第83話 戦車登場

 俺は今、前線にいる。

 なぜかと言えば、ランドルフが敵の新兵器が出て来て手に負えないと言ったのだ。

 あれか。

 空中から新兵器を眺める。


 新兵器はお椀をひっくり返した形をしていた。

 お椀には窓が開いており、そこから銃身が突き出ていた。

 これは初期の戦車だな。

 地面すれすれに飛行して詳しく偵察する。

 横は死角だな。

 案外、横から攻めれば平気かも。

 その時、戦車の横に窓が開き銃身が出て来た。

 慌てて高度をとる。


 横に敵が来ると窓の位置を変えるのか。

 そのくらいは考えるよな。

 さっき観察したところ、地面とお椀の隙間から車輪と馬の脚が見えた。


 エンジン搭載って訳にはいかなかったらしい。

 だが、それを実現するのは時間の問題だな。


 ピピデの陣地に戦車が突っ込む。

 戦車は鉄条網魔法など物ともしない。

 そして銃撃戦。

 確かに分が悪いな。


 ピピデの戦士はラクーに乗って陣地から出て騎乗戦となった。

 戦車の動きは遅い。

 ラクーに乗った戦士はヒットアンドアウェイを繰り返すが、戦車の装甲には歯が立たない。

 こう着状態だが、分厚い装甲がないピピデの戦士の分は悪い。


「ランドルフ、状況は分かった」


 俺は本陣に舞い降りて渋い顔してそう言った。


「どうした。そんなに渋い顔するほど戦況は悪くないだろ」

「いや、未来が予想できるとちょっとな」


「なんだ。言ってみろ」

「新兵器、俺はセンシャと名付けたが。それを倒す新兵器は簡単に開発できる。ジライという名前の兵器だ。だがな、これは戦後になると人々が苦しむ兵器だ」

「それは上手くないな」


「俺が魔法や懇願力で倒すのなら簡単だ。だけど、そうすると敵はセンシャを改良してくる。そうなると手に負えなくなる」

「鉱山を潰せばセンシャは作れない」


「それしかないか。とりあえずセンシャは俺が片付けてくる」


 俺は再び空に舞い上がり、センシャを魔法で攻撃できる距離に近づいた。


「ファイヤーアロー」


 丸太ほどの炎の矢がセンシャに当たりセンシャの中を熱した。

 この熱では助からないだろう。

 許せよ。

 侵略してくるお前らが悪いんだ。


 負の魔力が肉体に侵入してくる。

 持っていた野菜を食って負の魔力を打ち消した。


 センシャは全部で20台あったが全て丸焼きにした。

 俺は再び本陣に戻り、ランドルフの前に立った。


「やってきたぞ」

「戦勝おめでとうと言いたいが、今回は負けだな」


「何となく分かる。個の力で集団をなんとかするのは限界があるって事だよな」

「そうだ。今、銃の口径を大きくした物を作らせているが、負けだな」


「それも分かる。敵は同じ物をセンシャに積んでくるって事だよな。最悪の予想だと、人では携帯出来ない大砲を積んで来るかも」

「ミサイルっていう兵器もあるが、これを相手が作ってきたら恐ろしい事になる。仕方ないローテクでなんとかしよう」


「早く話せ」

「センシャの動力は馬だ。穴を掘るんだよ。そうすると馬が足を取られる」

「それはピピデの矜持に反するな。言うまでもないがピピデは遊牧の民だ。ラクーを何より大事にしてる。それをやると戦後、ラクーが苦しむ」

「戦意を下げるような真似は出来ないか。仕方ない、精霊砲で始末しよう。それなら大軍できても対処できる」


 精霊の樹に作戦本部を置く事にした。

 通信の魔道具を作っておいてよかった。

 センシャの情報が続々と入ってくる。


 精霊砲で片っ端から撃破していった。


「奴ら、許せん。馬を酷使するなんて」


 ランドルフが怒りに燃えている。


「センシャを動かしていた馬か」

「ピピデは騎乗できる動物は尊敬している。馬もしかりだ。奴ら馬の力を増す為に外法を使った。力は何倍にもなるが、寿命も何分の一かになる魔法陣だ」


 ピピテの民が精霊砲で撃破したセンシャを調べたんだな。


「戦場で殺すのはいいのか」

「戦場に出て来た騎獣は戦士として扱う。戦いで散っていくのは名誉な事だ」

「なるべくなら戦死は勘弁してくれよ。ピピデの民のみならずラクーもな」

「もちろんだ。出来るだけ長く生きる。戦士としての務めだ」


 戦争は良くないと言っていたが、まさにその通りだな。

 色んな物が犠牲になる。

 出来る限り早く終わらせたい。

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