8話

初期装備はシャベルだった。


いやこう


え?みたいな


え?だよね


え?


いや分かるぜ?理屈は分かる、デスゲームのみならずVRMMO全体において「初期装備が剣」って言うのはもはや様式美お約束に達してるんだけどぶっちゃけ剣って言うほど強い?みたいな疑問を抱くのは分かる、剣はVRというありとあらゆる場所に当たり判定が存在する空間でぶん回すとぶつかるしすっぽ抜けるしで取り回しがし辛い割にリーチは槍より短いし使い勝手も片手斧に劣る、冷静に考えて何でこんなのがお約束になってんの?って話だが、おそらくゲームがまだ二次元的な画面の中の出来事でしかなかった時代の物をそのまま引き継いでいるのだろう。歴史は時に不合理だぜ……でまぁそういうわけで剣という初期装備に疑問を抱くのは分かるよ、でもそこでシャベル?っていう。シャベル?っていう。二回言ったけども。確かにシャベルは汎用性高いよ、攻撃にも使えるし穴も掘れるもんな、ザ・文明の利器って感じ。でもどう考えても王道・・じゃねーじゃん?っていう、デスゲームの初期装備で王道っつったら剣か…………百歩譲っても槍じゃんね、どう考えてもシャベルではないよ、シャベルでは。どうもこのゲームの開発者は王道という概念を履き違えているフシがあるんだよなぁ……俺はシャベルをぶん回しながら考えた。クソッなんて使い勝手のいい……!!!!!!ゴミ共も使い勝手の良さに感動しつつ首を傾げていた。


さて、俺たちは沼地にいる。


俺が前にGM降臨型をPL招集型と表現したことからも分かるように、基本的にGM降臨型はプレイヤーを1~2時間くらいその辺で遊ばせた後に招集してデスゲーム開始、みたいなパターンが多いのだが……このゲームにおいては初期スポーン地点が例の会堂だった。分かってる奴・・・・・・しか来ないから、わざわざ1~2時間くらい遊ばせて溜める・・・必要はないだろう、という判断……なのか……?????ここまでの運営による王道の履き違えを考えると、これも何かしらの錯誤が生んだ結果なのではと邪推してしまう。まぁとにかくそういうわけで、1~2時間くらい遊ばせる時間といういわば下見・・がなかったため俺はこのゲームのフィールドを始めて見ていることになる。しかし沼地とはまたニッチなところを……やっぱ「邪道というわけではないがまず間違いなく王道とは言えない」みたいな微妙なラインの要素を詰め合わせたみたいなゲームだなほんと……俺が考えていると、隣にいた知らないゴミが肩を叩いて話し掛けてきた。


「おい見ろよそこのゴミ、モグラがわんさかいるぜ」


おーどれどれ?俺は見た。あっマジじゃん、そこにはこのゲームの他に類を見ないレベルで美しいグラフィックの泥の中に入ったり出たりするモグラたちがいた。いくら王道を履き違えてるこのゲームを作った奴も、「沼地にモグラがいる」っつーお約束は普通に守ってきたようだ……うっ!?唐突に目が痛む。どうやらあまりにも目の前の光景が安っぽくなさすぎるせいで克服したはずの視界チープ問題が蘇ってきたようだ……クソッ!沈まれッ!俺は念じた。しかしダメだったので俺は素直に右眼を潰すことにした……グシャッ。おっイイ感じだ、やっぱり眼が半分だと入る情報量も半分になるからな、ちょうどいい安っぽさ……と思ったら30秒くらいで眼が回復したため俺はキレた。何でだよクソがッ!!!!!!このゲームリジェネあんの!?!?!?!?なんで!!?!?!いやリジェネがあるのはいい、珍しくはあるが全くないってほどじゃない……だが眼球が無から生えてくるってそれ要するに欠損の自動修復・・・・・・・じゃねーか!!!!!デスゲームで!!?!?!?!??デスゲームで足だの腕だのを無から生やすのは明らかに王道ではないよバカ!!!!!!!!!!!!!!バカ!!!!!!!!!!!!!!!!!キレつつ俺は左眼なら再生しない可能性に賭けてそっちも潰してみたがやっぱりちょっとしたら再生してしまったのでもっとキレた。クソッこうなったら両眼をォ、両眼をォ!!!!!


「あ、あの……なぜさっきから、右目と左目を……交互に、えっと、潰されてるんですか?」


元GMが聞いてきた。む、少々取り乱しすぎたか……俺は脳内物質によって怒りゲージが0になったかのような幻覚を見ることで平常心を取り戻しつつ奴を安心させるため説明を試みた。


「大丈夫だ、今度は両眼を同時に潰すから」


元GMは「あ、えっと……頑張って、ください」とだけ言って作戦会議をするゴミ共の元に向かっていった……というかもう作戦会議やってるのか、眼球を潰すのに夢中で気付かなかったぜ……俺も行きますか。俺は両眼を潰し、以前五感封鎖系デスゲームをプレイした際に得た聴覚空間認識技法を使ってゴミ共の元へ向かった。



両眼の再生には60秒掛かった。

普通に考えてこれだけ聞くと「結局再生するんじゃダメじゃん!!!!!」って話だが……しかし、一概にそうとも言えない。

両眼が同時並行的に―――つまるところ、通常の再生速度の半分で同時に―――再生されたなら俺もそう思ったが……実際はそうではなかった。実際は、「右眼と左眼を同時に再生」ではなく、「右眼を再生し、完了したら左眼を再生」だったのである!!!!同時に再生せず片方を優先するということは、欠損部位の再生には優先順位があるということになる……この理屈を念頭に作戦会議に加わっていた検証ゴミと共に色々試した結果、


右腕(最大120秒)>左腕(最大120秒)>右脚(最大100秒)>左脚(最大100秒)>右眼(30秒)>左眼(30秒)


の順に優先度が設定されているらしいことが分かった。つまり、例えば左眼の再生中に左腕が欠損した場合、左眼の再生を止めて先に左腕が再生されるのである!!!!!これを応用すれば、常時片眼を潰した状態で戦闘することが可能なはずだ……では「左腕とは言え片腕がない状態で戦闘できるの?」という疑問が湧くが、その辺も大丈夫だ。上の表の再生所要時間に「最大」と記載されていることからも分かる通り、腕と脚には段階欠損・・・・の概念がある―――つまり、例えば小指だけを切断してそれの回復を優先させる、みたいなことも可能なわけだ……ここから導き出される結論としては、「左眼を潰し、それを維持しつつ20秒おきに左手小指を斬り落とす」だ。この行動ルーティンを繰り返せば、溢れ出る豪華さ・・・から視覚を守ることが可能なのである!!!!!勝ったな!!!!!俺は勝った。

しかしそれは気のせいだった。



俺とゴミ共の前に、巨大モグラがいる。


作戦会議の末「いくら何でもモグラが穴を掘るペースが急過ぎじゃね?」っつー話が出たんで地下を調査してみよう、ということになってシャベルでDigDigからのFallッうわ地下空洞あんじゃん入っちゃえ~~~~の結果がこの状況である。

結論としては、だ。モグラたちはこの巨大モグラの眷属的な何かだった。なんつーかこう、プラナリアみたいな感じで片っ端から使い捨てモグラを生産してるよこいつ。色々と言いたいことはあるが、とにかく何故こいつが小型モグラを生産して穴を掘らせているのかというと、おそらく―――空気穴のため・・・・・・だ。この沼地の泥は非常に流動的だから、自然に穴が開くことがあってもすぐに埋まってしまい、酸素の供給源が無い―――だから、眷族モグラたちに片っ端から空気穴を開けさせているのだ。もっと根本的な解決方法があるのでは?って話なんだが、まあ巨大モグラ氏にも諸々の都合があるのだろう―――今大事なのは、巨大モグラ氏が背中から生産している眷族モグラたちが軒並み俺たちに敵意ヘイトを向けていることだ―――これボス戦始まってる?始まってるな。俺は突進してきたモグラをシャベルで自分の小指を斬り落とすついでにキルしつつ考えた。先頭のゴミが叫んだ。


「眷族型のボス!!本体は動かないし多分置物、眷族モグラが1秒に1匹!!!!雑魚は背中から湧く、本体攻撃班は頭を殴れ、雑魚処理はケツだ!!!!」


言われんでも皆わかっとるわ!!!!俺は言い返しそうになったが「わ、わかりましたっ」という声が聞こえて皆わかってないのが判明したため取りやめた。この声は元GMか……こいつは元GMだがPLとしては初心者だ、ある程度気を配っといた方がいいな。俺は雑に眷族モグラをシャベルで殴りつつ元GMに近付く。どうやらこいつは雑魚処理を務めることにしたようだ……いや地味に戦闘上手くない?シャベルという色物極まる武器をなんつーか堅実な感じで運用している、えーなんつーか優等生って感じのバトルスタイルだ……負けてられんな。俺はシャベルで救ったその辺の泥をモグラにぶっかけつつ考えた……はいここで小指を切断ッ!

さて、モグラ本体の方はというと、眷族の1秒1匹というかなり少ないスポーンペースから自然と本体を攻撃する者は多くなり、HPはゴリゴリ削れ―――もう少しで25%だ。デスゲームのボスってのは残りHP50%か25%の所で特殊行動を起こすもんだ、注意しないとな……などと思っているとHPが25%を下回った、来るぞ、特殊行動だッ!!!しかし何も来なかった。なんで?俺は困惑した。デスゲームなのにHP残量で特殊行動しねーの?っつーかデスゲームに限らず大体のゲームでは特殊行動あるじゃん、そんなところまでお約束外すことある?????そして巨大モグラは普通に死に、「Floor Clear!!」の文字表示……謎の消化不良感が体を蝕むぜ。蝕まれる俺とゴミ共、普通に嬉しそうな元GM、あと本体がいなくなったことでなんか朽ち果てる的なアレをしたモグラ君たち……そんな地下空間の面子の7割ほどの前に、もう一つのウィンドウが表示された……例えば、俺の目の前に表示されたのはこんなのだ。


【LV UP!!!】

【Lv1→5】

【最大HP100→120】

【最大MP50→60】

【攻撃力5→9】

【防御力5→9】

【自然回復力5→17】

【移動力5→13】


「…………自然回復力?」


俺は呟き、そして気付いた。ついさっき潰したはずの左眼が完治している―――まだ10秒も経ってないし、小指だってついさっき斬り落としたはず。なのに、なぜ……???理解するのが怖い、しかし理解しないわけにもいかない。恐る恐る再び小指を斬り落とす―――まさか、まさか、まさか―――悪い予感が俺を支配する。


5秒後、予感は現実に変わった。


―――さっきまで欠損修復に20秒を掛けていたはずの小指は、既に俺の左手に現れていたのだ。


「クソがッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


俺は空を見上げ、心のまま慟哭した―――

空は、安っぽさに欠けていた。

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