4話

VRシステムを起動してホーム画面を表示、とりあえずメッセージボックスを消化する。えーっと「マーケットでアイテムが落札されました」確認、しまったちょっと見ない間に相場がダダ下がりしてる……まあいいや次、「デベロッパーセール実施中」お前の所のゲームは全部買った、次、「おめでとう」意識高い系デスゲーム制作者特有のクリア記念お気持ち長文、次、「通信障害のお知らせ」コメント欄でゴミ共が「あの時障害のせいで死んでたらどうするつもりだ」っつって争ってて面白い、次、「苦戦しているようだね」……これ時限式で送られたメッセージか?このゲームリリースから2日くらいでクリアされた記憶があるんだけど……スルー、次、「会合のお誘い」元GMからのもの、フラグを立てておく、次、「イベント開催のお知らせ」前に人柱をして外れだったゲームのもの、今はアクティブなデスゲームもないし顔出してみるかな……次、「[お詫び]不具合について」お?これDDO運営からの奴じゃん。不具合より先にまずお詫びするべきことがある気もするが……開く、「自分の眼球を抉り出して食べるとなぜか梅干しの味がする」との報告があり調査の結果味覚エンジンの設定ミスと判明しました大変申し訳ございません、なるほどね。ん~~~~~後はウィッシュリスト内のゲームがいくつかセールになってる程度……よし、こんなもんか。俺はメッセージボックスの消化を終えてブラウザを開いた。



掲示板を覗いたら「【テスター募集】デスゲーム作ってみた」とかいうスレがあってビビった。


いやえぇ……?っていう、えぇ……?もう普通に犯罪じゃん、えっいや仮にプレイヤーが死んだとしてこう……えぇ……?っていう、VRシステム内で体験した事象を外に持ち出すのはほとんど不可能だし、バレなきゃ犯罪じゃない理論が適用されるか……?????前々からデスゲームへの参加は「手の込んだ自殺」だのと揶揄されてきたが、デスゲームの作成も「手の込んだ自殺幇助」だと考えれば……いややっぱ犯罪じゃねーか!!!!!!俺は脳を軽くバグらせつつ、青く光るスレへのリンクを思考操作マウスでクリックした。



「【テスター募集】デスゲーム作ってみた」


1:作者◆AUazh5IdaY

・タイトル:「DeathGameTest」

・VRツクールのID:【XcDsVahzMJbtXQ8u】(小文字と大文字の間違いに注意)

・製作期間:2週間

・ジャンル:強いて言えば階層型VRMMOデスゲーム

・サービス開始:30分後


頑張って完成させたはいいけどMMOだからプレイヤーがいないと意味がないことに気付いた

VRツクールはプレイだけなら無料だから、お前らテスターも兼ねてやってみてくれ


2:仮想世界の名無しさん

通報した


3:仮想世界の名無しさん

通報できない定期


4:仮想世界の名無しさん

ここまでテンプレ


5:仮想世界の名無しさん

これマジ?VRツクールってデスゲームも作れるのかよ…


6:仮想世界の名無しさん

通報した


7:仮想世界の名無しさん

ちょっと待てこれヤバくないか

VRツクールでデスゲーム作れるってつまり人が殺せるってことじゃん


8:仮想世界の名無しさん

そりゃデスゲームは人が死なないと意味がないからな


9:仮想世界の名無しさん

>>1

想定クリア時間どれくらい?2週間で作ったらしいしそこまでいかないとは思うが


10:仮想世界の名無しさん

VRツクールで人が殺せるってそれ例えば「起動した瞬間に人が死ぬプログラム」みたいなのを仕込んだゲームを大量にバラ撒いたら……


11:仮想世界の名無しさん

通報した


12:作者◆AUazh5IdaY

>>2>>6>>11

通報できない定期

>>9

大体5時間ってところかな、この板のみんなならもっと速くクリアできると思うけど

>>7>>10

まぁ運営には報告したし多分大丈夫でしょ(慢心)

方法は誰にも漏らしてないし


13:仮想世界の名無しさん

VRツクールって「人は殺せません!絶対安全!」みたいな路線で宣伝してなかったっけ?それでこれとかヤバすぎる


14:仮想世界の名無しさん

>>1ーーーーっ!!!!!!!!!VRツクールで人を殺す方法教えてくれーーーーっ!!!!!


15:仮想世界の名無しさん

というか>>1はどうやって人が殺せることを確かめたんだよ


16:仮想世界の名無しさん

確かに


17:仮想世界の名無しさん

>>14はこの技術を何に使うつもりなんですかね……


18:仮想世界の名無しさん

マジで通報しないとダメそうな奴いて草


19:仮想世界の名無しさん

ここまでデスゲームを自作したことそのものに対するツッコミなし


20:仮想世界の名無しさん

前にも作った奴いなかったっけ?いやいなかったような気もするな


21:仮想世界の名無しさん

>>1

ゲーム中でもブラウザ開ける?


22:仮想世界の名無しさん

こマ?


23:仮想世界の名無しさん

デスゲーム自給自足時代きたな……


24:仮想世界の名無しさん

デスゲームを自作して信頼を置いてる奴らにプレイさせるってどういう感情なの?場合によっては死ぬじゃん信頼を置いてる奴ら


25:仮想世界の名無しさん

>>14

通報した


26:作者◆AUazh5IdaY

>>14

通報した

>>15>>16

ノーコメント

>>21

開けるよ

>>24

なんというかこう……何?よくわかんねーな


27:仮想世界の名無しさん

自分の感情を理解できてない人だ……


28:仮想世界の名無しさん

怖すぎる

この>>1の作ったゲームをプレイして本当に大丈夫なのか……????


29:仮想世界の名無しさん

デスゲームな時点で大丈夫なわけないんだよなぁ

あと10分か


30:仮想世界の名無しさん

待ちきれねえ



なるほどな、大体把握したぜ。早速VRツクールのプレイヤーをストアからダウンロード&インストール&起動、IDを入力して「DeathGameTest」をダウンロード、起動してサービス開始を待つ……レスの時刻から考えてあと5分ってところか?時間つぶしにブラウザを開いてなんやかんや……お、あのスタジオ新作出すのか……ふーんいい感じに香ばしい・・・・……よしリストに突っ込んで……はい5分経過からのログインッ!!視界がタイトル画面二次元からもやの掛かったフィールド三次元へと徐々にシフトし、いつの間にか掛かっていたもやも晴れ始める。典型的なゲームが始まる感覚だ――――



チープなグラフィックが視界を占領した。


デスゲーム特有のいつもの・・・・感じはしなかった、やはりゲームエンジンの違いは雰囲気の違いに繋がるのだろう。デスゲーム以外でいつもの・・・・感じを体験したことがないことを考えれば、明らかに何かがあるが――――そんなことはどうでもいい。俺はゲームをプレイしているんだから……それも、デスゲームを。


辺りを見回せば広場にひしめくゴミ共。いつものデスゲームとは違いニュービーはいない。ミドルもだ。ゴミしかいない掲示板に貼られたゲームにゴミ以外が来るわけがないのだ。今この瞬間、このゲームはゴミ100%を誇るゴミ収容所と化している。今すぐ火を放って野ざらしにしたい気持ちもあるが、おそらく不燃ゴミも混じっているためそう簡単にはいかない……分別は大事だ。


ゴミ共はどいつもこいつも広場の内ある一点を見つめている、俺もそっちを見てみるとあからさまにGMが降臨しそうな安っぽい祭壇があった。うわっめっちゃGMが降臨しそう~~~~~~~~って感じだなぁ……俺は普段はデスゲーム開始を伝えるためにGMが降臨するのはゲームとしての美しさを破壊しているだの別にコミュニケーション取る必要もないんだからせめてテキストウィンドウで伝えるべきだの理想としてはアナウンス無しに急にログアウトボタンが消えるタイプだの言っているが、今回に限っては違う、開発中のゲームにおいて運営とプレイヤーのコミュニケーションは非常に重要だからだ。テキストウィンドウは一方的な通信だし、突然ログアウトボタンが消えるタイプに至ってはそもそも通信が為されていない。双方向での情報伝達は、GM降臨型の数少ないメリットの一つと認めざるを得ないだろう。


そんなことを俺が考えつつ様式美的に不吉に曇り出した雲を見上げていると、ブゥンって感じで祭壇にGMのゴミが出現した……このSE聞き覚えがあるな、フリー素材か何かなのかもしれない。ゴミ共がどよめいたり歓声を上げたりする。俺はプロなのでどよめきつつ歓声を上げる。GM降臨型デスゲームでGMが出てくるときはいつもゴミ共はどよめいたり歓声を上げたりするが、今日のそれはいつもと比べても少し勢いづいているように思える、何ならば謎の連帯感すら覚える。恐らくミドルとかニュービーとかがいないからだろう。空間をゴミだけで埋めると連帯感が生まれるのか……勉強になるぜ。

俺が勉強になっていると、やっぱりどこかで見たことがあるフリー素材そこそこ強そうな衣装に身を纏ったGMのゴミが口を開いた。


「君たちの中には、既にシステムメニューからログアウトボタンが消えていることに気付いている者もいるだろう」


ゴミのうち数名がシステムメニューを確認して動揺するかのような仕草をする。こういう類型的GM降臨に立ち会ったときに取るべきアクションはある程度決まっていて、例えばこいつらのようにログアウトボタンがないことに動揺、あるいは俺の右斜め後ろのゴミのように怯える仕草、もしくは俺のように「とんでもないことが始まったな……」みたいな感じで腕組み……ってところだ。どいつもこいつも決まったアクションしかしないから、この仮想広場にはどこかシュールな光景が出来上がっている―――だが、それがいい。調和の取れた空間ってあんじゃん?ああいう感じよ。


「ログアウト不能とは、すなわち現実世界への帰還不能を意味する―――更に言えば、このゲームでの死はすなわち現実の死だ」


ここで俺はすかさず「何言ってんだテメェッ!!!!え、永遠にこのゲームの中に俺たちを閉じ込める気だってのかよ!!!!!!つ、通報してやるッ!!!!!」と叫ぶ。真横に立っているゴミがちょっと「こいつやる・・な……」みたいな視線を向けてきて心地がいい。自尊心を膨らませる俺にGMのゴミは言った。


「心配せずとも、永遠に・・・閉じ込める気はないよ―――このゲームには50階層に渡るダンジョンが用意されているが、その内45階層は未実装なので実質5階層だ。この5階層をプレイヤーが誰か一人でも踏破したとき、ゲームはクリアされ、全てのプレイヤーは現実世界への帰還を許されるのだ」


ゴミ共の間に喧騒が走る。ああ、混沌が支配するこの空間……素晴らしい。感傷に浸る俺に……いや、俺たちに、チープな出来の衣装に身を包んだGMのゴミは告げた。


「さあ、ゲームを始めよう」

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