12話

さらに5日後。

『バーニング・インフェルノ・オンライン』の発売日である。


俺は炎に囲まれた・・・・・・砂漠を歩いている。

バーニング燃焼インフェルノ焦熱地獄ッつーンだからもう火がボーボーで汗がダラダラなんだろうなァ~~~みたいな予想を建てて覚悟こそしてきたが、はっきり言ってその覚悟すらも文字通り生温い・・・ものだったのだろう。実際の所火はボーボーどころかゴゴゴゴゴだし、汗に至っては垂れる間もなく水蒸気と化して空へと旅立ってしまう……マジでいなこれ、今まで体験したVRの中で一番熱いと言っていい……俺は考えつつシステムメニューを開け閉めした。なんつーか雰囲気・・・がそれっぽくないから、GM降臨型以外の形式で始まる予感がする……いやそもそもこのゲームはあくまでもデスゲームと思われる・・・・ってだけだから、俺がデスゲームに巻き込まれたプレイヤーではなくただのハズレを引いた哀れな人柱と化しても全くおかしくはないのだが……閉開閉開閉開閉開閉開……お、来た―――ログアウトボタンが消えている。俺は視覚でそれを知覚したのと同時に、聴覚の一部が何かにジャックされる感覚を覚える―――ああ、今回はアナウンス告知型・・・・・・・・か。ジャックされた聴覚を推定GMの声が埋める。


『ついさっき、あなた方のシステムメニューからログアウトボタンを撤去させていただきました……あなた方はゲームをクリアしない限り、永遠に囚われの身ということになりますねェ!!!!!ハハハハハ!!!!!ハハハハハ!!!!!』


アナウンス告知型ってのは要するにウィンドウ告知型とGM降臨型の合いの子みたいな存在だ。ウィンドウ告知型の「招集無しでプレイヤー一人一人に一斉告知を行う」要素と、GM降臨型の「音声という結構情報量が多いうえにながら・・・で聞ける媒体を使用する」要素の複合―――まぁいいとこ取りとまでは言えないが、よっぽど癖のある情報でなければ大体はこれで告知できる。もっと流行ればいいのにな……感慨に浸る俺に、GMのやかましい声が情報を伝える。


『そしてさらに!右上に視界をずらしてみればUユーザーIインターフェースに先程は存在しなかったゲージが追加されていることが分かるでしょうゥゥッ!!!!!』


えっマジ?俺は言われた通りに視界をずらした。うわ本当にあるじゃん……黄緑に染まったHPゲージの下に、青塗りのゲージがもう一本追加されている―――あ、既に20%くらい空になってない?どうなってるんだこれ……俺の疑問に答えるようにGMが言う。


『そのゲージは―――渇きゲージ・・・・・ですッ!!!!!!』


えっそういう感じなの?


『徐々に減少していくそのゲージが0になればあなた方は死亡ッ!!!現実世界でも死亡します!!!!しかしご安心を―――回避手段は存在する。例えばマップに存在する水場に行けば水分を補給できるし、初期装備にも水筒が存在する―――他のプレイヤーのそれを、奪ったっていい………………ハハハハハハハッハッハッハ!!!!!!』


……単なるちょっと暑いだけのオープンワールド型デスゲームかと思っていたが……どうやら違うようだ。


長引きそうだぞ、これ……!!!



オープンワールド型は理不尽型との相性が非常に良いと言っていいが、だからといって何もそれしか組み合わせが存在しないわけではない。

その一例がバトルロワイヤル型―――というより、競争寄り協力型・・・・・・・との組み合わせだ。競争寄り協力型っつーのは要するに「別に他人を倒さなくても勝てるけど倒すメリットがデカいよ」みたいなデスゲームタイプのことだ。下位ジャンルである「山分け型」などがポピュラーだろうか。


オープンワールド―――つまるところ、システムによる死・・・・・・・・が非常に多いタイプと、競争寄り協力という蹴落とし合い・・・・・・のタイプ。これを両立させるためには―――他者をシステムに・・・・・・・・よって間接的に殺す・・・・・・・・・ようなゲームデザインにすればいい―――システムによって間接的に殺すとはどういうことか?つまるところ直接剣を突き刺すのではなく、突き刺されようとしている剣に対して構えた盾を奪えばいい。ではこれを前提として、オープンワールドにおけるとは?とは?――――そう、環境・・と、物資・・、である。


――――オープンワールド・競争寄り協力型……通称、サバイバル型・・・・・・


今回の例で言うならば、環境とはすなわち灼熱・・で、物資とはすなわち水筒・・だ―――

奪い合いが、始まる。



俺はとりあえず放浪することにした。


サバイバル型における蹴落とし合いの何がいやらしいって、クリアに近付かないどころかむしろ遠ざかる・・・・ことだ。盾では敵を斬れないが、盾を持っていた人間は貴重な戦力になる―――その貴重な戦力を潰し合わせて、刹那的な安堵のために将来を捨てさせる。はっきり言って非常に性格の悪いゲームデザインと言える。このデザインにハマらないためには、早急にラスボスを倒してゲームをクリアするほかに手はないのだが―――都合の悪い事にこのゲームはラスボスがどこにいるか明示されていない・・・・・・・・タイプだ。幸いにもwiki的な物にはゲーム内からもアクセスできるようなので、とりあえず手分けしてマッピングを行おう―――そういうことになった。だから俺は放浪し、周りに何かないか観察しているのである。


……ウーン焚火、火柱、火壁、火噴水……どこもかしこも炎だらけ、としか言いようがないなぁ……そのうえこのゲーム、どうやらオープンワールド型デスゲームにたまにあるNPCが存在しない・・・・・・・・・パターンのようで、そこら中に点在している炎はただ誰も説明も無く火の粉を散らし続けている……なんだよもう不気味で嫌だなぁ……唯一生命らしい・・・・・と言えるのは、赤黒い空の下でバサバサボボボとやってる火の鳥だけである……いや何で火の鳥がいるの?俺は困惑した。炎がめっちゃある場所に火の鳥がいるッてのは理屈としては分かるんだが……いやこう、あのボボボキラキラみたいなエフェクトを見ろよ、っていう……明らかにレアモンスターじゃんね、それをこの辺境としか言いようがない場所で説明も無く放し飼い……???いやむしろ辺境だからこそ火の鳥がいるのか……???


俺は脳を疑問符で埋めつつwikiに火の鳥について書きこんでいたところ火の鳥が強い光を放つ何かを落っことしたのでビビった。いや明らかにあれレアドロップ的なアレ!!!!!具体的に言うと羽かフンか涙あたり!!!!!急いで落下地点に移動、羽らしき形状をしたレア泥を回収……する過程でなぜかHPが6割削れるが気にしない、まぁサバイバル型ってのはちょっと理不尽型のエッセンスが入ってる物が多いからな、6割はちょっと想定よりダメージとしてデカかったが……


考えつつ、HPバーに目をやる―――む、下にある渇きゲージが後40%くらいか。えーッと確かwikiによると初期装備の水筒が50%回復3回分で水場でチャージ可能……よし、この辺りで一飲みしておこう。俺は手で模様を描いてインベントリを開き、初期状態で先頭に配置されている水筒を実体化アクティベートする。何でこうデスゲーム……っつーかVRゲーム全般のアイテムってのはいちいちアクティベートする必要があるものが多いんだろうなぁ、別にメニュー画面からワンタップまたはツータップくらいで「消費しました!」アナウンスとエフェクトだけが出る、みたいなのでも俺としては全然構わないんだけどな……あー実体化状態の方が「渇き」を「満たす」アクションとして分かりやすいからかな?まぁなんでもいいが……


幾何学模様のエフェクトを脱ぎ捨てて焔光を照らし始めた水筒を俺が掴んだ、その時である。


「うおっ!!?」


突然飛んできた焔炎を纏った松明を必死で避ける―――オイオイPKに目覚めたニュービーとでもエンカしたかな?俺がその辺にあった火タンプルウィードに突っ込んで火力負け・・・・の末黒墨となった松明を確認して振り向くと、そこには闇のオーラ的なアレをめっちゃ撒き散らしてるプレイヤーがいた―――どうもただのニュービーではなさそうだ……まさかこいつは・・・・……俺が迎撃態勢に入る中、プレイヤーは闇のオーラ的なアレをめっちゃ乗せた言葉をこちらへ放つ。


「―――今の一撃を避けるかァ……やはりスレ民・・・ってだけのことはあるねェ」


やはりこいつ・・・……っ!!!俺は迎撃態勢をより一層本格的なものに移行させつつ、闇のオーラ的な彼―――いや、あの野郎・・・・を適当に煽って時間稼ぎ……あとこっそりwikiのコメント欄に救援依頼を書く。


「おいおい―――お前らの腕はそんなもんだったか荒らし・・・共ォ~~~??」


闇オーラマンがにやりと笑い、インベントリから次なる松明武器を出そうとして在庫が尽きたことに気付いてちょっと焦る―――こいつらこそが通称荒らし・・・―――


ゴミ共とはまた別の、デスゲーム愛好家派閥だ。

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