3話
『ドラゴニア・ドライベル・オンライン』へのログインは無事に成功した。
普通に考えてゲームへのログインが成功するのは当たり前だろって話だが、一概にそうとも言えないのが良くないところだ。例えば一度デスゲーム化すると後発はログインできない、みたいな処置を取るゲームだってある。今まで見た中で一番酷いのだと「デスゲーム化後もストアにフルプライスで並んでいるが購入してもゲームを起動すらできず、返金も受け付けていない」ってゲームだ。もうそこまでするならいっそストアから消してくれよ…………用事で乗り遅れて購入してもなぜか起動できず、掲示板でゴミ共がワイワイ攻略してるのを遠巻きに眺めるしかできなかった
―――さて、ちょうど俺を取り囲んでいた幾何学模様のログインエフェクトが完全に霧散したところで軽く情景描写と行こう。
深さに文字通りの意味で
まあ総評としては普通のオープンワールド型デスゲーム、って感じだな。まぁ
「おいそこのゴミ、情報をよこせ」
ゴミは一心不乱に掘っていた穴から意識を外し、こちらを向いた。彼は茶色い塊に覆われた手を振り、土の塊がどこかへ飛んで行った。
ゴミは言った。
「いいだろう、じゃあお前は
判断が速すぎない?俺が軽く戦慄していると、ゴミは察したのか解説を入れてきた。
「いいか、よくミドルとゴミは実質同じじゃね?みたいなことを言っているゴミがいるが、全然違う―――
なるほど?俺は理解でもするかのような素振りをした。よくわからんがその論理展開―――こいつ、
「でまぁ情報なわけだが―――御覧の通りオープンワールド型デスゲーム、アナウンス無しスタート、エンジンは雰囲気的に多分
情報ゴミは流石本職、という感じの手早さで情報を伝達するとすぐさま向き直り、再び地面に向けて手をドリルめいて回転させ始めた。俺は礼を言って周囲に土塊を撒き散らすゴミの元を立ち去った。ふむ、オープンワールド、アナウンス無し、魔法無し………ニュービーの奴らが事故死しそうで怖い条件だ。俺は思案しつつ、その辺に転がってた石ころを拾い上げて視界に入った適当なイノシシを投擲キルし、走り出した。
◆
そもそもオープンワールド型デスゲームとは何か。
古来からデスゲームとは「閉じ込められて行うもの」だ、という共通認識を人間は持っていた。それはデスゲームの"ゲーム"としての
さて、スレで「閉じ込めVRMMO型デスゲーム」の話が出ると、必ずと言っていいほど「相性が悪い!!!」だのと槍玉に挙げられるゲームジャンルがあった。
そう、オープンワールドだ。
オープンワールドってのは閉じ込めの
しかし、彼らは間違っていた――――本人が言うんだから確実だ。
オープンワールドは確かに「閉じ込め型デスゲーム」との相性は良くなかった。
だが、VRMMO型というジャンルが出てきてからみんなが忘れていた
「理不尽型デスゲーム」との相性が、アホほど良かったのである。
◆
散策を始め数十分、さっきその辺の木から剥いできた皮を検証がてら齧りつつ歩いていると、そそり立つ崖とそこに登攀を試みるニュービーらしきアバターを発見。おいおいニュービーにしちゃあ随分と豪快なことをしやがるな……慎重に移動し、警戒しつつ
俺がそんなことを思っていたその時、ニュービーが右手を掛けた崖の部分が唐突に崩れた。ぎょっとしたニュービーは再び崖を掴もうとするがまたしても崩れる、藁をも掴む勢いで崩れない場所を探すが全然ダメ――――俺はそいつを受け止められる位置を慎重に維持しつつ、心中で「
そう、これこそが「理不尽オープンワールドVRMMO型デスゲーム」の基本的な方向性……
「え、あ、あの……なぜあなたがここに?」
こっちのセリフなんだよな……元GMはこっちのセリフオブザイヤー参加賞を受賞した。何、お前も
「おい吐け、お前にこのゲームへログインしろと命令した
誰かに命令されてきたと考えるのが妥当なところだろう。前から気になっていたが、デスゲームに使用されているゲームエンジンは基本的にどれも同じもの―――ゴミ共の間では
「えっ」
元GMが動揺する演技をしている。無駄なことを……俺は高笑いをした。オラッさっさとお前に「君、派遣プレイヤーとしてこのゲームにおけるプレイヤーの"死"のデータを集めてきてくれたまえ……すべては【
「いやあの、誰かに頼まれたのではなく自発的にプレイしているんですが」
元GMは言い訳をした。嘘だな、俺は一蹴した。このゲームは大して前宣伝されていたわけでもない上にフルプラだ、そこそこのゲーマーでなければそうそう手に取ることはないだろう。そしてそこそこのゲーマーというのはある程度デスゲームを経験しているものだ、このハードにリリースされる新作のうち何割かは常にデスゲームが占めているから、片っ端から新作を遊ぶタイプのゲーマーは何度かぶち当たっているはずだ。だが、こいつははっきり言ってデスゲームがエアプとしか思えないほど稚拙な運営形態を取っていた。デスゲームをプレイしていないと見るのが妥当である。つまるところ、
大前提―――デスゲームをプレイしたことがなければゲーマーでない
小前提―――元GMはデスゲームをプレイしたことがない
結論―――元GMはゲーマーではない
の三段論法が成り立ち、これをさらに三段論法に組み込むと
大前提―――ゲーマーでなければこのゲームを自発的にプレイしない
小前提―――元GMはゲーマーではない
結論―――元GMはこのゲームを自発的にプレイしない
となるわけだ。俺は穴だらけの理屈を振りかざしてドヤ顔した。
「いやあの……確かに自発的にはプレイしてないですけど」
元GMは言った。いいぞ……!!!!!そのまま吐いちまえよ、な!いったい誰が原因なんだ、エ?
「あなた、です……」
えっ
「あの、あなたが唐突にログアウトしていってしまったのが心配で、ステータスにこのゲームをプレイしてるって表示されてたから、後を追って、購入……して……」
元GMは言った。オイオイ……俺は冷や汗をかいた。こいつヤベーぞ、フレになって2日も経ってない奴がちょっと急にプレイしだしただけのゲームを普通購入するか?しかもフルプライスで、だ。玄関に来た知らない人に6万円くらいの壺とか買わされてないか心配だぜ……
俺が元GMを心配している、その時。
背後でファンファーレが鳴った。
し、しまった……!!!!!
のんきに首など傾げている元GMと、慌てて振り返る俺。両者の態度にはかなりの相違があったが、見ている物は同じだった―――「GAME CLEAR!!!! Survivors:1129/1129」の文字が光るウィンドウだ。クソがっ、俺はキレた。俺としたことがオープンワールド系デスゲームのもう一つの特徴――――
―――そこで台形ポリゴンに分解された眼球により、俺の視界からドラゴニア・ドライベル・オンラインの世界は完全に姿を消したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます