加速30倍で作業してるだろうしそのうち終わるでしょ


48:仮想世界の名無しさん

>>46

は?


49:仮想世界の名無しさん

ジェネオンの話はやめろ



やめろ


50:仮想世界の名無しさん

>>46

消す


51:仮想世界の名無しさん

デスゲーム総合スレで消すとか言わないでくれ 怖いから


52:仮想世界の名無しさん

しかしツイブレ、死亡フラグは感じてたけどマジで死ぬとはな

史上最高(自称)ゲーってなんだかんだでリリースは間に合わせてくるのが多い印象だったので驚いてる


53:仮想世界の名無しさん

プレイ中にメンテ入ると強制ログアウト入ってクソなのでまだサービス開始前にメンテした方がマシという考え方もある


54:仮想世界の名無しさん

デスゲームで強制ログアウトが入ってクソ←前提がおかしい


55:仮想世界の名無しさん

予約までやってるゲームでサービス開始ドタキャンとかこれもう半分詐欺じゃん……


56:仮想世界の名無しさん

VRなら訴訟の心配も無くてとっても安心!!!


57:仮想世界の名無しさん

これは次世代のプラットフォーム


58:仮想世界の名無しさん

>>55

絶対に通報されないので詐欺ではありません


59:仮想世界の名無しさん

デスゲーム外部に漏らすの禁止なのは好都合なんだけどこういうのは普通に通報したい気持ちもある


60:仮想世界の名無しさん

とっても革新的だぁ……


61:仮想世界の名無しさん

えーせっかく長期型やるって言うから準備しといたのに死んだかー

暇だなあ


62:仮想世界の名無しさん

メンテ終わるまでスリープ入るわ

終わったら起こしてくれ


63:仮想世界の名無しさん

>>62

永遠に日の光を浴びることはなさそう


64:仮想世界の名無しさん

そもそもネットだけの繋がりでどうやって起こすんだよ



さて、俺が頬杖を突いたつもりになりながら延々と掲示板を流し読みしていた、その時である。


まあ、何というか……届いた・・・よね、メッセージが。ピコンッみたいな通知音と共に。ウオッ何だァ~~~????みたいな感じで通知を見たら、差出人の欄に、その……『ツインブレイク・オ・・・・・・・・・ンライン運営委員会・・・・・・・・・』って。ンでオッお詫びメールか~~~????って開いたらさぁ、本文無しのメールに、VRゲームストアのキー・・が添付されてて。なんかこう、詫び石的なアレ?みたいな感じでストア開いてキーを打ち込んだらさ……ビビったよ、『ツインブレイク・オンラインプライベートβ・・・・・・・』って書いてあったもんな。エッ????って咄嗟に掲示板を覗いたけど、これについて話してるゴミは誰もいない。恐らく何かしらの基準で少数人が選ばれている……その少数・・の内訳が俺一人だけ、なんてことも究極的には考えられるわけだ。


……どうする?俺は悩んだ。リリースドタキャンからの無限メンテで錬金術を行うゲームとは結構遭遇したことがあるが……どうもこいつは単純に開発が間に合わないって訳じゃなさそうだ。なぜドタキャンと同時にβへの招待状を送ってくる……????何もわからない、こう何かしらの罠な気がするんだが……まあいい、デスゲーム自体が罠の塊・・・みたいなモンだ―――この程度の地雷、踏んでやろうじゃないか。俺はそんな結論に至り、ゲームのダウンロードを始めたのである。



ログインし、いつもの・・・・感じを覚えつつ開かれた俺の視界には、中の上くらいのグラで描かれる諸々が映っていた。具体的に言うとティーテーブル・カップ・椅子・青い空、飛び交う鳥……全部見覚えがあるので多分アセットかなんかだ。

さてそんな中……一つだけアセットらしくないものがあった―――VRシステム登録時にキャラメイクによって登録する、デフォルトアバター・・・・・・・・・である。もっと言えば、そのアバターの外見にはひどく既視感があった―――はっきり言うならば、それは元GM・・・のものだったのである。奴はこちらに気付くと、振り返って軽く微笑んだ。一方、その微笑みを受けた俺は困惑した。


「いや何でお前ここにいんの?」


俺の質問に対し、元GMは


「えっと、それはですね―――その、が来たら話します」


と答えた。……????わからないことが多すぎる、まずなぜ元GMがここにいるか―――ツイブレは元GMが運営しているゲームだった?こいつはそういうゲームを作るタイプとは思わなかったが……しかし人間は変わる。とりあえず「ツイブレは元GMが運営しているゲームだった」という仮定を行おう。その場合に浮かぶ次の疑問―――とは?元GMと組んで二人体制でGMをやっている??デスゲームってのはなぜかGM一人が開発から販売から運営から何から何までやるものが多い、というかほとんどすべてがそれだ……理由は不明だが、大事なのは理由ではない―――二人体制・・・・だと?今までずっと一人でやってきたあのGM共が……何かしらルールに変更があったのか?


俺が考察に耽る中、元GM―――いや、GM……ドタキャンしたから現ではないか―――じゃあ、GMということにしよう。仮GMがこちらに知らせる。


「あ、来ましたよ!!!が!!!」


ほう?俺が仮GMの指さす方を見ると、そこには―――中の上くらいのグラフィックで描かれるどこかで見たエフェクトを霧散させ、もう一人のデフォアバが立っていた―――こいつがか……何か見覚えがあるような……


は迷いなくこちらへと歩いてきて―――その動作からも、やはり見覚えを感じた―――、言った。


「―――本日は、ツインブレイク・オンラインプライベートβテストにご参加いただき―――誠に、ありがとうございます」


……あっ。


俺は気付いた。気付いてしまったのだ。記憶の海にトラウマとして投棄した記憶が呼び覚まされ、が誰なのかに心当たってしまったのだ。

そう、感情を感じさせない態度、礼儀正しい振舞い、そもそも仮GMと組んでいる・・・・・・・・・という事実―――導き出される結論は、一つ。


―――俺の前で綺麗なお辞儀をキメたそいつは……間違いなく、ザスオンのGM・・・・・・・だったのである。

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