9話

ゴミがやられた。

このゲームのプレイヤーの自然回復力はなぜか異様な高さに設定されているため、基本的にモンスター側は一撃死を狙う必要がある。彼の肉体を容赦なく貫いたザ・デスゲーム・オンライン第9階層フロアボスの五足歩行ペンタグラムイカの持つ五本の触手による猛攻は、まさにその条件に合致した攻撃だったと言えよう。


「し、知らないゴミーーっ!!!!!」


俺は叫んだ。

……クソッ、分かってた、分かってたはずなんだ……!!!デスゲームをプレイし続ける以上いずれ絶対にの瞬間は訪れる、それは十分に理解できていたはずなんだ……!!!でも、でもこんなあからさまに罠なゲームで死ぬなんて、永遠に別れるなんて、そんなのあんまりじゃないか―――!!!

俺は偶然にもイカと同時に倒れた知らないゴミに寄り添い、せめて何か会話をしようと試みた。


「おいゴミーー!!!!死ぬな、ゴミーーー!!!!!!」


「お前は……なんだ、ゴミか……なぁ、ずっと気になってたんだ―――デスゲームで死んだとき、俺の死体はさ、いったい、どこへ行くんだろうな……?いくら通報ができなくても、死体という……現物は、のこっ、ウッ!?」


「ゴミ!!!ゴミ!!!!ゴミーーーー!!!!!!」


ゴミは息絶えた。ゴミーーーーっ!!!!!!

そして2秒くらいで謎の光に包まれて復活した。は??????????????????俺は物凄くキレた。は??????????????????????????????復活ってナニ????????????????????????????デスゲームで復活???????????????????????????いやゴミが復活したのは嬉しいけどでもデスゲームで??????????????????????これが現実世界に現れた謎の魔術師が蘇生してくれましたとかだったらいいけどデスゲームで????????????????????????ナゼ???????????????もうそれデスゲームじゃない??????????ア????????????????


俺は脳がキケンな感じになってきたのでシステムメニューから「GMコール」を選択し責任者に問い詰めることにした……うう、UIすらも安っぽくない・・・・・・からあんまり直視したくないんだが……俺がコールを送ってから二秒足らずでGMがやってきて、言った。


「どうなさいましたか?」


いやそれがよォ~~~~。俺は切り出した。ここに立ってるゴミがさっきさァ、死んだわけよ。んでまぁ死ぬのはいいんだよね、デスゲームだから。でも死んだ後に光のエフェクトに包まれて3秒足らずで復活するのはどういうことなの??????デスゲームに復活要素を何故入れた??????なぜ???????


GMは答えた。


「お客さまが安心・安全にプレイできるよう、仮にゲーム中死亡しても復活できるよう設定させていただいています」


は?俺は困惑した。いやこう、は?イヤイヤイヤイヤイヤ、もう王道か邪道かとかそういうレベルじゃないよね、問題が。いやデスゲームなのに死んでも死なない・・・・・・・・ってもうそれデスゲームじゃねーじゃん。ちょっとログアウトできないだけの普通のゲームじゃん。いやこう、えぇ…………????このGMは諸々を履き違えているとは以前から思っていたがこれはもう履き違えという段階を逸脱している。なんというか、そう……………………………俺は良い感じの比喩をしようとしたが思い付かなかった。まぁとにかくこのゲームは色々とダメ・・だ、デスゲーム抜きで消費者庁に通報したい出来だよ、本当に……


「お望みとあらば、今からでもあなた意識データを削除いたしましょうか」


元GMは言った。……どうするよ?俺に視線で聞かれたさっき死んだゴミは答えた。


「いやさァ、そんな単純な話じゃないんだよねデスゲームにおけるっつーのは。あのなんつーの?偶発と必然のバランスっつーかこう……何?わかんねーわ。「デスゲームで死んだから死ぬ」と「ゲームで死んだから自殺する」には違いがあるっつーか……まぁとにかくこの事実が発覚しちまった時点でこのゲームはデスゲームとは呼べねーよ。もしこのゲームが誰も死なずにクリアされたとしたら、実は死なない・・・・・・っつー事実が観測されずデスゲームだったことにされるだろうけど、今観測されちまったからもう無理だ―――いわばシュレディンガーの猫よ。認識されるかどうか・・・・・・・・・が重要になってくるわけね」


ゴミは言った。俺は全く分からなかったがよく分かったので頷いた。そうだそうだ~~~~GMは不思議そうな顔をして豪華なエフェクトを撒き散らして消えていった……ウッ目がァ!!!俺は反射的に両目を潰したが第9層まで来て上がりに上がった自然回復力のせいで1秒足らずで回復してキレた。

さっき死んだゴミが話しかけてくる。


「それでどうするよ?次の第10層で最後だけどぶっちゃけ復活ありって聞いて萎えたわ」


「わかるなぁ~~~~……でもクリアしないとログアウトできないんだよな」


俺は答えた…………

……クリアしないと・・・・・・・ログアウトできない・・・・・・・・・


「それなぁ……」


ゴミ共がめんどくさそうに答えてきたが、俺の思考は既に会話とは別の所へ行っていた。……思えばこのゲームはすべてが王道・・の上になかった。始まり方も、ルールも、マップも……何もかも。なぜそうなったのかはわからないが―――あのGMが宇宙人なのか何なのか知らんが、とにかく普通の人間じゃないせいで認識に齟齬が発生した結果なのだろう。それはまあいい……問題は、だ。どれもこれも王道じゃない中、一つだけ王道に・・・・・・・即している物・・・・・・があったってことだ……それが『クリアしないとログアウトできない』という事実だ。デスゲームなんだから当たり前だろって話だが、ここのGMはそのデスゲームの当たり前大前提の一つである『死んだら死ぬ』すら壊して見せた―――なのに、なぜ『クリアしないとログアウトできない』ルールだけが曲げられていない……?何かが、何かが裏にあるはずだ……俺は考えたが、特に何も思いつかなかったのでこの話はなかったことにして先を急いだ。ウオ~~~~ラスボス戦だぜ~~~~~



ラスボスである巨大アルマジロが死んだ。

戦闘中にゴミが一人死んだのだがこのゲームの謎の復活システムで生き返り、それをゴミ共全員が目撃したせいで死んでも死なない・・・・・・・・ことを全員が知っている状態が出来上がってしまった……彼らはカンカンで、既に消費者団体が結成され会合が行われている。消費者団体のゴミが「こんな不当なことは許されないー!!!」と言い、消費者団体のゴミが「訴訟という鉄槌でもって、悪を粉砕すべし!!!」と言い、消費者団体のゴミが「いや訴訟はできなくね?ここVRだぞ」と言い、俺が「っつーか別にNPOでも公益法人でもないのに消費者団体名乗るのは無理が無いか?」と言い、話が終わった……微妙な沈黙が漂う中、フワァみたいな感じの豪華なSEと共にGMが降りてきた。ギャーーーーーーー耳がーーーーーーーーー耳ーーーーーーーーー俺は両眼両耳両脚左腕を斬り落としたが10秒足らずで再生してしまいもう終わりだと思いつつGMに話し掛けた。


「おいGM、消費者団体として差し止め請求をしたいところだがその前に―――なぜラスボスを倒したのに、ゲームクリア表示もログアウトボタンも出現しないんだ?」


そう、さっきから確認しているがラスボスを倒したにも関わらずログアウトができない―――というかぶっちゃけ言うと多分このGMが降りてくるのがムービーシーンみたいなモンで終わったら真のボス(多分GMの本性)が出てきてガオーするんでしょ、知ってる。知ってるのになぜ聞いたかというとムービーシーンの進行を早めるために他ならない……オラお膳立てしてやったんだからパッパと本性を現して俺たちに襲い掛かってこい!!!!待ちわびる俺にGMは答えた。


「あ、はい今クリア判定を出しますね」


えぇ?困惑する俺とゴミ共にも構わずGMはコンソールを操作し、空には「GAME CLEAR!!」という謎の文字列が、俺の目の前には【Game Clear!!!!Thank you for playing】というウィンドウが出た。いや、え?っていう、今ので普通に終わりなの?っていう。王道を踏み外しすぎだろ……俺はさらに困惑した。世界がポリゴンと消えていく……待て待て待て待て……!!!!!!!


「おいちょっと待てGM!!!!!お前の目的は何だ!!!!!俺たちをこのゲームに閉じ込めるくせに殺しはしないのには理由があるだろ!!!!!!」


「言ったでしょう?質問は3回までです」


こなくそあああああああああ!!!!!!!俺はどうにかできないがシステムメニューを探るが打つ手無し、肉体がポリゴンに分解されていく…………あの非常に忌々しかった自然再生すら働かない…………クソ、こんなことあるかよ、クソォォォ!!!!!!


「あの――――」


最後に耳にした誰かの声を脳内に反響させ、俺は世界から退場ログアウトした。

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