6話

クソがッッッ!!!!!!!!!俺は叫んだ。


いや、厳密には叫んだつもりになった・・・・・・・・・・と言うのが正しいだろう。俺はハード側の設定で「2次元メニューで仮想体アバターを使用する」設定をオフにしているから、叫んだと言っても叫び声がとして木霊することはないし、当然のことながら俺の鼓膜に届くこともない。仮に何らかの奇跡で音が出たとしても、そもそも鼓膜が存在しないのでどうしようもない。いつもは快適なメニュー操作に役立って大層気に入っている設定だが、この瞬間だけは煩わしく思えた。思いっきり叫んでストレスを解消したいのに、そもそも体すら存在しない・・・・・・・・というのだから―――煩わしく感じるのは当然と言えよう。


そもそもなぜ俺がゲーム……VRツクールプレイヤーのメニュー画面を前にして叫んだつもりになっているのか?答えはメニューに光る赤く染められた太字フォントの連なりにある。

そう、その文字列を読み上げ―――たつもりになっ―――てみよう……「このゲームは運営により削除されました(詳細はこちら)」


クソ食らえ。



強制終了の原因はVRツクールの「緊急メンテナンス」だった。俺のメッセージボックスにも表示された「緊急メンテナンスのお知らせ」っつー運営からのニュースには、このハードの常として「はい政府の陰謀」だの「かねかえせ」だの「VRは危険なハード!某国の人口削減と「ロボティア計画」の実態!!!!」だの「いやそれVR被って言う?」だの「告知なしで強制終了するな 俺の5時間を返せ」だのの多種多様なクソコメが寄せられていた。普段なら目に入れても3秒程度で忘れてしまうような運営への無思考な「『各種不具合の修正』のためだけに緊急メンテナンス~~~????不思議だなァ~~~~~?????」という煽りクソコメが、妙に引っ掛かった。

……GMのゴミは、VRツクールで人を殺せることについて運営に報告した・・・・・・・と言っていた。

だから、なのか……???だから運営はユーザー全員のゲームを強制終了させるなんて暴挙を行って、その暴挙に対して5分足らずでメンテナンスを終わらせて……それで、人が死ぬという事実を隠そうとした……???


俺は脳を高速回転させながら「DeathGameTest」がもはや完全にプレイ不能になったことを確かめブラウザを開いた。いつもと同じ操作をするだけなのに、なぜか脳は焦燥感を感じていた。



「【テスター募集】デスゲーム作ってみた」


782:仮想世界の名無しさん

>>1ーーー!!!!!でてこーーーーい!!!!!


783:仮想世界の名無しさん

情報量多すぎてキレそう


784:仮想世界の名無しさん

や確かにデスゲームの最後に立ち塞がるGMは体感6割くらいで死ぬけどさぁ……


785:仮想世界の名無しさん

何もかもが分からない


786:仮想世界の名無しさん

>>342のゴミいる?お前何か知ってるだろ説明しろ


787:仮想世界の名無しさん

あの>>1に質問してた奴>>342だったのか、位置的に見えなかった


788:仮想世界の名無しさん

というかなんで>>1のゴミが作ったゲーム消えてんの?


789:仮想世界の名無しさん

デスゲームだからでしょ


790:仮想世界の名無しさん

合意の上のデスゲームなのに……!!!!!!


791:>>342

どうもゴミの諸君、>>342です


792:仮想世界の名無しさん

合意の上のデスゲーム#とは


793:仮想世界の名無しさん

>>791

おいゴミ、GMへの発言の意味を説明しろ


794:仮想世界の名無しさん

合意の上でもどうにもできないものもこの世には存在するんだよな


795:>>342

いやまあなんというか


796:仮想世界の名無しさん

>>794

なおあなたが頭に被っている謎の電子機器の利用規約


797:仮想世界の名無しさん

あれまともに読んだ奴いんの?初ログインしてウェーーイみたいな感じでテンションをアゲつつメニュー操作してたら利用規約読んでください~~~って言われて唐突に利用規約.zip(7GB)のダウンロードが始まった時はマジでビビったんだけど


798:仮想世界の名無しさん

は?利用規約をまともに読まないとか消費者としての意識どうなってんの?





8000行くらいまで読んで放り投げました(小声)


799:>>342

実装予定全50層で5層しか実装してないってことは90%未実装なはずなのにどこか諦めたような口調で「終わり」とか言われたらそりゃ気になりますわって言う

そもそも運営に人を殺す方法を報告してるのがまずなんかおかしいんだよな、そんなことしたらすぐ修正が入って90%は無駄になるだろうし……というか実際なったし


800:仮想世界の名無しさん

>>797

俺そもそも読んでねーわ


801:仮想世界の名無しさん

利用規約読まないとかある日突然黒づくめの7人組に連行されて「マドルディグレア=イノセアル」みたいな名前の儀式に生贄られても文句言えないじゃん……


802:仮想世界の名無しさん

法的に考えて普通は言えるんだよなぁ……なお


803:仮想世界の名無しさん

この機械の規約ほんとどうなってんだよ、死んでも自己責任とか死体は当社が回収させていただきますとか外部に情報持ち出すなとか平気で書いてあるし法に触れるとしか思えねーんだけど


804:>>342

おいゴミ共俺の話を聞け

呼び出しといていざ話してやったら放置しつつ利用規約の話を始めるのをやめろ


805:仮想世界の名無しさん

>>803

法的にはただのゲームハードじゃなくてなんちゃら機器とかなんちゃらなんちゃらだから……


806:仮想世界の名無しさん

>>804

でも思ったより普通だったしなぁ……

やっぱ作者のゴミが来ねーと始まらないわ


807:仮想世界の名無しさん

というか作者のゴミは生きてるのか?大丈夫?

>>342が言ってたことがほんとだとしたら今頃現実でこう……


808:仮想世界の名無しさん

それができるなら最初からしてるだろ、何かしらデスゲームのGMとしてでないとできないことがあったんじゃないか?


809:仮想世界の名無しさん

作者のゴミはなんかヤバそうな感じはあったけどそれでもゴミとしては割と標準的な感じがあったので死にたがっていたのにはびっくりした


810:仮想世界の名無しさん

「ゴミとしては割と標準的」だったら死にたがりはデフォでは……????そうでなければデスゲームを求めたりしないでしょ


811:作者◆AUazh5IdaY

【pRwOHamIMtswaJWj】


812:仮想世界の名無しさん

死にたがりがデフォなゲーマー集団、怖すぎる


813:>>342

急に出てきて無言でID貼るじゃん


814:仮想世界の名無しさん

このゲームにログインしろと?


815:仮想世界の名無しさん

無言こわい



GMのゴミはどうもDeathGameTestとは別のツクール製VRMMOで話したいらしい。何があるかわからんが……とりあえずログインしてみよう。俺はさっき怒りに任せて閉じたVRツクールプレイヤーを再び起動し、手早くメニューを操作した―――ゲーム名が「あ」って適当過ぎない?



空が安っぽかった。


恐らくGMのゴミが急遽作成したであろうこのゲームは、MMORPGというよりは以前元GMとのお茶会に使ったVRチャットルームに近かった。見かけ上の相違点としてはあっちの方がグラが5段ほどってくらいだな。広場の各所でチープなログインエフェクトが光り、総ゴミ数がどんどん増える。そんな光景に囲まれた広場中心の祭壇には、やはり安っぽい衣装を纏ったGMのゴミがいた。DeathGameTestが始まった時の光景とちょうど同じだ……まあちょうど同じ・・・・・・と言っても細部は違う。ゴミ共のテンションはそこまで高くないし、GMのゴミは若干うなだれている。他にも空、時間帯、雲……そうやって俺が周囲を観察していると、GMのゴミの方に目を向けていたゴミ共が少々どよめいた―――奴が口を開いたのだ。


「……私は、確かに死のうと思っていた」


さっきまでざわついていたゴミ共が今度は静かになった。忙しい奴らだ……俺はそう思いながら静かになり、GMのゴミの話を聞いた。


「デスゲームが……デスゲームが、面白く感じられなくなったんだ」


GMのゴミは続けた。広場はより一層静けさを増し、もはや聞こえるのはGMのゴミの声と人類によって作られたとは思えないレベルで安っぽい環境音だけになった。


「ゴミ共の誰かは……前に言ったよな。『デスゲームは登山と一緒』だって。『自分から過酷な環境に突き進むことになんの違いがあるんだ』って……いや違いまくりだろ、って私はウィンドウの前でツッコミを入れたけど……今思えば、あれは真理だったのかもしれない」


いや明らかに違うだろ。俺は思ったが雰囲気的に発言を我慢し、謎のスイッチが入ったのを発散させるため腕を組んだ。なんとなく周囲を見ると全体の1/4くらいのゴミが同じように腕を組んでいた。


「そう、デスゲームは登山なんだ―――でも、ただの山じゃない、山脈だ。たとえ一つのデスゲームをクリアしても、それで家に帰れるわけじゃない―――7GBの利用規約.zipに同意した時点で、山脈そのものから降りることはできない」


利用規約.zipは人権にすら若干干渉してくるとんでもなくヤバい代物だ……確かに、乗り掛かった舟から降りることは非常に難しい。


「新しいデスゲームを―――山を、探し求められるうちはいい。でも、山を登る気力が失せた時―――私はこの山脈で、いったいどうやって生きればいい?」


GMのゴミは、迷いに包まれた声で続けた。


「私が出した答えが、あれ・・なんだよ。せめて最後に山の側・・・になって―――ゴミ共に踏破される存在になって、それで静かに消えていきたかった。お前らはデスゲームを欲しているから……最後に欲されて・・・・。それが最善の……終わり・・・に思えたんだ」


それは違うだろ。


「さっきは殺す方法の一つ・・を作品に組み込んで公開した以上、悪用を防ぐためにゲームが終わった後に削除されるよう運営に通報したけど―――思ったより動きが速かったから死ぬ前に修正されてしまった。だから今回は通報しない状態でまた別の・・死亡システムを組み込んできたんだ……チュートリアル・インストールをちょっと弄れば、人なんていくらでも殺せる」


GMはナイフを取り出した。あっヤベェこいつ自殺するつもりか?俺は即座にメニューを出したが「運営に通報」ボタンが消えている……マズいぞ、通報が完全に封じられてる……と思ったら数人のゴミがログアウトしていった。いやログアウトボタンは残ってるのかよ……通報はログアウトゴミ達がしてくれるだろうが、さっきの運営の動きを考えると修正には時間が掛かりそうだ……どうにか稼がないと・・・・・……!!!!


「ま、待てよ!!」


俺は咄嗟に言った。GMが安っぽい衣装を流体演算で動かしつつこっちに視線を向ける。とりあえず引き留めたけど内容考えてね~~~な……いいや適当に喋ろ。


「えーっと、あーそう、お前さ、俺たちが『デスゲームを欲している・・・・・』っつったろ?違うんだよな……違うんだよGMのゴミ」


何が違うの?俺は自分の発言を理解できなかった。いや何が違うの?マジでわかんねー。マジでわかんねーのにGMのゴミが「違う……?」とか熟考してる。ゴミ共もクレバーな感じで考え込んでる。マズいぞ何か喋らないと、喋らないと……!!!!


「…………そう!俺たちは欲してる・・・・んじゃない―――求めてる・・・・んだ!!!えーっと……この二つの何が違うかって?ああそうさ、欲するっつーのは幾分感情を織り交ぜた概念だ!!欲望は人類の根源だから、ほとんどの行動に当てはまる―――えーっとあーっと……でも、これよりさらにデカい・・・定義があるんだ、それが求める・・・なんだよ!!!」


俺は自分が何を言っているのかさっぱりわからなかった。周囲を見るのが何か怖い。だから視覚が伝えてくる情報を処理しないよう努めつつ、プロット筋書きを編集してまた喋った。


求める・・・ことに感情は必要ない!!!思考すら届かないような脳のどこかで、密かに演算されて決められる―――それが『求める』で、『欲する』の上位互換だ!!!!」


いやここは矛盾してるから削ってここを増やしてここを変更、更に喋る!!


「お前がデスゲームを楽しいと思えなくなったってのは―――あくまでも『欲する』ことができなくなったってだけに過ぎない。あー、えー、お前は……お前はどうして2週間掛けてあのデスゲームを作ったんだ!?あのゲームはずらし・・・の塊みたいなゲームだった!デスゲームの始まりと終わりこそテンプレにハマってたが、ダンジョン攻略部分はVRでMMOでローグライクってんだから、かなり革新的なゲームだったと言えるだろうよ!!もっと安易に面白くする手段があったはずなのに、お前はそれをしなかった―――それは、お前がこの怪しげな機械に突っ込んでる脳のどこかで、革新的なデスゲーム・・・・・・・・・を求めてたからじゃないのかよ!!!」


俺は何となくダメな気がした。この説教は穴だらけだったし、GMのゴミがこの程度で覚悟を変えることもないと思ったからだ。

そして、その考えは当たった。


「…………求めて・・・いるからなんだと…………?私に大事なのは欲する・・・かどうかなのだよ知らないゴミ!!!その説教は何の慰みにもなりはしない!!!」


ヤベェ~~~~~マジでヤバい。俺はオロオロした。オンラインVR自殺配信が目の前で決行されんとしている。マズいマズい―――その時、その辺にいた知らないゴミが言った。


「おいGMのゴミ!!!お前がデスゲームを欲して・・・いるかは大した問題じゃないってことを忘れちゃいないか!?」


モブのゴミ共がザワつく。俺もザワつく。どういうこと……???


「大事なのは!!!俺達・・が!!!お前の作ったデスゲームを!!!求めて・・・いるってことなんだよ!!!!!」


知らないゴミは言った。俺はよくわからなかったが周りのゴミが拍手をしていたのでとりあえず便乗した。知らないゴミ様ァ~~~!!!


「………………」


GMのゴミは沈黙した。奇しくも先程の独白とは真逆の構図が出来上がっていた。俺たちが騒がしく拍手をし、GMのゴミが沈黙する……環境音だけが不変でいたが、それすらも一つのSEによって遮られた―――GMのゴミが、ナイフを落とす音だ。


「……1週間後、第6・7階層を公開する」


GMのゴミはそれだけ言ってコンソールを操作し、安っぽいログアウトエフェクトを撒き散らして消えていった……なんかよくわからないが上手くいったようだ。なぜか空に「GAME CLEAR!!」という文字表示が出現した。非常に安っぽいそれは、非常に安っぽい空と溶け合うようだった。



ログアウトしてデスゲーム総合スレを覗いたところ、こんな書き込みを見た。



「デスゲーム総合スレPart.293」


78:仮想世界の名無しさん

ゴミ共助けてくれ

VRツクールでゲーム漁ってたらデスゲームにブチ当たった

これマジでヤバそう、なんかこう体力の現象を痛覚にフィードバックするタイプなんだけどHP1とかの状態だとマジで「死ぬ寸前」レベルの痛みがある、どうやったかは知らんがVRツクールでプレイヤーを殺す手段が確立されたっぽい


79:仮想世界の名無しさん

マジで?具体的な痛みの感じとID頼む


80:>>78

ああすまんIDは【FEpbdfsYWxXhCNHJ】だ

痛みの感じ、か……なんというか、たまにチュートリアルを脳にインストールするタイプのゲームあるじゃん?あれを受ける時の若干の負荷がめっちゃ増幅された感じって言うか



「あの時ログアウトしたゴミ共ォォォーーーー!!!!!!!!!!」


俺は叫んだつもりになった。

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