三十二 報告
雲海を抜け、地上が見えて来ると、湖の畔に、夥しい数の黒色の何かの集団がいるのが見えた。門大達の前を行くキャスリーカ達を乗せた戦闘機が、その集団の方に向かって降下して行く。
「凄い数カミンな。あれが、機械の兵士達カミン?」
「そうよ。今は、二足歩行形態になってるの。空を飛ぶ時は飛行形態になるわ。ほら。機械と人類が戦ってた世界あったでしょ。あんたが人類側で私が機械側になってて、戦ったとこ。あそこにいる時に作らせたのよ。デザインは、マクロスプラスに出て来るガルドの機体、YF-21を真似たつもり」
門大はクラリッサとキャスリーカの方に顔を向けた。
「あの二人普通に話をしていますわね」
リングケースと剣をとても大切な宝物のように胸の前に抱きつつ、門大にお姫様抱っこをされているクラリスタが言った。
「うん。あの二人って殺し合いをしてるはずなのに」
「そうなる前は愛し合っていたという話でしたわよね。今も、そういうふうに見えますわ」
「クラちゃんとキャスリーカの戦いを止めたいって言い出したのはクラリッサでさ。あいつ、クラちゃんに斬られたクラリッサを見て大泣きしてた」
キャスリーカが門大達の視線に気付いたのか、門大達の方に顔を向ける。
「何? あんた達、なんか言いたい事でもあんの?」
「キャスリーカ。僕もあんなふうに抱っこされたいカミン」
クラリッサがキャスリーカに抱き付いた。
「あんた、いい加減にしなさいよ。今すぐに殺してやろうか?」
キャスリーカがクラリッサを睨みつける。
「キャスリーカは、困った子カミンだなあ。そんなに照れなくってもいいのにカミン」
クラリッサがふるるるると子犬のように体を震わせながら言った。
「凄い目付きだ」
「ええ。あれは本当に殺す気の目ですわ。それに、クラリッサのあの震えようといったら」
地上が近付いて来ると、黒色の集団の近くに、ハガネと人質達三人の姿が見えて来る。
「クラちゃんの御両親とバカと、あれは、ハガネだ」
「お父様もお母様も、ハガネも、皆無事なようですわ」
「うん。よかった。怪我とかはなさそうだ」
「ハガネの横に、猫がいますわね。あれは、門大のいた世界にいた猫に似ていますわ」
ハガネと三毛猫が並んで座っていて、その横に、クラリスタの父親と母親と王子バカが並んで立っていた。
キャスリーカとクラリッサの乗る戦闘機が先に着陸し、門大と、戦闘機の後ろをずっと黙って飛んでいたニッケも、戦闘機のすぐ傍に降り立つ。
「にゃにゃ!! にゃにゃにゃにゃにゃー。にゃにゃにゃん。にゃにゃにゃ」
キャスリーカとクラリッサが戦闘機から降りると、三毛猫とハガネが二人の元へと走って行き、三毛猫が激しく鳴き始めた。
「そう。分かったわ。じゃあ、クロモにハガネ。それと、ニッケも。あんた達は予定通り行動しなさい」
「いよいよカミンね。迎撃の方はどうするカミン? こっちからも打って出た方がいいと思うカミン」
「言い忘れてたけど、あの子達には自走砲形態というのもあるの。とりあえず、それで様子を見ればいいわ」
門大は、キャスリーカ達のそんな会話を聞き、なんの話をしてるんだ? と思ったが、クラリスタの父親と母親、それに王子が自分達の方に向かって走り寄って来ている事に気が付くと、すぐにその事に意識を奪われた。門大はキャスリーカ達の会話の事などすっかり忘れて、急いでクラリスタから剣とリングケースを受け取ると、クラリスタを地面に下ろした。
「クラリスタ。我が娘よ。無事で何よりだ。すまなかった。何もできずにこんな所に行かせてしまって」
父親がクラリスタの目前で足を止め、頭を垂れて泣き始める。
「わたくしも、何もできずに。クラリスタ。許しておくれ」
母親がクラリスタを抱き締める。
「クラリスタ。王都が大変なんだ。そこにいる、キャスリーカはとんでもない女だった。クラリスタ。君の力でその女を討ってくれ。その女を倒す事に成功した暁には、君を僕の妻にしてあげよう。だから早くその女を討つんだ」
王子が言い、キャスリーカを睨んだ。
「お父様。お母様。ご無事で何よりですわ。もう何も心配はいりませんわ。わたくしがお二人を守りますわ」
クラリスタが王子を無視して、父親と母親に声をかける。
「クラリスタ。お前を見捨てた私達を守ると言ってくれるか」
「あなたって子は」
「お父様。お母様」
クラリスタが両手をいっぱいに広げて父親と母親を抱き締めた。
「クラリスタ。再会を喜ぶのは後にしろ。早くあいつを討つんだ」
王子が言って、クラリスタの肩に手をのせようとする。
「触らないで下さいまし。わたくしは、もう、門大と婚姻を結んだ身ですわ。門大以外の殿方には決してこの身は触らせませんわ」
クラリスタが自身の肩に王子の手が触れる前に、王子の手を払い除けて言った。
「な、何をするんだ。反逆だ。謀反だ。二人とも、娘をなんとかしろ」
「ハイエルランス王子。少しの間、黙っていていただきたい。クラリスタ。その、門大、という御人はどこにいる?」
父親が自分の体に回っているクラリスタの腕をそっと優しくどけると、クラリスタの腕の中から抜け出て言った。
「お、お、お前」
王子が怒りに震える声で言う。
「その御人に、ご挨拶をさせてもらわないといけません」
母親が言い、父親の横に並んで立つ。
「お、おい。どういうつもりだ? 僕に逆らうのか?」
「そうですわね。わたくしったら、肝心な事を伝え忘れて言いましたわ」
クラリスタが門大の方に顔を向けた。
「この人が、わたくしの夫となった石元門大ですわ」
「その姿、どこかで見た事があるような」
クラリスタの父親が言った。
「我が家に代々伝わっている絵の中の一つに、確か、その姿を描いた物があります。あなたは、神龍人なのですか?」
クラリスタの母親が、門大の姿を見つめて言う。
「どうも。はい。一応、神龍人です。ご挨拶が遅れてすいません。名前は石元門大といいます。お嬢さんと、その、あの、えっと、結婚を、してしまいまして。なんというか、ごめんなさい。こういうのは、先に挨拶をしてから、ああ。結納とかもありますよね。そういうの全部すっ飛ばして、プロポーズした時も、つい、さっきの事なんですけど、ムードも何もなくって、クラちゃんには、いえ、お嬢さんには、本当に、なんというか、いつも迷惑をかけてばっかりで」
門大の話を聞いていたクラリスタの父親と母親が顔を見合わせる。その姿を見た門大は、言葉を切って、二人の顔を交互に見た。
「なんというか、親しみやすい御人のようだ。神龍人というのは、もっと恐ろしい者だと聞いておりました」
父親が言う。
「わたくしもそう聞いていました。常に怒気を発していて、近付く者には容赦なく雷と炎の罰を与えたとか」
母親が頷いてから言った。
「それは、昔の神龍人の事じゃないですかね。中身が、違うんですよ。まあ、なんていうか、俺は、まだ、なったばっかりなんですけど」
「おい。お前達いい加減にしろ。神龍人。お前は、王都の守護者だったと聞いてるぞ。あいつを倒せ。倒して僕を救うんだ」
王子が門大の傍に来ると、そう言って、門大の板金鎧で形作られている胸の辺りを、拳を握った手で強く叩いた。
「お前。痛いだろ。そうだ。お前には言いたい事がある。お前には容赦しないからな。クラちゃんに、あの時は、俺もだったけど、酷い事言いやがって」
門大は、言って、六つの目で王子を睨む。
「ひいぃっ。や、やめてくれ。殺さないでくれ」
王子が片手で顔を庇うようにして隠し、数歩後ずさる。
「お前」
門大は呟くように言った。
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