第101話 最終兵器

「遂にサバル国が属国になると言ってきたぞ」

「なんでまた。この時期に」


「今、修正パッチと負の魔力センサーを止められたら、サバルは荒廃どころか滅亡に一直線だ」

「まあ、そうだね」


「それが解決しても白デンチを止められたら困る。黒デンチが害悪だと分かった今は特にそうだ」

「なるほど。ところで火元のエリーズ国はどうなっているんだ」


「酷い被害が出た。ただ、あまり気にしてないな。大地はますます負の魔力で汚染され、作物が育たなくなっているが、ヒースレイから略奪してる」

「それは酷い話だ。ヒースレイに援軍を送らなくて大丈夫なのか」


「ヒースレイは清浄な魔力をたっぷり含んだ野菜の生産地だぞ。国力が違う。魔法が無限に撃てれば、技術の差など関係ない」

「安心したよ」

「まあ、国境沿いの村では少し作物が荒らされたが、全体から見るとほんの僅かだ」

「なんか嫌な予感がするんだよな。気になるので、ヒースレイとエリーズの国境に行ってみるよ」


 国境に行くと小競り合いの真っ最中だ。

 乱戦状態なので手が出せない。


 エリーズの兵士の士気は低いみたいだ。

 反撃を食らうと逃げて行く。

 だが、動員されている兵士が多いので戦線は保たれている。

 逃げる兵士達は何を思ったのか戦場を突き抜けて、ヒースレイ側に逃げて行く。


 俺が近づくと逃げる事もしなかった。

 荒い息を吐いて放心状態だ。


「はぁはぁ、なんだ? 空から降りて来やがって。死神か? こんな地獄からはおさらばしてやる」

「悪いな。死神じゃない。どういう状況か見に来た」

「状況ってあんた、最悪だよ。この一言に尽きる。飯はほとんど食わしてもらえないし。敵はばんばん魔法を撃ってくる。こちらは魔法を撃つたびに悪い物が体に溜まっていく。やってられっか」

「武器を捨てて草原に逃げれば良い。どうしようもない時は逃げても良いと俺は思うな」

「逃げるのは気にならない。今もこうして戦闘から逃げているしな。たぶん戦闘が終わると逃げた罰で飯抜きだろうな。エリーズから脱走か。そりゃ良いだろうな。気に入ったぜ。生きる希望が湧いてきたよ。よし、死ぬか」


 そう言うと男は戦場に戻り草原に逃げろと叫び始めた。

 賛同した兵士が次々に草原の方に逃げて行く。

 その様子をヒースレイ国の人間はあっけにとられて見ていた。

 戦闘は終わった。


 俺はあの男が気になったので、探した。


「生きてたな」

「ああ、死ぬと決めたら、なぜか生き残れた。だが、こんな事は二度とごめんだ」

「今、食料を出してやる。サモン、俺が採ったトマト」


 トマトがみかん箱ほど現れた。


「食って良いのか?」

「ああ」

「おいみんな、差し入れだ」


 トマトに群がって手に取るとかぶりつき、放心したようになってから、一様に泣き出した。


「ちくしょう。美味い。美味すぎて言葉が出ない。体が綺麗になるようだ」

「ちょくちょく食料を届けてやるから、草原まで頑張れ」

「世話になったな。この恩は一生忘れないぜ」


 それから俺はエリーズの兵士の離反工作を行った。

 腹が減って士気も最悪なので、櫛の歯が欠けたようにぼろぼろと離反する。

 小競り合いも起こらなくなったので、俺は国境から手を引いた。


「エリーズから来た兵士の様子はどうだ?」


 俺はランドルフに話し掛けた。


「問題は起こしてないな。弱っているのでしばらく働けないがな」

「金が足りるといいが」

「どれだけ稼いだと思っているんだ。カデンを売った金だけでも余る。百倍は来ても養えるぞ」


 そうか、ピピデの国は豊かなんだな。

 最初が荒野だったから、その時のイメージがまだある。


「良くない物が草原に持ち込まれたですの」

「エーヴリン、それと黒デンチを比べたらどのくらいだ」

「何百倍も邪悪ですの。子供が泣き止まないですの」

「それは大事だな。調べてみる」


 負の魔力を感知すると確かに大きいのがある。

 現場に行くと、兵士が大事そうに壺ほどの物を抱えていた。


「停まれ。それは何だ?」

「最終兵器だと聞いたぜ。これを持って敵陣に突っ込めと言われた」

「なんでここにある?」

「そんなの決まっているじゃないか。誰が自爆なんかするかよ」

「そいつを処理する。ゆっくりと地面に置いて逃げろ」


 地面に最終兵器が置かれる。

 ぴきぴきとヒビが入っていく音がする。

 不味い。


「懇願力よ、浄化しろ」


 駄目だ表層は浄化出来たが、魔力が圧縮してある。

 この物体の正体が分かった。

 黒デンチを大型にしたものだ。


 表層が浄化されヒビは止まったが、こいつをどうしよう。

 修正パッチを貼り付けるしかないか。

 手持ちの修正パッチをありったけ貼り付けたが、浄化には至らない。


「サモン、妻のみんな」


 大精霊が集まった。


「力を貸してくれこれを浄化したい」


「はいですの」

「ええよ」

「いきますわよ」

「頑張る」

「ご助力します」

「こんな物、この世にはいらないな」

「汚物は浄化ですわ」

「やりますか」

「超浄化」


 手がかざされ浄化が始まった。

 薄皮を一枚一枚、剥くように浄化は進んで行く。

 精霊の樹からかなり離れているのでみんなパワーが出ないようだ。


「懇願力よ、彼女らの精霊力を補充したまえ」


 彼女達の気力がマックスになった。

 光が溢れ浄化は終わった。


「ご苦労様。リターン」


 妻達が帰っていった。

 圧縮してある負の魔力がこんなにも厄介だとは。

 密度が濃すぎなんだよな。

 普通の負の魔力が気体で。

 不浄の者とか、特に濃いのが液体。

 黒デンチは固体。

 こんなイメージだ。


 この対策を練らないと大変な事になりそうだ。

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