第82話 飴の技術

Side:サバル国の王


 ピピデと戦争になった。

 事態はよくも悪くもない。

 戦争は景気を良くする。

 これは良い点だ。

 だが、終わると不況だ。

 勝てれば賠償金をとれるが、泥沼の引き分けだとそうもいかない。

 万が一負ける事にでもなれば、俺は王の座から引きずり降ろされるだろう。

 仲の悪かった奴が王位を継ぐ事になれば命も危うい。


「どうだ。戦況は?」


 俺は将軍に尋ねた。


「よろしくないですな。劣勢です。相手は遠距離。こちらは近距離。勝てっこない。辞表を出したいところですな」

「貴族の尻をもっと叩け。奴らが言い始めた戦争だろう」


 元はと言えばピピデの豊かな地が欲しさに辺境の貴族が砦など作るからだ。

 砦を作れば勝てるのなら、戦略などいらん。

 優秀な大工と資材があれば良いのだからな。

 そんな訳があるか。


「よろしいのですか。勝った時には図に乗ること請け合えます」


 それにだ。

 必要な物を揃えるから召喚の儀をやらせてくれと言ってきたので許可を出した。

 貴族は召喚者を連れて出撃していったが結果は散々。


「勝てんのだろう。神器に召喚者までつけてやったのに」

「ええ、情けない事に」


「召喚者の治療はどうなっている」

「清浄な魔力たっぷりの野菜ジュースを飲ませてますが、こちらも良くないですな」

「神器の次の持ち手を探すべきか」

「頭の軽い奴か、奴隷に良いのが居ればいいのですが」

「そちらは見繕っておこう。神器が莫大な負の魔力を集めるとはな。清浄な魔力を注がなかった先祖が恨めしい」

「清浄な魔力を注がなくても威力は変わらないですからな」


「外交官に指摘されて宗教を締め出そうとしたが、無理だったのも癪にさわる」

「貴族は儲かればなんでも輸入してしまいます。仕方ないですな」


「そのくせシゲル教を禁教に指定しようとしたら拒否しやがる」

「それも、仕方ありませんな。貴族がシゲル神の道具に夢中なのですから」


 男が報告に現れた。

 今は忙しいが、男の制服を見て考えを変えた。

 男は白い制服を着ていた。

 これは研究所の職員の制服だ。


「話せ」

「遂に極小の魔法陣を大量に作る事に成功しました」

「でかしたどうやった」

「まず羊皮紙の類は諦めました。凹凸のない物を作れないからです。次に削った木を紙にしようとしましたが、失敗」

「それで」

「次に金属の箔を利用しようとしました。これは既存の技術なので薄い紙ほどの物が作れたのですが、小さく魔法陣を書く所で失敗」

「ふむ、段々とましになってきたな。でどうした」

「書こうとしようとするから失敗するのです。飴を作っているのを露店で見まして、これだと閃いた訳です」

「ほう、飴の技術か。知らんな」

「大きいままの形の顔を作るのです。そしてそれを延ばすと細くなる。細くなった物をどこを切っても同じ顔って訳です」

「なるほど分かったぞ。樹脂で魔法陣を作って細く延ばしたのだな。当然、樹脂には魔力インクを混ぜたのと混ぜないのとで模様を作る。それを細くなったところで切る」

「その通りです。つぶてを飛ばす筒の大きさに出来ます」

「これで相手の優位の一つがなくなった。大量生産の手配をしろ」

「はい、ただちに」


 研究員が去って行った。

 次は戦術だ。


「将軍、相手は茨を作り出す魔法を使うのだったな」

「ええ、そうです。近づけません」

「近づく必要もなくなったが。ピピデの民は目が良いので有名だ。同じ条件では負ける可能性がある」

「鎧を着せれば解決するのではないですか」

「それはもう検討した。撃ち抜かれない鎧は重くて、実用的ではないとの結論に至った」

「ではどうすれば」

「戦車だな」

「戦車というと馬二頭で引っ張って、弓兵と槍兵を載せたあれですかな」

「そうだ。鎧は重くて動けないので駄目だったが、分厚い装甲の戦車なら動ける」

「ふむ、予算がだいぶ掛かりますな」

「設計図を渡して貴族共に作らせろ」

「よろしいので。貴族の戦力が上がりますな」

「戦車の弱点は分かっている。車輪だ。ここを攻められると弱い。貴族が反乱を起こしても鎮圧できる」

「なるほど」

「ピピデの奴らが弱点に気づくまでは優位が保てる」

「そうですな。貴族にやらせてみましょう」


 兵器開発はイタチごっこだ。

 攻略されない兵器はない。

 優位性を確保している時間に如何に上手く振舞うかだ。

 当然戦車の進化系も頭にある。

 開発には金がかかるが仕方ない。

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