5話

階層型。


非常にオーソドックスなデスゲームジャンルの一つだ。基本的な方向性としてはモンスターが蔓延り大抵の場合ボスモンスターが門番を担う「階層」を定義し、それを上なり下なり横なり全方位なり斜め後ろなりに連ならせて連続性を持たせた「ダンジョン」を作り、そこをプレイヤーたちに攻略させる、みたいな感じである。閉じ込め型VRMMOデスゲームではほぼ確実にこのモデルが使用されるし、なんなら理不尽型ともそこそこ相性がいいという優等生である。たまに階層型を「言うなればローグライク」みたいな風に紹介する奴がいるが実際の所相違点も結構あり、例えば大抵のデスゲームでは各階層にプレイヤーたちの拠点タウンが紐づけられている。この拠点でプレイヤーたちは装備を整えたり休んだりして、次の階層を目指すのだ。まあもっとデカい相違点として「そもそもダンジョンが自動生成でない」というものもあるが……それはいい。


……なぜ俺が、こんなことを今考えているのか?それは、他でもなく―――

―――「何事にも例外はある」という事実を、思い出すためだ。



結論から言うと、「DeathGameTest」はローグライクだった。


俺はビビったね……「自分が動かないと相手も動かない」というルールから始まりどうも自動生成っぽい迷路だの地面に引かれた何かしらの判定に使われてそうな線だの……いやローグライクじゃん?っていう、VRでローグライクを作ろうとしようとした作品はいくつか見たがここまで古典的なのはなかなか見ないぜ……というかそもそもMMOでローグライクってのを見たことがない。革新的すぎて時代がついていけねぇよGMのゴミ…………俺はVRなんつー昔は絵空事もいい所だった技術が実現されても、まだ「時代がついていけない」ものは存在するんだなぁとちょっと感動した。しかし感動しているわけにもいかない。何故ならば俺は時代がついていけていないこのゲームにどうにかしがみつき、そして振り落とされんとしているのだから……何が言いたいかって?つまるところ……

目の前にめっちゃ強そうなドラゴンがいる、ってことだ。


いやこう、浅はかだったよ。

これローグライクじゃねーか自動生成できんのになんで5層しか実装してないんだよーーーーwwwwwwみたいな感じでイキりながら突っ走ってたらドラゴン、って言う。浅はかすぎて泣けてきちゃうよ。多分こいつはこの階層第二階層のボスモンスターなんだろうな……いかにこのゲームが常識破りで拠点タウンすら存在しないとしても、一応階層型デスゲームのお約束・・・を多少は守るつもりらしい。まぁローグライクでボスがいる、みたいなゲームも普通にあるんだけどな……とにかくこのドラゴンはヤバい、初めてエンカウントしたときに明らかにヤバいという気配を感じ取って一目散に退避したのだが、どうも1ターンに2マス動ける的な能力アビリティを持っているらしくいつの間にやら俺のいるマスの隣まで追いつかれた。このまま素直に戦闘に入ると言う手もあるが、攻撃力が未知数なので不用意に動くとマズそうだ。来るときに調子に乗りすぎてどうやら一番乗りになってしまったようで、ゴミ共はまだ一人も追いついて来ていない。とりあえず掲示板に軽く書き込んだので、そろそろ来る頃合いだろうとは思うが……なんというか、暇だな。俺は暇つぶしに軽くあたりを見回すことにした。


ん~~~~かなり安っぽい壁、けっこう安っぽい床、かなり安っぽい天井、そこそこ安っぽいドラゴン。HYPER CHEAP SPACEって感じだぜ……そこそこ安っぽいドラゴンは「そこそこ」ってだけあって一応凄味らしきものを感じはするんだが、このゲーム、引いてはローグライク全体の「自分が動かないと相手も動かない」ルールのせいで微妙なポーズで静止していて非常にシュールだ。なんつーか時間停止状態でカメラを自由に動かせるタイプのフォトモードで撮ったおもしろ写真、みたいな……俺はこの面白さをみんなに共有しようとハード側のシェア機能でドラゴンをパシャって外部SNSに投稿しようとしたらなぜかフィルターで弾かれてキレた。なんで?????俺はハード側のメニューからお問い合わせフォームを開いて運営への怨嗟の言葉を1200字ほど書き込んで「送信」ボタンを押したのだが1秒足らずで「仕様です」とのありがたいお言葉が返ってきて総計10分を失った。俺が怒りのあまり地団駄を踏んでいると、いつの間にか背後に立っていたゴミが呆れ声で言った。


「お前が救援依頼を出してた>>342のゴミか?……おい早く動けよ、お前が動かないとターンが進まねェーだろ」


このゲームでは「ローグライクを複数人プレイする」という全体的に特殊な状況を処理するためにSRPG的なターンシステムを取っている。要するにフロア内の味方が全員動くと敵のターン、敵が全員動くと味方のターン……って塩梅だ。俺はゴミに聞き返す。


「ようやく来たか後続のゴミ!!!!動くのは一向に構わんが、どの選択肢を選ぶのがいいと思う!?!???」


俺には簡潔に言うと5つの選択肢がある。迂回路行く退避行き止まり行く背水後ろ後続のゴミ行く合流、ここに留まってドラゴンと戦闘攻撃何もしない自殺、だ。俺の言葉に込められた意味を汲み取った後続のゴミは、声を張り上げて答えた。


「そうだな、合流・攻撃・自殺はお前の肉体が邪魔になるだけだからボツだ!!!!!退避で行け!!!!!」


了解ッ!!!俺は左に移動した。何となく後続のゴミと連帯感が生まれている感覚があった。ああ、俺は今ゲームをしているんだ……!!!!って感じね。ドラゴンが追い付いて殴ってくる。まぁ一発くらいなら大丈夫でしょ……とか思ってたら体力が8割削れてちょっとビビった。いや、階層型デスゲームのフロアボスならむしろ優しい方とすら言えるか……????いや、それにしても第一階層のボスを撃破当時はボスだと気付いてなかったけど単独撃破してレベルが結構上がってるはずの俺が8割と考えると、やはり若干ハードコアな調整が施されていそうだ。こっわ……俺は恐れ戦きつつ薬草をキメて体力を全快した。デスゲームでは慎重に、って鉄の掟を忘れかけてたぜ……気を付けないとな。俺は身を引き締めたが、後続のゴミから「早く移動しろゴミ!!!!!!」という罵声が飛んできたので迂回路をさらに進んだ。

後続のゴミが移動からの魔法でドラゴンを攻撃……いやちょっと待ってこのゲーム魔法あんの?マジで先走り過ぎててダメだな……俺は自戒しつつドラゴンに殴られた。しまった、ドラゴンが迂回路に入ってしまった。これでは後続のゴミの魔法が届かない……どうしよっかな、俺は薬草をキメつつ在庫を確認した……ふむ。


「後続のゴミーーー!!!!!薬草に余裕あるからちょっと攻撃してみるわーーーーー!!!!」


俺は後続のゴミに声を投げかけた。後続のゴミは、


「了解だーーーーー!!!!!骨は拾ってやるぜーーーーー!!!!!」


と答えた。もはや俺たちは親友と言ってよかった。いや実際の所親友ではないが、最早そのレベルで連帯感が生まれていたのである。俺は勝手かつ一方的に後続のゴミを親友認定しつつドラゴンをさっき拾った剣でグサってやったらなぜかドラゴンが倒れデスポーンして困惑した。なんで???????思わず迂回路から首だけを覗かせて親友である後続のゴミを一瞥すると、やはり彼も顔に困惑の色を浮かべていた。彼との友情が一層深まった気がした。

恐らくATK偏重でDEF低めの設定をされていたであろうドラゴンの死体は、想像を絶するほど安っぽい禍々しいエフェクトに包まれて消失し、後には結構安っぽい床と普通に普通なドロップアイテムが撒き散らされるだけだった。



あの後ドラゴンのドロップを拾ったりさらに後続のゴミがゾロゾロ~~~~っていう擬音がちょうど似合う感じで殺到したりしてなんだかんだで死者ゼロのままゴミ攻略隊は第4層に突入していた。このゲームは前述の通り階層ごとにプレイヤー用の拠点が用意されているタイプではないため、回復アイテムすら慎重に扱う必要がある。ローグライクっつーのはを繰り返すジャンルな気がするんだが、デスゲームに採用するのはかなり不向きじゃないか?????そもそもVRでローグライクやる必要ある?????俺はかなり根本的な疑問を抱いたが黙っていた、ゴミ共が楽しそうだったからだ。俺はゴミ共の楽しみを踏みにじってまでこんなどうでもいい疑問を口にする気になれなかった。ついでに言えば、GMのゴミが頑張って作ったものを無碍に扱う気にもなれなかった。


「ヒャッハァ~~~~~~ッッッッ!!!!!!」


だからその辺で拾った斧を振りかざして、こうやってフロアボスに攻撃を仕掛けるのである。



第4階層のボスである地球そのもの・・・・・・の明らかに場違いなレベルでクオリティが高い3Dモデル―――おそらくNASAか何かが公開している物の使いまわし―――がポリゴンに分解されて爆散した。LAラストアタックは俺だった。第1、第2階層のLAも俺なのでこれで3回目である。このゲームの実装済み階層は5つだから、俺の「最も多くLAを取ったプレイヤー」という称号は揺るがないものとなったことになる。俺は誇らしげに胸を張り、攻略隊のゴミの一人に「おい早く移動しろやボケ!!!!!!」と言われて唯一空いている右のマスに移動した。トホホ……管理されるのもツラいぜ。攻略隊の先頭のゴミ……長いし「先ゴミ」でいいや。先ゴミが階上のそこそこ安っぽい扉を開け、最後のフロア―――第5階層が初めてプレイヤーの視覚センサーに映った。


「やあ」


声が聞こえた。

攻略隊のゴミ共が、「お前?いや俺じゃないよだからお前?俺じゃないって何お前は?やだから俺じゃねーってマジふざけんなよオイお前?俺じゃねーよ!!!!」みたいな会話を始める。報連相がしっかりしていない組織の典型って感じだぜ……極めて効率の悪い情報伝達、そして極めて効率の良い軋轢の発生。俺が呆れていると、はもう一度言った。


「やあ」


今度はゴミの誰もがその声の発生源を認知していた―――四角形をした第5階層の中心、床に施されたかなり安っぽい装飾を座り込むその身と影で隠す、GMのゴミ・・・・・を。


「ようGMのゴミ!!!!!このゲームはここまでテンプレから若干ずらし・・・てきたけど、最終的には王道で占めるつもりなのか!?!?!???分かるぜその気持ち、やっぱデスゲームの最後にゲーマスが立ち塞がるって展開は燃える・・・よな、たとえやり尽くされててもよ!!!!!」


GMのゴミに先ゴミが大声で話し掛けた。俺含む攻略隊の面々は彼の言葉に概ね同意している。わかるわ、やっぱこうGMってのはゲームシステム的頂点・・みたいなトコあるよな。それを超えることでクリアっつーのがマジで激アツなんだよね。まあもちろん難色を示すゴミもいるが、世の中そんなもんだ。価値観は人それぞれ、大事なのは俺がどう思うかなのさ。

GMのゴミは言った。


「ああそうだな、よくわかるよ!!!!!これで終わり・・・にしようぜ、ゴミの諸君!!!!!!」


ゴミ共は、ちょうどこのゲームが始まった時のように歓声を上げた。だが俺は少々彼の発言に訝しんだ。終わり・・・だと……????このゲームはまだ90%の階層が未開発なのに、いったい何を終わり・・・にするつもりなんだ……????


ゴミ共がどんどん移動していく。だが俺は本当にここで移動していいのか不安だった。何かをGMのゴミが意図しているとしか思えなかった。彼の態度が、仕草が、言動が、何かを示唆しているとしか思えなかった。


「おい>>342のゴミ、何してる!!!!早く移動しろよ、GMを倒す王道イベントはお前だって大好きなんだろ!!!!??!?」


先ゴミが俺に指示を出した。だけど何かが引っ掛かる、だから一歩を踏み出せない。いったい何が引っ掛かっている?そう、何が?


…………まさか。


俺は先ゴミをジェスチャーで制した。先ゴミは渋々と言った感じで俺を指差した。「発言をしろ」との意味が込められたジェスチャーだろう。俺は感謝しつつ言った。


「GMのゴミ、お前…………死ぬ気なのか?」


GMのゴミは沈黙した。

攻略隊のゴミ共も沈黙した。

俺も沈黙した。


沈黙だけがそこにあって、何秒と、何分と時間が流れていって……


GMのゴミが、その沈黙を破った。


「……私は

そこで唐突にゲームが強制終了されてハード側のホーム画面に戻されたせいで俺はものすごくキレた。は?????????????????????????????????

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