三十三 一つの終劇

 キャスリーカが門大と王子の傍に来ると、王子の横で足を止めた。いつの間に出し入れしたのか、二振りの剣はその手にはなく、片手には拳銃を握っていて、その拳銃を握っている手を動かすと、銃口を王子に向ける。




「あんただけには、死んでもらっておこうかな」




「おい。何してんだ。やめろ」




 門大は、反射的に止めに入った。




「何? こいつの事助けるの?」




「このバカは嫌いだし、助けたくないけど、人が撃たれようとしてるんだ。止めるに決まってるだろ」




「面倒臭い奴ね。両親への挨拶もなんだかへっぽこでつまんなかったし。他の人質はともかく、こいつには直接じゃないけど、積年の恨みって奴があんのよ」




 キャスリーカが王子の背後に回り、拳銃のグリップエンドで王子の後頭部を殴った。王子が、ぐひぃっ。という声を上げ、その場に崩れ落ちる。




「お前、なんて事を」




「気絶させただけじゃない。あんたが撃つなみたいな事を言うからこうしたの。でも、まあ、あれね。殺しても意味はないのよね。ここはそういう場所だった。クラリスタの父親と母親。こいつの面倒はしばらくあんた達がみなさい。もう少ししたら、あんた達とこいつは王都に送り返すから」




 クラリスタの父親と母親が王子の傍に行き、二人して王子を介抱しはじめる。




「キャスリーカ。クラリッサ。来たみたいぽにゅ。今、この辺りの上空に集まって来てるぽにゅ」




 ニッケが空を見上げて言った。




「そう。じゃあ、始めるわ」




 キャスリーカが、機械の兵士達の方に顔を向ける。




「あんた達。出番よ。全機、自走砲形態に移行開始」




 キャスリーカの声に反応するようにして、機械の兵士達が可変部分の駆動音を鳴らしながら、変形を開始した。




「何を始める気ですの?」




 クラリスタがキャスリーカに向かって言い、両親の傍に行く。




「あんた達の為にもなる事。後で説明するから、今は黙って見てなさい」




 第二次世界大戦時に活躍した戦艦に装備されていた、三連装砲塔のような形状の物に、履帯が付いている形態になった機械の兵士達が、一斉にその砲口を空に向ける。




「各機、狙いはどう? もう捉えてる?」




 居並ぶ砲口が何かを狙っているかのように、右に左に上に下にと、細かく動き出す。




「いいわね。じゃあ、斉射用意!! 撃てえぇー!!!」




 キャスリーカの号令一下、凄まじい轟音とともに、無数にある砲口から光弾が発射され、炎と黒煙が迸る。クラリスタの父親と母親が酷く驚いた様子で周囲を見回し、同じように驚いているクラリスタが門大の方に顔を向けた。




「クラちゃん。大丈夫だ。お父さんとお母さんもそんなに驚かなくても大丈夫です。何を狙ってるのかは分からないけど、あれは全部、空の上を狙ってるから」




 自身も突然始まった砲撃に動揺し、取り乱しそうになっていたが、クラリスタ達親子三人の様子を見て、俺がしっかりしないと駄目だ。と思った門大は、三人の傍に行き、そう言った。




 砲撃で穴だらけになった雲海の向こう側から、全長が三十メートルはあろうかという強大な何かが無数に落下して来る。




「これだけの数の自走砲の一斉射は壮観カミンね。おっと。早速落ちて来たカミンか」




「こっちも見応えがあるイヌン。龍の雨っていう感じイヌン」




「にゃにゃにゃ。にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」




「クロモも上に行って戦うぽにゅ? 駄目ぽにゅよ。クロモには他の仕事があるぽにゅ」




「クラリッサ。これは、なんだ? 何が起きてる?」




 門大はクラリッサを見て言った。




「お兄にゃふ。クラリスタ。それに、クラリスタの御両親。僕達の茶番に今まで付き合ってもらってしまって、本当にごめんなさいカミン。これが僕とキャスリーカの本当の目的カミン。いや、まだカミンかね。この龍達を、ある程度殺すと、この世界を司ってる神が降りて来るカミン。それを殺すのが僕達の本当の目的カミン。その為に、僕達は今まで、憎み合い殺し合いをしているような芝居をしてたカミンよ」




「芝居、ですの?」




 クラリスタが言うと、キャスリーカが、そうよ。と言って、クラリッサの傍に行く。




「キャスリーカ。君が続きを説明するカミン?」




「それより、クラリッサ。ずっとずっとずっと、こうしたかった」




 キャスリーカがクラリッサの唇に唇をそっと重ね、鳥が餌をついばむように何度か短いキスを繰り返すと、どちらともなく、相手の頭と腰に手を回し、言葉にするのもはばかられるような濃厚なキスをしはじめた。




「おいおいおいおい」




 門大は思わず声を上げる。




「これは、凄い、ですわ」




 クラリスタが両手で自身の顔を覆って隠すが、その手の指はやっぱり大きく開いていて、クラリスタの目はクラリッサとキャスリーカの濃厚なキスシーンをじいーっと見つめていた。




「さっきから何を言っているのかは、今一つ、よくは分からないが、若いっていうのはいい物だな」




 クラリスタの父親が言ってうんうんと頷く。




「そうですね。でも、あなた。わたくし達だってまだ負けてないです」




 クラリスタの母親の言葉を聞いた、キスをしている二人以外の全員が、クラリスタの母親の方に顔を向けた。




「いえ、あの、えっと、なんていうか、その、つい、いえ、なんでもないのです。気にしてはいけません」




 クラリスタの母親が顔を俯けながら、耳まで顔を真っ赤にして言い、父親の陰にそっと体を隠した。

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