13話
荒らし共の実態はよくわかっていない。
精々が規模はさほどではなさそうだという事、恐らくクローズドなチャットルームか何かを本拠地にしている事、後は―――そうだな、
例えば、
その場合、
これらのことからわかるだろう―――
◆
闇オーラマンはメニュー画面を開いた状態であたふたしている。恐らく
一つ、残りHP5割。
さっき火の鳥ウイングに触れたときに6割削れてから大体2分半経ってることを考えると、
二つ、残り渇きゲージ4割。
水筒は取り出したものの先程の闇オーラマンによるファイヤー奇襲のせいで補給できないままになっている、ゲームによっては水筒を
三つ、装備品は右手に握られた水筒一本。
光を照り返していることを考えると金属的な何かで覆われている可能性がある。武器として使用できるかは不明……攻撃力未設定でも、VRゲーム特有の
四つ、インベントリの中には火の鳥の羽が一本だけ。
闇オーラマンが投げてきた松明の出どころはよくわからない、どこかに採集ポイントがあるのだろうか?あったとしても、俺はそれを見逃すかそもそも近づいていないかで、特に恩恵を得られていない。火の鳥の羽は……触れた時にLv3で6割のスリップダメージが発生したから、咄嗟に出して自爆するのに使えるか……イヤ、あのスリップダメージははあくまでもドロップ時限定の特殊な物だろう、インベントリから出しても
五つ、wikiのコメ欄に書き込んだ「あらしたすけてCF8ちてん1ー1」という文字列。
視覚に頼らず思考入力オンリーで書きこんだためどんな返信がついているかはわからない、近くにいるとしたらδ2班あたりだろうから、彼らが救援に来てくれるのを祈るしかない、となると時間稼ぎが最も有効な戦術か……こっちはHPが半分しかない上、相手はPK大好きマンたる荒らし共……殴り合いで勝てそうにはない。
そういうわけで、俺は時間稼ぎをすることにした。とりあえず適当に挑発する。
「その仕草……オイ荒らし、お前さては松明が尽きたな?エ?いっつもいっつもデスゲームを無鉄砲に攻略してるせいで、残弾管理もできないんだな?エ????」
俺の謎の煽りに対し、荒らしは
「……もしそうと言ったらどうするんだよオイ、慎重極まりないプレイのせいでェ、ここまで来てェ、松明一本ゥ?取得できていないィ、スレ民クゥンァ????ォ????俺が松明を持ってないとしてェ~~~~テメェ~~~にはアドがあるのかよオイ???????」
これ言うほどすましてるか?俺は自分がついさっき行った形容に突っ込みを入れつつ、適当に言い返した。
「ホォ~~~~ウ?????俺が本当に松明を持っていないように見えるのカネ?????エァ??????ァ?????幾つものデスゲームを踏破して、場慣れしきったこの俺がァ~~~???」
俺の特に中身のない反論に闇マンは答えた。
「逆に聞くがよォスレ民……お前は
闇マンはどうやら俺が何らかの手段で隠し持っている切り札である松明を何らかの手段で封じたらしい―――こいつ、
「フン……フフフ、フフフハハハハハ!!!!!ハハハハハ!!!!!!」
俺は意味ありげに笑った……ゴゴゴゴゴという燃焼の音と俺の笑い声が合わさり、聞いたこともないような怪音波が形成された。いやマジで何これ?なんつーかこうキュォーーウェウェウェミョーンみたいな感じの……何?闇マンは怪音波にたじろぎつつ、どうにか口を開く……相当な手練れのようだ。
「―――――――っ!!!―――――――――ぁ!!――――――!!!―――!!!」
「イヤごめんなんて?」
俺は聞き返した。怪音波がこの辺一帯を包んでいたせいで、彼の言っていることが聞き取れなかったのだ。闇マンは少々イライラし出したようだ……不快な気持ちにしてしまい非常に申し訳ないぜ。俺は申し訳なかった。
「――――……―――――ぇ!!!―――――ぅ!―――――!!!」
闇マンは多少声を大きくして言い返したようだが……これでもまだよく聞こえない。
「もっと大きな声で頼むーーーっ!!!!!!」
俺は大声で言った。闇マンがもう全身全霊を声に込めるとかそういうレベルで頑張って声を出す。いいぞ、行けーーーッ!!!!!
「そうやってーーーーッ!!!!!!笑ってられるのもーーーーーーッ!!!!!!今の内だぞーーーーーーーッ!!!!!!!!お前の用意してる切り札は、全部把握してるんだからなァーーーーー!!!!!」
その時―――そう、俺に声を届かせようと頑張る闇マンの背中を押すように、いつしか怪音波は消えていた。バサバサとうるさかった火の鳥も、どこか別のマップに移動したようだ―――あれ徘徊型モンスターだったのか。どうりでこんな辺境にもいるわけだ―――それは偶然だったのだろうか?それとも、何かしらのプログラムが働いた結果なのだろうか?しかしそれは重要ではない、俺はただただ、彼の言葉がついにこちらに届いたのが嬉しかったのだ。
「バーーーカ!!!!テメ~~~に切り札を把握されていることなんざァとっくにわかってんだよ!!!!!!なぁ、これが何を意味するか分かるか????
俺は大声で俺が何らかの手段で隠し持っている切り札を何らかの手段で封じている闇マンすら封じられていない何らかの手段で用意された複数の切り札を闇マンが何らかの手段ですべて把握していることを何らかの手段で把握していると主張した。どうにか
「ごめん、水休憩取っていい?」
「いいよ」
俺達は水休憩を取ることにした。
◆
焚火が燃えている。
「やっぱさァ、サバイバル型デスゲームで積極的にPKしに行くのって
俺は焚火の向かいに座っている闇マンに言った。闇マンは腕組みをして軽く考えてから答えた。
「あー確かに俺らの理念はあくまでも
俺はwikiを弄りながら―――いやコメント欄で俺の救援依頼が無視されてるの何で?????ナゼ????いや結果的にどうにかなったけども、それにしてもあのかなり切羽詰まってそうな救援依頼を無視するなんてことある??????ゴミ共が怖い……よ、よし……ちょっと聞いてみるか。えーっとさっき救援依頼を出したものだがなんたらかんたらなんたらかんたら……送信。―――答えた。
「だろ?賞金型は俺は大嫌いだけど最終的に賞金っつー
うわもう返信来た早っ……えー、どうせ何とかなるだろと思ったので放置した、実際何とかなったので問題ないと思った……問題アリアリなんだよなァ~~~~!!!!!!俺がゴミ……もとい上級者だからよかったようなもののォ!!!!もしニュービーだったりしたらァ!!!!普通にィ!!!!死んでたァ!!!!可能性もォ!!!!!あるんだぞォ!!!!!!俺は顔を真っ赤にしつつ思考入力をフル稼働させて高速タイピングを行った。あとついでに闇マンがなんか言ってきた。
「イヤサバイバル型って本来確実に一人は死ぬデザインなんだよな―――いやすまん、サバイバル型は主語がデカすぎた……にしてもだぜ、少なくともこのゲームは
コメ欄のゴミ共ォ!!!!!何が「顔真っ赤でワロタ」だよクソがッ!!!!!!!!!!!バカ!!!!!!バカ!!!!!!!!!俺はキレながら答えた。
「ァア!?!??……失礼、いやでもさぁ、PK前提ゲーを死者0でクリアする、っつー基本方針をスレ民は掲げてるわけよ、実際の所対処マニュアルだって大量にあるし、デスゲームで死者が出たって話もそうそう聞かない……その大量の対処マニュアルが遂行されてる以上、PK前提っつーのは
闇マンが言う。
「そこ!そこなんだよなァ~~~スレ民と俺らが相容れないの。そもそも俺らはPK前提ゲーをPK前提じゃなくする、ってのが嫌いなんだよね、スレ民の自己都合で勝手にゲームを捻じ曲げんなよって言う。PKゲーはPKゲーとして楽しもうぜ、バトロワでGMを殺してどうにかしたりサバイバルで物資が尽きる前にラスボスを倒したりさぁ……捻じ曲げるくらいならもう
議論が白熱してきた。俺は脳のどこかが高揚するのを自覚しつつ、その高揚が上げたテンションでもって答える。
「いやデスゲームでそれ言う?????デスゲームで?????ログインするまでジャンルが分からなくて、ジャンルが分かったころにはもうログアウトボタンが消えてるデスゲームで言う??????ってなるじゃん?みたいな。なるよ、なる」
闇マンもテンションが上がってきたようで、間髪入れずに反論をする。
「いやそれはさ」
その時である。
さっきから聞こえていたゴゴゴゴゴという燃焼の音が突然消えた―――闇マンが辺りを見回す中俺は考える……潮時か。
一瞬後には、世界は分解され始めた―――空に謎の「GAME CLEAR!!」の文字表示、赤黒に黄金って絶望的に合わねぇなオイ……呆れる俺を取り囲む炎が、地面が、闇マンが、そして俺が……無機質な、無数のポリゴンへと姿を変えていく。結局、水筒の使用回数を2つ残したままになっちまったな。俺もラスボス戦に参加したかったが―――
ふと、目の前の元人型を見る……そいつは腕を、胴体を、脚を失って、なお残されたポリゴンで
―――こいつと話せたし、まあいいだろう。
そう思った一瞬後。俺の眼球は、奇怪な音波と、熱気と、火の鳥と、闇のオーラ的な何かと、その他諸々に倣った。
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