端集(タウポダト)にて裁(シユ)を打つ
「次は
列車の放送で目が覚めた。ふと遠くに行きたい気持ちになってここにやってきた。別段大した用事があるわけではないが、マナナ北端
「一杯どうだ?」
またこれだ。賭博を眺めていると突然絡まれる。どこでもよくあることだ。
「いえ私、酒は――。音を聞いていただけなので。」
やんわり断ってみる。音を聞いていた、というのは事実ではあるが些か不自然な発言である、と我ながら思いながら。
「音?」
「音です。」
少し間が空いて、男が答えた。
「音、音かあ、確かに、確かにな。」
男は知ったふうな口を叩いた。
「確かに俺らは音を聞くために
ああ確かに。さっき私が「音」と言ったのは、見えないものの比喩としてなのか。言われてみれば私は、見えないものに対する思い入れは人一倍強かった。消えたかどうかも分からない見えないものがなぜだかたまらず愛おしかった。
「なんか悩んでるだろ。」
「えっ。」
図星だ。
「いや、音のことなんですよ。」
「なんだ、耳でも悪いのか。」
「いや、そうではなくてですね。」
「じゃあ何だよ。」
「それが分からないから悩んでいるんですよ。」
「ふーん、そうか。じゃあ――。」
そう言って男は五本の竹の棒、いわゆる
「何本⁈」
「えっ、五本じゃないんですか?」
「残念、ゼロ本だ。」
「えっ、でも確かに音がしたじゃないですか。」
男は握っていた手を開いてこちらに見せてくる。五本の
「叩きつけて跳ねてきた
「どういうものですか。」
「音って、消えるんだよ。」
「でも景色も変わるじゃないですか。」
「さっき
「あ、そうか。そうですね。確かに。なるほど。なるほど。」
「な、そういうものだろ?」
「そうですね。」
私たちは大きな声で笑いあった。音というものは確かに目に見えない。それでも確かにそこに爪痕を残す。しかしそれでも、音はあっという間に消えてしまう。どうしてそれをあったと思えるのか。実のところ、私が音について悩んでいた理由は、その爪痕を残す機序であったのだろう。自らが存在したという爪痕、痕跡はいかにすれば残せるのか。こういった不安と焦燥に駆られ、私は音を気に留めたのであろう。そういえば、ここに来てから色々な音が、耳に入ってくる気がする。
「また明日、ここに来ていいですか。」
「ああ。あ、これ渡しとくよ。じゃあな。」
そう言って男は
その夜、通りを歩いた。大通りさえ薄暗く、裸電球が街をほのかに照らしていた。ぶらぶらと街を歩き、適当な安宿を選び、寝た。夢を見た。真っ白な部屋に一人。少しずつ壁が近づいてくる。天井が落ちてくる。少しずつ、潰されていく。完全に潰されたとき、目が覚めた。
宿を出て、通りに出た。行こう、昨日の裏路地へ。
昨日の街頭賭博の影はそこにはなかった。そこにあるのは素朴な机のみ。懐には
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