替り目<落語>

西尾 諒

第1話 (振り)

落語っていうのは、これはみなさまご承知の通り、江戸から明治にかけてお話の大半が作られているわけでして・・・そうじゃなければ熊さん、とかはっつあん、なんて名前は、これは現代社会においてはそうはありませんね。とはいってもまあ、江戸時代の長屋が熊さん、はっつあん、ご隠居で構成されていたかっていうわけでも、これはございませんで、もしそんなことがあったら、一声、熊さん、なんて声を掛けたら長屋じゅうの男がこっちを振り向くなんて・・・そういうことはございません。どういうわけで熊さん、はっつあんが落語にこう頻繁に登場するのか、それは・・・まあ、後世の研究にお任せすることに致しますが、どうも時代というのはなかなかのもんで、近頃の名前はこれは落語にどうも、ちょっと合わないようでございまして。なんですね、人気の名前といえば、蓮と書いてレン君とでも読むのですかね(2019年明治安田生命調べ)。これで落語を書くと、

「おーい、レンコウ」

って、レンコンを探している八百屋みたいになっちまうわけで。

でも、中にはまだ旧式の名前というのもありまして、八五郎っていう、これは1985年生まれなのかと思いましたら、1965年生まれの男でございます。親が名付けるときに、

「そうだ、生まれ年をつけよう」

と考えたらしいんですが、どうも六五郎だと語呂が悪い。画数も良くないってんで、六の上の鍋蓋を取っちまえ、とこうなりまして、八五郎という名前になったのでございましてね。粗雑な名前の付け方をすると、人柄も粗雑になってしまうようでして。蓋のない鍋のような半端な人柄になりまして・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る