14話
さらに4日後。
『ミラーチ・トルべラン・オンライン』の発売日である。
流石に三回連続で
それにしても典型的な
俺はクレバー・アンド・スマートに考え事をしつつ、いつものように周囲を見回して状況把握……不安げなニュービー、面白サイトを見ようとしてブラウザにロックが掛かっていて絶望するミドル達、部屋のスペースの内殆どを埋め尽くす
ふーむ総合するとワンルーム型デスゲーム、協力か競争かはわからない……ってところか。いやおかしくない?俺はノリツッコミした。いやおかしい、おかしいんだよな、さっきから情報が一つとして増えてないんだよなァ~~~~~やだってさっきと今とを比較してみたらこうなるわけじゃん?
「それにしても典型的な
↓
「総合するとワンルーム型デスゲーム、協力か競争かはわからない……ってところか」
……怖すぎなんだよなほんと……何なら「典型的な」が抜けてる分情報がそぎ落とされてる感すらあるぜ、情報エントロピーの増加、って奴ね……やりすぎると最終的に脳が熱的死を迎えてすべてが滅ぶ[要出典]っつー非常に恐ろしい現象だ、注意しなければならない……俺は自戒しつつ気を取り直し、さっきから存在感を発揮している天井に備えられた
さて、そろそろだろう……
沈黙を―――――
沈黙―――――
……あー、経験則ではこの辺で
……検証でもするか。
◆
閉じ込め型デスゲームがオープンワールド型と対極に位置しているというのは既知の事実だが……閉じ込め型と一言で言っても、オープンワールド型との
「隙間は無いな」
「当たり判定はベクトル系かな?」
ワンルーム型の特徴は言うなれば
「ちょっと天井まで登れないか試すわ」
「900度の出っ張りも無いような壁でどうやって行くんだよ……」
それで、だ。特徴がないということはつまり
「イヤ何で登れてるの?どういう操作したらそうなるんだよ」
「いや分かんねーんだけど多分アバターのデフォルト握力が強めに設定されてるんだわこれ」
つまりワンルーム型では、GMが来るまでの間にちょうど今の俺とゴミ共のように検証を行うことが、
俺の元にゴミが駆け寄ってくる。
「おいそこのゴミ、暇なら俺の検証を手伝え」
いいぜ。俺は承諾した。相方ゴミと共に壁を登り、天井を這い、目標地点―――スピーカーに向かう。
「良し着いた……で、このスピーカーで何の実験をするんだ?」
なぜか異常に高く設定されている握力で天井に貼り付く俺が聞くと、
「ああ―――こいつを、
なぜか異常に高く設定されている握力で天井に貼り付くゴミが答えた、なるほどね……俺は納得しつつ軽く質問する。
「合図はどうするよ」
「あーそうだな……3つ数えたら一斉に、みたいな感じで」
「了解」
よーし行くぞ、3、2、1……
「ちょっと待って」
何よ。
「3つ数えるっつったら普通1、2、3では?」
「いや3、2、1でしょ」
「いやいやいやいや
「エェ~~~しゃーねーな、じゃあ1、2、3で」
行くぞ、1、2、3!!!
俺とゴミの力が合わさり、スピーカーの結合部への負荷となって襲い掛かった――――
◆
結論から言うと、スピーカーが取れた。
いやこう、
取れた。
現在ゴミ共は二手に分かれている、一方は無残にも硬い床へと落下したスピーカーの分解・調査班、もう一方は……天井の、スピーカーがさっきまであった場所に代わりに空いている
俺は前者に参加しているが、正直そのことを悔やみ始めていた……だってこの部屋、あまりにも何もなさ過ぎてネジ一本開けられてないもんな……仕方なく、今は爪でどうにかならないか挑戦している。俺が血だらけの爪をネジにガンガンやり、ゴミ共が血だらけの手を握りしめて応援する光景が今ここには広がっている、地獄だ。
しかし、地獄には時として蜘蛛の糸が垂らされることもある。
『君――ザ、達、――は、ザ―――も――気付――て――る―――ザザザ』
―――この場合の蜘蛛の糸とは、すなわちスピーカーから聞こえてきたノイズ交じりの音声―――つまるところ、GMによるデスゲーム開始宣言だった。遅かったじゃあないか……!!!!俺は棘のある言い方をしつつ心中で歓喜した。ようやくデスゲームが始められる……!!!!もうスピーカー分解なんて地獄は終わりにして、早く第1フェーズへの準備をしようぜ、皆……!!!!
俺とゴミ共は謎の喜びを感じた。血だらけの手と血だらけの手による血だらけの握手が行われた。スピーカーから聞こえるGMのゲームルールを説明する声すらもが、何だったらそれに挟まる無機質なノイズ音までもが小さな喜びをたたえているようにさえ感じられたのである―――ビバ、人間!!!ビバ、デスゲーム!!!!世界は素晴らしさに溢れていた。
◆
しかし気のせいだった。
俺達―――俺とゴミ共だけでなく、このゲームにログインしている全プレイヤー―――は現在、暗闇に包まれた
調査班のゴミがどこかを指差す。俺が覗き込むと―――そこには、なんかめっちゃログアウトしそうなポータルが設置されていた。実際に踏んでみたゴミによると、アレを踏むとゲームクリアの判定が出てログアウトできるらしい。このゲームはブラウザが使えないタイプだから、これを伝えるためにわざわざリログしてここまで来たそうだ……お疲れ様としか言いようがない。
箱の上に作られた長い列がその全長をどんどん縮めていく。ニュービーが、ミドルが、ゴミが……次から次へとポータルへ飛び込んでいく。この分だとあと3分、ってところか……ものすごくちょっとだけ暇だな。俺が暇していたところ、一つ後ろに並ぶゴミが肩を叩いてくる―――話がしたいのだろう。
「どうした」
俺が振り返って聞くと、ゴミは話し出した―――あと2分くらいかな?
「なあゴミ、どうしてこんな変な場所に、ポータルが設置されていたんだろうな」
何だ、
「フム……お前、ワンルーム型は初めてか?」
「……よくわかったな」
ゴミが若干目を丸くする―――あと1分30秒。
「ワンルーム型がよく閉じ込め型の代名詞みたいに言われるのはな、単純な殺風景さもあるけど―――何より、
「演出だと?」
ゴミが首を傾げる―――あと1分。
「そうさ、ワンルーム型にはプレイヤーを
「―――それが、演出だって言うのか?」
目の前におどろおどろしい文字で表示された「Phase 1:寝るな」のウィンドウを無視し、続ける―――あと30秒。
「そうだ―――つまるところ、ワンルーム型におけるプレイヤーに見える全ての
「ああ―――だから、その
飲み込みの早いゴミだ―――考えながらポータルに飛び込みつつ、最後に一言。
「そう!!!閉じ込め型における
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます